今や標準的なファイル形式に数えられるPDF(Portable Document Format)が、世にデビューしたのは1993年と約20年前。現在では標準的な電子文書ファイルとして各方面で使用されている。PDFの仕様は以前からAdobe Systemsが公開していることから、多くのアプリケーションがPDFをサポートし、ファイル形式の普及に一役を買っていた。

同社製Acrobatファミリーは、今回のバージョンアップで製品版も「Acrobat XI Pro」「Acrobat XI Standard」の二つが刷新されたが、今回注目するのはPDFの閲覧と印刷機能に特化した無償提供版の「Adobe Reader XI」。製品版のバージョンアップに併せて自身も機能拡張し、最新版では注釈機能が使用可能になっている。さまざまなPDFビューアが存在する中で、Adobe Reader XIを選択する価値があるのだろうか。本稿ではこの点を中心に同ソフトウェアを検証する。

以前からWindows OSを活用してきた方ならご存じのとおり、純正PDFリーダーであるAdobe Reader(以前はAdobe Acrobat Reader)はさほど人気がなかった。ちょうどWindows XP Service Pack 2が登場し、同OSが安定し始めた2000年代中頃は、前述のPDFの仕様公開に伴って、PDFを閲覧・編集するアプリケーションが有償無償問わずに数多く登場している。当時を知る方ならAdobe Readerの代替アプリケーションとして「Foxit Reader」などを愛用していた方も少なくないだろう。

当時のAdobe ReaderはWindows XPが標準的に動作する程度のコンピューターでは起動までに結構な時間を要していた。低スペックコンピューターでは、閲覧までに時間を要し、Webブラウザーから直接PDFを開くアドオンを追加した状態では、当時のインターネット回線速度も相まって、Webブラウザーがフリーズしてしまったのか、と勘違いしてしまうほど待たされることも。このような背景で軽快に動作するFoxit Readerに注目が集まったのである。

その一方でAdobe Readerも自身のパフォーマンス向上に尽力し、バージョンを重ねるごとに自身の起動時間も改善して、サードパーティ製PDFリーダーを使用するメリットは少なくなっていった。大幅な高速化がはかられたのは2008年にリリースされたAdobe Reader 9以降だが、バージョン11にあたる最新版では、注釈機能やフォーム入力機能を強化し、電子署名を追加する機能が備わっている。

進化した編集機能

まず注釈機能は、従来の製品版が備えてきた同機能をAdobe Readerでも使用可能にしたものだ。前バージョンであるAdobe Reader Xでは、ノート注釈やテキストのハイライト表示にとどまっていたが、Adore Reader XIではテキスト置換や取り消し線といった各機能に加え、引き出し線付きテキストボックスや多角形による図形の追加が可能。Adobe Acrobat Xなどを使っていた方にはお馴染みの機能ばかりだが、Adobe Reader XIでもPDFによる校正が行えるようになったは大きい(図01~02)。

図01 こちらは前バージョンとなるAdobe Reader X。注釈機能は最小限に抑えられている

図02 従来は製品版にとどまってきた注釈や図形描画機能が、Adobe Reader XIでは使用可能になった

もう一方のフォーム入力機能も、製品版が備えてきたものをAdobe Readerで使用可能にしたものである。そもそもアンケートなどの集計作業は実に手間のかかる作業だが、以前のAdobe Reader Xではフォームに入力した情報をそのままPDFに保存することはできなかった。一方Adobe Reader XIは入力情報をそのまま保存できるため、そのままPDFを送信してもらうことが可能。つまり、印刷などの手間を省き、より多くのユーザーから情報を集めることが可能になったのである(図03~04)。

図03 Adobe Reader Xではフォームへの入力データは保存できないことを示すメッセージが表示される

図04 同じPDFをAdobe Reader XIで開くと、フォーム入力データの保存が可能になっていることを確認できる