既報のとおり、セキュリティ・アプライアンスを提供する国内ベンダー「バリオセキュア・ネットワークス」が、インドと米国にヘッドクォーターを置くCyberoam TechnologiesとUTM機器におけるOEM契約を締結した。同社は、「マネージド・セキュリティ・サービス」を標榜し、アプライアンスの開発のみならず、運用サポートなどのアフターサービスも一括して提供する総合セキュリティ企業。官公庁・大企業から数名規模の営業所まで、国内3400拠点もの導入実績を持っている。

これまで、機器の提供から運用サポートまでをまとめて面倒みてきた同社だが、今回販売を開始するOEM製品「VCR(Vario Communicate Router)」では、販売のみに絞ってビジネスを展開する予定だという。クラウドの隆盛に伴い「所有から利用へ」といった言葉がもてはやされている今日において、あえて逆行するような戦略をとる裏にはどういったねらいがあるのか。同社 代表取締役社長の稲見吉彦氏に話を聞いたので、その模様をご紹介しよう。

導入企業のリスクを低減させるマネージド・サービス

バリオセキュア・ネットワークス 代表取締役社長の稲見吉彦氏

まずは、バリオセキュア・ネットワークスのこれまでのビジネスについて紹介しておこう。

同社は、2001年に米国のISP(Internet Services Provider)の出身者数名によりスタートしたベンチャー企業である。2011年より1stホールディングスのグループ会社になっている。

事業の中核を担うのは、マネージド・セキュリティ・サービスだ。同サービスは、自社開発のUTMアプライアンス「VSR(VarioSecure Router)」を月額課金で提供するというもの。導入作業から機器の設定変更、運用サポート、保守対応など、一連のサポートをワンストップで提供している。

アプライアンスの売り切りモデルと比べると、ユーザー企業は「サポート切れなどの問題に悩まされることがないうえ、機器のアップグレードも安価にかつ容易」(稲見氏)に行える。ネットワークセキュリティに関するリスクをトータルに低減できるというのは、非常に大きなメリットだ。

VSRのサービス提供形態としては、「OEMパートナーあるいは販売代理店を通じて提供されるケースがほとんど」(稲見氏)という。OEMパートナーには、国内大手のキャリア、ホスティングプロバイダー、データセンターなどの名前がずらりと並んでおり、それぞれが独自のサービス名でバリオセキュア・ネットワークスのマネージド・セキュリティ・サービスを提供している。

また、アプライアンスに関しては、基本的にハードウェアもソフトウェアも全て自社開発。海外ネットワークベンダーが隆盛を極める現在において貴重な存在だ。しかも、「米国コンピュータセキュリティー監査の最大手であるICSAのFirewall認定を取得している国内唯一のメーカー」(稲見氏)と言い、その高い技術力と、高い評価に裏付けられた先進的な製品はグローバル市場からも求められている。

バリオセキュア・ネットワークスがこれまで提供してきたサービスの特徴

SMB市場でのビジネス展開を強力に推進するために

以上のようなビジネスを展開してきたバリオセキュア・ネットワークスだが、今回新たに提供を開始するVCRでは、真逆に近い販売戦略を展開している。その理由としては、新たにSMB市場をターゲットに置いたことが挙げられる。

新たに提供を開始する「VCR」。左が約100ユーザーにまで対応する「35ia」、右が約50ユーザーにまで対応する「25ia」

同社が昨年度に立案した中期計画で盛り込まれたのが「SMB市場へのアプローチ強化」。今回のCyberoam TechnologiesとのOEM契約締結(こちらはOEMを受ける側)は、「そのSMB市場に向けた新たな施策」(稲見氏)という。

