10月27日(土)より、映画『009 RE:CYBORG』が全国公開される。かつて、戦争ビジネスによって世界の支配を目論む組織「黒い幽霊団(ブラックゴースト)」により、兵器として生み出されたサイボーグたちがいた。彼らは自らを生んだ組織を離れ、幾度となく正義のために戦うこととなる。そして2013年、世界中で連続する高層ビル爆破テロで各国が疑心暗鬼に陥る中、各々の道を進んでいた彼らが、再び集結する――。

原作『サイボーグ009』は、故・石ノ森章太郎氏による名作としてあまりに有名だが、残念ながら未完のままとなっていた。映画の監督・脚本を務めたのは、『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズや『東のエデン』などを手がけた神山健治氏。原作の背景に見える東西冷戦時時代から大きく変化を遂げた現代を舞台に、神山監督は原作から何を引き継ぎ、何に挑んだのだろうか。

また、クオリティの高い作品制作で定評のある「Production I.G」と、『TIGER & BUNNY』の3Dパートや『BLACK★ROCK SHOOTER』など3Dを使ったアニメーション表現を牽引するサンジゲンの共同制作による、フル3D立体視映像も大きな見どころ。インタビュー前編では、本作の公開を目前に映画の企画と映像作りに関する事を中心に、神山監督に話を伺った。

手描きに取って代わるのでなく、新たな才能のための3DCG

神山監督の作品では、これまでにも一部で3DCGが取り入れられていたが、監督自身はキャラクターまで含めて全てCGで作ることを推していたという。その理由はどこにあったのだろうか?

神山健治
1966年(昭和41年)3月20日生まれ。埼玉県出身。高校卒業後、アニメの自主制作に関わった後、スタジオ風雅で背景美術スタッフとしてキャリアをスタート。代表作『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ『精霊の守り人』『東のエデン』など
撮影:伊藤圭

神山監督:「セルアニメで作品を作っていた時から、CGでアニメーションを作ることの可能性みたいなものを模索していました。映像がデジタル化されたといっても、多くのアニメーターが一枚一枚手で描いていくことに関しては、究極のアナログ作業で、そこは全くデジタル化されていない。絵を描く仕事をしたいと思っていても、うまい絵を描くこと自体が特殊能力だから、その部分であきらめてしまう方が確実にいたんですよ。でも、3Dでいったんキャラクターができてしまえば、その先でキャラクターを動かして行く作業は、実は鉛筆で描く場合とそんなに変わらないんです」

キャラクターを動かす絵は必要になるが、必ずしも"うまい絵が描ける能力"が必要とされるわけではなくなる。思い描いた動きをアニメーションで表現するために、絵を描く能力を身につける以外の選択肢が、初めて登場したのだと言える。

神山監督:「デジタルの恩恵をなかなか受けられなかったセクションに、3DCGによって一歩踏み込んで、かつ、クリエイターの裾野を広げて行ける可能性があるんじゃないかなと。手描きをやめてしまうということではなくてね。なんとかそれを実現したいという思いが、これまで作品を作っていく中でもあったんです。今回、3D立体視で映画を作る事がそもそもの企画の骨子の一つだったので、そうなるとやっぱり手描きでは表現が難しい。キャラクターも全て3Dで作る試みを試す事が、企画の段階で可能になったということです」

監督がこれまで考えていたことと、今回の条件や環境が合致したことでそれが実現した。その成果や手ごたえを、監督はどのように見ているのだろうか。

神山監督:「どうしても単純なミスが出たり、イメージがちょっと違うという時に、なかなか大きな変更ができなかったり、直す時間がないというのが、手描きのアニメーションでネックになる部分でした。3Dでも、決して簡単ではないのですが、手描きに比べたらはるかに調整しやすい。さらに攻撃的に絵作りへアプローチしていくこともできたり、そういう部分が圧倒的に大きかったですね」

単純なリメイクにしない、という回答

神山監督は『攻殻機動隊 Stand Alone Complex』の製作に取り組んだ際、"押井守監督が30代の時だったらどう考えたか"という思考をたどったという。今回の作品ではどうだったのだろうか。

神山監督:「原作を改めて読み返した時に、石ノ森先生の追い求めていたテーマとエンターテインメント性が最も高い位置で合致して、物語がいったん帰結したのが、シリーズ最高傑作の呼び名の高い『地下帝国ヨミ編』であろうと感じました。そして多分、作家として、それ以上のスケールや深いテーマを追い求めて『天使編』や『神々との戦い編』にも挑まれたのだなと。もし先生だったら、それをどう終わらせただろうか。もちろん先生と同じ事はできないので、先生が残された証拠、描かれたマンガや、当時おっしゃっていたことなどから推理しつつ、でも僕はこう思うという部分も入れながら、そこを完結させてみたいと。

ひとりの作家がいったんの完結を見て、しかもある種のピークを迎えられた。でも、そこで作家をやめない限りその先に挑戦し続けたと思うんです。たまたま石ノ森先生は『009』を完結させることができなかったわけですけど、それを想像したときに、どういう思いだったのだろうかとか、じゃあどうしたら終わらせられたのかとか……。そこに挑戦してみたいという思いですね」……続きを読む