"ものづくりカフェ"という、これまでになかった業態で注目を集めた東京・渋谷の「FabCafe(ファブカフェ)」。店内にあるレーザーカッターで、さまざまな素材を加工できるのが特徴で、マイナビニュースでも、モレスキンのノートブックをオリジナルデザインに加工したことがある。

このカフェができた経緯には、鎌倉にある"次世代のものづくり研究所"「ファブラボ鎌倉」との深い関わりがある。同施設の取り組みについては以前取り上げたが、ここではこぼれ話として、「FabCafe」の生まれた経緯や両施設の役割分担について、ファブラボ鎌倉のプロジェクトマネージャー・渡辺ゆうかさんに話を聞いた。

東京都・渋谷にあるFabCafeは、カフェとものづくりの場を融合させた店舗だ

FabCafeが登場したいきさつ

――さっそくですが、FabCafeの生まれた経緯について教えてください。

2011年の夏に、レーザーカッターや3Dプリンタ、デジタルミシン、ペーパーカッターといった「ファブラボ」の機材を持ち込んで行った、クリエイターの方々との合宿がきっかけになりました。その場には、FabCafeのFABディレクターを務めている岩岡孝太郎さんも参加していたんです。彼はかつて、ファブラボを日本に持ち込んだSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)の田中浩也教授の研究室に所属しており、FABをもっとカジュアルに楽しめる「FabCafe」という企画を発案しました。彼が、その合宿を一緒に行ったロフトワークにFabCafeの企画を持ち込んだことが、直接的な理由と言えるかもしれません。

私から見ても、FabCafeはとても魅力です。FABの可能性や、新しい"ものづくり"のあり方を、ファブラボ鎌倉とはまた違う形で発信していると感じます。また、キャパシティの面から見ても、ファブラボ鎌倉はFabCafeのように大人数に対応することはできないですし、とてもよい形で役割分担ができています。

――レーザーカッターを設置し、様々な人に使ってもらうという点でFabCafeとファブラボ鎌倉は似たところがありますが、具体的にはどういった役割分担がなされているのでしょうか?

FabCafeでは、たくさんの人にものづくりをしてもらえればと思っています。そして、レーザーカッターの加工だけでは満たされない人について、ファブラボ鎌倉に誘導してもらえたらという期待はありますね。ファブラボ鎌倉では、ソフトやハードを使いこなすトレーニングを行い、ファブマスター、つまり次世代の教育者やクリエイターを育成する場所にしていきたいんです。それと比較すると、FabCafeは作りたい気持ちを満たす場所。そういった形で、役割分担ができればと思っています。そして、"ファブラボ鎌倉でトレーニングを積んだ人が、FabCafeでレクチャーをする"といった流れを作るイメージです。

FabCafeに設置されているレーザーカッター

――ファブラボ鎌倉は開設から約1年半、FabCafeは約8カ月が経過しました。どちらの施設でもワークショップなどを行なってきたわけですが、参加者の反応はどうでしたか。

私からお話できるのはファブラボ鎌倉のことが中心となりますが、根本的なところで、人々が「当たり前に使っているものを当たり前に使いたい」という欲求を持っているのだと感じました。例えば、自分の名刺を入れるカードケースを、自分で作れたら素敵じゃないですか。人から「それ、いいね。どこで買ったの?」って聞かれて、「作ったの!」って答えられる感覚を取り戻せると思うんです。

FabCafeがあらかじめ用意している、iPhoneケースなどの作例

――確かに、現代はモノはつくるのでなく、買うことが前提として動いてしまっているところがありますよね。

その通りです。今は分離してしまっている「生産者」と「消費者」の関係性を、ふたたび融合させることができたら、とも思っています。とはいっても、昔のようなスタイルに戻るのではなく、今だからこそできるやり方で"ものをつくる"感覚を取り戻していきたいですね。

今、注目されているレーザーカッターや3Dプリンタも、あくまで道具のひとつでしかないということを提示していきたいです。現在、ファブラボ鎌倉ではレーザーカッターの使用を一時的に封印して、新たな機材の開拓や、それらをハイブリットに使いこなすトレーニングプログラムを構築中です。実施は来年度を見込んでいます。

手の感触と最新の工作機械、そしてWeb環境を融合させてこそ、今までにない新しいものづくり環境が実現するのだと思っています。

――ありがとうございました。