Cyberoam Technologiesは先進的な技術によるネットワークセキュリティーソリューションを提供するグローバル企業である。ここ3~5年で急成長しており、独自のユーザー管理技術を搭載した製品は、SOHOからエンタープライズに至るまでのUTM市場で高い競争力と、技術的な優位性を発揮。米Gartnerが発行する技術評価指標「Magic Quadrant」のUTM市場において、Visionary世界3位に位置付けられている。その製品群は、世界百十カ国に渡って累計5万台以上の販売実績を持つ。特にヨーロッパ、中東、アフリカで急速に導入が進んでおり、アジアではオーストラリアでシェアを拡大中という。

稲見氏は、そのCyberoam Technologiesの製品を同社初のOEM製品として提供するに至った理由について次のように語る。

「Cyberoam Technologiesの製品には、Layer 8テクノロジーというクラウドやSNS時代のセキュリティ対策と親和性の高いユーザー管理技術があります。この優れた技術を日本のSMB市場に最適化し、価格優位性を発揮させることで、今までセキュリティ対策に消極的だった中小企業様に対しても、よりビジネス上安全なインターネット環境をご利用いただくことができると考えました。」(稲見氏)

さらに、今回の施策には、もう1つ大きなチャレンジがある。それは、これまでのようなサポート付きのマネージド型サービスではなく、売り切りモデルで提供するという点だ。そこには、SMBという新たな市場で事業を展開するにあたり、マネージド・セキュリティ・サービスのパートナーとは異なる、SIerや販売会社などといった新しいパートナーとの関係を構築したいというねらいがある。

「これまで提供してきたマネージド型サービスモデルでは、コンサルティング/構築/保守/運用を当社が一括して担ってきました。その部分をパートナー各社に委譲することで、SIer、NIerからも販売いただくことが可能となり、各企業の特長に合わせたソリューションをお客様にご提案いただけるようになると考えています。」(稲見氏)

バリオセキュア・ネットワークス オペレーション本部 企画室 室長 藤田有悟氏

「所有から利用」が叫ばれる昨今において、「所有」にあたる機器セールスを新たに始めるのは時代に逆行しているようにも見える。しかし、市場調査を行った結果、「SMB市場においては意外にも原価償却を好む企業が多かった」(稲見氏)そうだ。そうした声にも後押しされ、VCRの提供に踏み切った。

販売代理ではなく、OEMを選択した理由

OEMという提供形態を選択した同社だが、販売を開始するにあたっては、自社開発を続けてきたベンダーらしく、ローカライズとテストを丹念に行っている。

「ソフトウェアに関しては、日本語化はもちろんのこと、日本独自のネットワーク仕様にも対応できるよう修正を施しています。自社で開発したセキュリティ・アプライアンスのノウハウをそのまま転用できるため、管理画面もスタートアップガイドもわかりやすい日本語になっていると自負しています。検証してうまくいかなかった部分は、日本の仕様を調べたうえでCyberoam Technologiesに伝えて直してもらいましたが、この作業で休日が何日潰れたかわかりませんね(笑)」(バリオセキュア・ネットワークス オペレーション本部 企画室 室長 藤田有悟氏)

バリオセキュア・ネットワークス オペレーション本部 企画室 樋口道夫氏

筐体に関しても、オフィスの景観を意識しながら独自にデザイン。「何パターンか作成したうえで、もっとも日本企業に好まれそうなものを採用した」(バリオセキュア・ネットワークス オペレーション本部 企画室 樋口道夫氏)という。単に海外製品を持ってきて売るのではなくOEMという形態を選んだ裏には、そういった"こだわり"が隠されている。

価格に関しては、前述のとおり中小企業での利用を強く意識した設定になっている。稲見氏は「実際の価格は弊社Webサイトに掲載されているパートナーさんからのご提示になりますが、中小企業の皆様にも十分にご納得いただけるはずです」と自信を見せる。果たしてどこまでの価格メリットが実現されているのか、ぜひとも皆さんの目で確認してほしい。

これまでのビジネスモデルを打破し、SMB市場に向けて準備されたVCR。今後の展開に注目したい。