大阪に本店を置くメガバンク。その地下に眠る240億円の金塊を強奪するという大胆不敵な命懸けの挑戦に6人の男が集結した。しかし、計画の過程で謎の事件が次々と発生。次第に明かされる彼らの背景と真実。果たして、"黄金"に人生を賭した男たちの運命は。

井筒和幸
1952年、奈良県生まれ。主な監督作品は『岸和田少年愚連隊』(1996年)、『ゲロッパ!』(2003年)、『パッチギ!』(2004年)、『パッチギ!LOVE&PEACE』(2007年)、『ヒーローショー』(2010年)ほか多数。

11月3日に公開スタートする映画『黄金を抱いて翔べ』。高村薫のデビュー作にして、日本推理サスペンス大賞を受賞した同名小説の映画化作品。主演の妻夫木聡のほか、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン、西田敏行といった豪華俳優陣が脇を固める。今回、監督・脚本を務めた井筒和幸氏に作品の背景、思いを聞いた。

井筒監督が原作ものを手掛けるのは、映画『岸和田少年愚連隊』や『さすらいのトラブルバスター』以来、約16年ぶりのこと。自身がほれ込んだ小説の映画化について、井筒監督はこう語る。

井筒:「うちの書棚に、小説は確か3冊ぐらいしかないのよ。今まで5、600冊読んできたけど、だいたいみんな捨ててんのね。残っているのは水上勉さんの『飢餓海峡』と佐木隆三さんの『復讐するは我にあり』、そしてこの『黄金を抱いて翔べ』。作品の魅力を一言でいうなら、あるかないかわからない金塊を狙うところ。こいつらはこんなことを仕事と考えているような連中で、そういう生きざまや心意気だね。こういうダイナミックなものは、そう簡単には映像化できないだろうなと多くのプロデューサーは思っていたでしょうね。お金がかかるし、準備が大変。みんなやろうとしてリサーチするんだけど、くじけるんだよね(笑)。いろんな話が混じり合っているから、換骨奪胎するのが難しいし。でも、プロデューサーたちが動いてくれないと映画は作れない。たとえ俺がお金を持っていたとしてもね」

映像化不可能とも言われてきた本作。監督が言う換骨奪胎(=新たな要素を加えて独自の作品にすること)とは、どのような部分に反映されているのか。

井筒:「かなりカスタマイズしました(笑)。細かいことをきっちり整理して、携帯を持たない設定をいかにリアリズムに描くか、銀行の内部、ロックシステム、あるいは爆弾の作り方、拳銃の撃ち方・撃たれ方。モモ(チャンミン)の設定に関しても、元工作員の動き方など。錯誤はしてはならないし、再試行を重ねましたね」

映画『黄金を抱いて翔べ』 (c)2012「黄金を抱いて翔べ」製作委員会

妻夫木聡が演じる主人公・幸田弘之は、人間のいない土地に憧れを抱いている男。井筒監督は彼の存在をこう捉えている。

井筒:「主人公が自由を望むでしょ? 彼は人間のいない土地に行きたいと思っていて、そういう土地が見つかれば人間をやめるという哲学を持っている。誰もが思い当たる節はあると思うんですよ。通勤ラッシュの時、誰だって人のいないところに行きたいって思うでしょ? タクシーに乗っていて渋滞に遭った時もそう。そのことがそのまま描かれているわけ。一緒にいて顔をつき合わせてもイライラしない、そういう関係性を今の世の中で望めるのかと。人との対立が疎ましく思うことも多いと思うんです。そういう意味じゃ、この社会は閉塞していて、自由はない。だったらいっそのことどっか行ってしまえってね。そういうときに、人間的なストレスから解放されるんです。そういうことに煮詰まっている奴らが行動を起こすというのが、たまらなく面白い。でもそんな彼らでも、徐々に互いの距離を縮めていくんです。こいつとなら信じ合えるかみたいなね」

妻夫木聡は、井筒監督作に出演するのは今回が初めてとなる。役作りなどの面でどのようなやりとりがあったのか。

井筒:「大して何にもしなかったね(笑)。役柄に関してはその無精髭と普段着でいけばって。その他は言うてないから。説明として原作の背景はしゃべったけど。彼は『悪人』よりもさらに大人らしくなったんじゃないかな。青年から大人、そういう役柄の転換があったかもしれないね」……続きを読む。