10月27日にソニーより発売された、オーバーヘッドタイプの密閉型ヘッドホン「MDR-1R」シリーズ。標準タイプの「MDR-1R」と、Bluetoothモデルの「MDR-1RBT」、デジタルノイズキャンセリングシステムを搭載した「MDR-1RNC」の3モデルがラインナップされる。

同社のオーバーヘッドタイプヘッドホンとしては、リファレンスモニター「MDR-Z1000」に次ぐハイグレードなモデルだ。

「HDドライバーユニット」と「エンフォールディングストラクチャー」によって、帯域の広さと低域のパワーを実現している密閉型ヘッドホン「MDR-1R」

「MDR-1R」シリーズとMDR-Z1000には共通点がある。それが、両者が「液晶ポリマーフィルム振動板」を採用した「HDドライバーユニット」を搭載しているという点。液晶ポリマーフィルムは、剛性の高さと広帯域性、内部損失の高さを特徴とする素材で、MDR-Z1000では70mm径、MDR-1Rシリーズでは40mm径のドライバーを使用している。ドライバーの再生帯域は、MDR-Z1000では4Hz~80kHz、「MDR-1R」シリーズでは5Hz~80kHzだ。

しかし、「MDR-1R」シリーズはMDR-Z1000の低価格版という位置付けの製品ではない。MDR-Z1000がモニターヘッドホンであるのに対して、「MDR-1Rシリーズ」は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の協力を得て、最新の音楽事情にマッチしたリスニングモデルとして開発された製品なのだ。

ソニーは2012年4月に、「MDR-MA」シリーズのオープンエアー型ヘッドホンをリリースした。同シリーズ発表の際にソニーは、最近の音楽は従来に比べて低域のレベルが上げられている点を指摘している。「MDR-MA」シリーズはオープンエアー型ではあるが、音楽制作者の意図したとおりに再生するために、低域のダイナミックさを持つヘッドホンとして作ったと語っていた。

「EXTRA BASS」シリーズのようなクラブサウンド向けの重低音ヘッドホンだけではなく、一般の音楽リスニングモデルでも低域再生能力を高めるというのが、最近のソニーのヘッドホンの流れだと言って良いだろう。

コードは着脱式だ

Apple製品用のリモコンが付いたコードも付属する

さて、今回お借りしたモデルは、標準タイプの「MDR-1R」だ。上の写真のように、左側のハウジングに、コードを取り付けるためのジャックが配置されている。コードは2本付属しており、1本はストレートタイプ、もう1本にはApple製品用のリモコンが付いている。長さはどちらも1.2mだ。

イヤーパッドには低反発ウレタンを採用。かなり柔らかめだ。顔の形状にフィットする構造で、低域のエネルギーを逃がさない上、音モレも少ない

イヤーパッドには、低反発ウレタンフォームが使用されている。イヤパッドに触った感触は「EXTRA BASS」シリーズの「MDR-XB1000」に近い柔らかさだ。さらに、幅が狭く、装着時に倒れ込むことで、密着度を高める構造「エンフォールディングストラクチャー」を採用しており、実際にフィット感は良好だ。耳全体を覆うタイプで、側圧も弱めであるため、長時間のリスニングでも負担になりにくい。

試聴は、384kbpsのMP3ファイルをスマートフォンから再生しただけで、特別な機器は使用していない。第一印象は、低域の力強さと高域の伸びの良さだ。HDドライバーユニットのワイドレンジを感じさせるものだが、MDR-Z1000のような解像感や明確な定位を前面に出したサウンドとは異なる。音の広がりもモニター的ではなく、確かにリスニングモデルだ。全体的にMDR-1Rのサウンドは、どちらかというとマイルドだという印象を受ける。

スマートフォンに接続して試聴。低域の力強さと高域の伸びが印象的

これは、ボリュームの位置にも関係してくると思うのだが、ボリュームを中程度で試聴した結果、このように感じられた。中程度というのがどのくらいの音量なのかと尋ねられると困るのだが、仕事中などに音楽を聴く際には、それほど極端にボリュームを上げないが、真剣に音楽を聴きたいときにはボリュームを上げ気味にするという方は少なくないだろう。個人差もあるだろうが、仕事に支障をきたさない程度の音量で聴いている。

同じ楽曲を、同社のエントリークラスのオープンエアー型ヘッドホン「MDR-MA100」で比較して聴いてみると、エネルギー感は、MDR-1Rのほうが圧倒的に高い。それでもMDR-1Rのほうがマイルドに聴こえた。

何曲か聴き比べていくうちに、あることに気付いた。それが、この音量だと、中高域の一部に限って、MDR-1RのレベルがMDR-MA100に比べて低く聴こえてくるという点だ。例えば、"Earth, Wind & Fire"の名曲「September」の出だしの部分。右上のほうでギターを刻んでいる音が聴こえるのだが、これに関してはMDR-1Rのほうが、明らかに抑えめに聴こえてくる。

あくまでも推測だが、これがマイルドに聴こえる原因ではないだろうか。さて、ここまではボリュームを中位置で聴いた際の話だが、ボリュームを上げ気味にして聴くとどうなるだろうか。

スマートフォンでボリュームを最大にして聴いてみると、先ほどのような中高域の抑えめの部分は感じられず、全体的にアグレッシブなサウンドになった。このボリュームでMDR-MA100をつなぐと、低域が若干こもった感じになるのだが、MDR-1Rでは全域に渡りクリアだ。

仕事中と、真剣に音楽を聴くときで音量を変えても、心地良いサウンドになるようにチューニングされていうのでは……というのは、さすがに偏った見方だろうか。

MDR-1Rの登場で、ソニーでは、この価格帯に3種類のオーバーヘッドタイプのヘッドホンを擁するようになった。MDR-1Rのほかは、MDR-XB1000と、オープンエアータイプの「MDR-MA900」だ。

この3本は型式も違うし、重低音ならMDR-XB1000、ヌケの良さと音の広がりならMDR-MA900というように、それぞれ異なった性格を持っている。その中でも一番オールマイティに使えるのが、密閉型でリスニング向きに作られたMDR-1Rではないだろうか。インドアでのリスニングはもちろんだが、音モレも少ないため、通勤通学用としても、使いやすいモデルだといえるだろう。

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