2012年秋冬モデルとして各社が相次ぎ発表したWindows 8搭載PCのなかでも、他とは異なる雰囲気を醸し出しているPCがある。それが富士通の女性向けUltrabook「Floral Kiss」(LIFEBOOK CH55/J)だ。

「Floral Kiss」(LIFEBOOK CH55/J)

「女性向けと謳っていても、欲しいと思えるPCがどうしても見当たらない。そうした想いを持った女性社員が集まって開発したのが『Floral Kiss』。女心をくすぐり、気分がアガるようなPCを作りたかった」と、富士通ユビキタスビジネス戦略本部パーソナルプロダクト統括部第三プロダクト部・鬼澤美穂氏は語る。

「Floral Kiss」は、女性にターゲットを絞り込んだことで、数々の思い切った「割り切り」に挑んでいる点でも注目されるPCだと言えよう。「Floral Kiss」の商品企画をリードした鬼澤氏に話を聞いた。

富士通ユビキタスビジネス戦略本部パーソナルプロダクト統括部第三プロダクト部・鬼澤美穂氏

女子だけの会議で生まれた"気分がアガる"可愛いPC

2011年6月、東京・汐留の富士通本社内に、8人の女性たちが集まった。いずれも、PCの商品企画、デザインなどの担当者たちだ。これが「Floral Kiss」の始まりであった。

「まるで部活動のような形でスタートした」(鬼澤氏)というこのプロジェクト、当初は、"ガールズPCプロジェクト"と呼ばれたが、「女子高校生向けのPCを企画しているとの誤解を生みやすい」という理由から、途中で"エレガントPCプロジェクト"に名称を変更。その名の通り、年齢を問わず、可愛さ・エレガントさを追求する"大人女子"、"大人カワイイ"といった女性層をターゲットとしたPCの開発に取り組むことになった。

2週間に一度集まり、2時間にわたって行われる会議。それは約2カ月もの間、女性の好みを分析するという作業から始まった。

「いつまでに商品化するという期限を区切らず、また、PCに限定しないというところから話し合いを始めた。部屋の写真を見せあいながら、どんなものを女性は好むのか、可愛いと思うのはどういうものか。最初は、商品化にたどり着くかどうかということすら見えていなかった」と、鬼澤氏は当時の様子を笑いながら振り返る。

終始笑顔で開発の背景を語る鬼澤氏

しかし、このプロジェクトは、社内からもその動向には期待が集まっていた。

「一切妥協をしないで、女性向けのPCを企画してほしい」――。上司からはそんな指示も出ていた。女性だけの視点で、どんなPCが生まれるのかという期待感とともに、市場全体でPCの価格下落が激しい中で、価格だけで選ばれないPCを創出したいという狙いも、上層部がこのプロジェクトに注目する理由の1つだったと言える。

女性だけで自分の欲しいPCを作る、というこのプロジェクトの定例会議では、回を追うごとに参加者たちの想いがどんどん高まり、明確なコンセプトとして仕様がまとまり始めた。

年末年始には、約1000人規模のアンケート調査を実施。これらのデータをもとに企画を煮詰める一方、2月頃から関連部門に声をかけ、商品化に必要な各種情報を入手。そうした作業を経て、鬼澤氏を中心としたプロジェクトチームが、企画書としてまとめ、提案を行ったのは2012年4月のことだった。

鬼澤氏は、その提案会議の様子を振り返りながら、あえて「『女性とは』という言葉を多用した」と語る。女性が欲しいPCとはなにか、女性とはどんなところに可愛いと感じるのか、女性とはどんなPCを持ちたいと考えているのか、といった具合だ。

「一目見ただけで、気分がアガるデザインにすること、そのPCを使っている女性が可愛く見えること、使っているしぐさがエレガントであることが、『Floral Kiss』の基本コンセプトだった」とする。

Floral Kiss。カラーバリエーションはエレガントホワイト、ラグジュアリーブラウン、フェミニンピンクの3種類。専用の丸型マウスを同梱している

PCの商品企画において重視されるはずのスペックは、「Floral Kiss」の場合、提案書にはまったく盛り込まれなかったというのも異例だった。

「女性の視点からいえば、OSにはこだわりがないという結果が出ていたが、購入時に最新OSであること、Windows 8という大きな切り替え時期にあわせて投入することが最適であるということ。そして、何と言っても競合他社から同様の製品が登場しないうちに、いち早く製品化したいという想いから、Windows 8の発売に照準をあわせた」(鬼澤氏)。

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