新広報スタイルで登場に至った「Windows 8」

2012年10月26日0時。三種類のプレビュー版を経て、GA版(General Availability version:一般提供版)となるWindows 8の販売が行われた。発売に際して、秋葉原では前夜祭量販店での発売記念イベントも開催された。前夜祭の様子などはマイナビニュースにもさまざまなレポート記事が掲載されているが、筆者も深夜イベントから一夜明けた日中に開催された「Windows 8 発売記念記者会見」に出席してきた(図01)。

図01 10月26日に行われた「Windows 8 発売記念記者会見」

2011年1月に開催されたCES 2011でその情報が公開されて以来、筆者はこのOSを今日まで見続けてきたわけだが、気になったのは同社の広報スタイルの変化だ。Windows 8に関しては、以前のバージョンのWindowsで発表~発売の間に行われていた同社エバンジェリストによるテクニカルセミナーや報道関係者向け説明会はほとんど行われず、ブログなど新しいメディアを大幅に活用してきた。そんな同社の新しい広報スタイルを振り返ってみよう。

一般向けに2つのプレビュー版を提供

今回のWindows 8に至る情報公開は以前とは異なるタイミングで行われてきた。かつてのMicrosoftはOSのリリースにあたり、開発者向けのベータテストを行ない、その間作成された開発者向けドキュメントを元に公式なテクニカルドキュメントを作成した。記者やライターはそれらの情報や動作検証を元に記事を執筆していた。しかし、そんなリリースへのステップはWindows 8以前から変化しつつあり、Windows 7でオープンなプレビュー版を用意したのは、読者もご承知のとおり。Windows 8でもこれを踏襲し、Consumer PreviewRelease Previewという一般向けプレビュー版を用意した。これが1つめの変化だ。

広報の主役は説明会/発表会からブログへ移行

また、新しいプロモーションのスタイルに大きく影響を与えたのがブログの存在である。Windows 7でも、同OSの新機能や改善点などを緻密に報告する「Engineering Windows 7」を立ち上げ、メディア関係者だけでなく大多数のコンシューマー(消費者)向けに最新情報を発信した。Windows 8でも「Building Windows 8」というブログを用意し、同様の戦略が用いられている。こういった公式ブログを用意することで、Windows 8の発表から発売に至るまで、これまで行われていた技術説明会や発表会が、あまり開催されなかったように思う(図02~03)。

図02 Windows 7の新機能などを広報してきた「Engineering Windows 7」

図03 Windows 8でも、同様に「Building Windows 8」を用意。英語版だけでなく日本語版も提供された

MicrosoftがWindows 8のプロモーションにあたり、市場的にも成功に至ったWindows 7の広報スタイルを継承し、それをさらに推し進めたのは間違いないだろう。これはこのWindows 8にとどまらず、先にMSDNやTechNetにおけるRTM版(Release To Manufacturing version:製造工程版)提供が始まったMicrosoft Office 2013においても同様と思われる。もちろんOffice 2013のGA版は2013年第1四半期に予定されているため、今後何らかの発表会が行われるのかもしれないが、過去のリリースまでのステップとは異なってくるのではないだろうか(図04)。

図04 RTM版となったMicrosoft Office 2013。バージョンは15.0.4420.1017

これまでの広報スタイルでは、メディアがフィルターの役割を果たしてきた。ブログなどを利用してメーカー側が公開したい情報だけを公開するのは、企業にとって都合がよいという面もあるはずだが、筆者としてはそこを声高に指摘するつもりはない。メディア側の人間として複雑な気分なのは事実だが、一人の消費者として見たとき、多くの情報を広範囲に届けられるブログを有効活用しているという点を素直に評価したい。Webメディアの台頭でコンピューター雑誌が衰退するように、製品プロモーションにおける情報伝達の形も変化していくということだろう。

阿久津良和(Cactus