アドビ システムズが2012年8月リリースしたWeb制作ソフト「Adobe Muse」は、コードの記述なしにWebデザインを行うことができるという新たなツールだ。このツールの特長や使用事例について、Adobe Muse グループプロダクトマネージャーのダニエル・ビューモント氏にお話を伺った。

Adobe Muse グループプロダクトマネージャーのダニエル・ビューモント氏。過去には、「Business Catalyst」の買収に伴う同社のソリューションとの統合や「Adobe Fireworks」のシニアプロダクトマネージャーなどを担当してきた

コーディングなしでWebデザインを可能にする「Adobe Muse」

Museは、HTMLやCSS、javascriptなどのコーディングをしなくても、デザイナーがWebのビジュアルデザインを行うことができるソフトだ。その開発の背景には、近年のWebを取り巻く状況が関係していた。近年、Webで使われる技術の標準化が進んでいるため、"ソフトがデザイナーのコーディングを代行する"というコンセプトの製品を出すのによい時期だと判断したため、Museをリリースしたのだという。

このソフトを開発するにあたり行われた市場調査によれば、印刷物を中心に手がけるデザイナーの98%が、Museのコンセプトを聞いて「購入したい」と回答。価格などについてもリサーチの結果を基に設定し、Photoshopといったベストセラーの定番ソフトの一機能として搭載するのではなく、新製品としてパブリックベータテストを行った。その結果、120万人ものユーザーが同ソフトをダウンロードしたのだという。

アドビ システムズのMuseは、Web業界の潮流を受けて誕生したデザイナー向けのWeb制作ソリューションだ

Museの登場でデザイナーが"挑戦的"になる作用も

Museの特長は、テンプレートベースでデザインを行うのではなく、まっさらなキャンパスからデザインを組み上げていく点だ。Webデザインの現場では、「Photoshop」でモックアップを制作し、まとまったところでコーダーに渡すというプロセスをとることがある。この場合、コーディングの後にならないと、デザイナーは自分のデザインがどのような形でWebページになるのか、どんな動作をするのかが分からなかった。しかし、Museを用いることにより、デザインを行うとすぐにコーディングをソフト側が行うため、コードとして実現可能かどうかも即座に判断できるという。

また、コーダーを通してデザインする場合、デザイナーは無難に動作するようなものを事前に想定してデザインを行うが、Museのように即座にプレビューできる手段があることで、実験的なデザインにも挑戦するようになっているとのこと。Museで作成した事例を紹介するサイト「Site of the Day」に投稿されている作品には、デザイナーの個性があふれる作品が多数アップロードされている。担当者である同氏から見ても、「こんなことが出来るのか」と驚くこともあるそうだ。

MuseでデザインされたWebサイトの事例が投稿されている「Site of the Day」

利用はやはりDTPデザイナー中心、日本ではある職業の人も活用

同氏は、日本におけるMuseのユーザー層について、「IllustratorやPhotoshopでビジュアルデザインをしている方が多いですね。印刷物を中心に手がける方が多いです」とコメント。また、同ソフトの用途として、自前のサイト構築だけでなく、クライアントへの納品物作成に使用する事例も耳に入ってきているという。また、日本ならではの傾向として、フォトグラファーたちが自身のポートフォリオ作成にMuseを活用している事例が数多くあるのことだ。

また、デザイナーたちがWebデザインを行う際には、プロトタイピングをMuseで行うこともあるのだという。Museを使ってデザインを行うことで、意図している表現がブラウザ上で実現可能かどうかすぐに把握できるため、デザイン案作成時以外にも、客先でクライアントの要望に合わせてデザインの微調整を行う際にも役立つ。また、コードを記述するデベロッパーにとっても、Museによって実現不可能なサイト構造を事前に防ぐことができ、しかもコードが見える状態でデザイン案が手渡されることになるため、業務の効率化につながっているようだ。まだ発展途上にあるものの、Museは「美しいコード記述」の実現を目標としており、2012年8月に行われたアップデート対応などで日々進化を続けている。さらに、その「進化」はユーザーの声を反映して行われている。Museに関しては、日夜フォーラムでユーザーとのやりとりが行われ、同社に在籍するエンジニアでもトップレベルの「プリンシパルサイエンティスト」が、直接ユーザーのリクエストに応えているとのことだ。

最後に、同氏に「日本のユーザーへのメッセージ」を聞いたところ、「世界中の方に同じメッセージを送っているのですが」と前置きした上で、「(デザイナーは)デザインにフォーカスしてください。コーディングについてはMuseが請け負います。PhotoshopやIllustratorと同じように、Museが"創作に与えるパワー"を体感していただきたいと思います」とコメントした。