太陽の光をたっぷり浴びた、露地栽培のナス畑

煮たり、焼いたり、炒めたりと、様々な料理法や味付けで楽しめる「ナス」。その歴史は古く、日本では1,000年以上にわたって栽培されている。しかし、そのナスの作付面積全国1位が新潟県であることは、意外と知られていない。

「新潟のナス栽培の主流は『露地栽培』です。だから、作付面積が広いのではないでしょうか」と教えてくれたのは、新潟県農林水産部食品流通課流通・市場係の堀本さん。

なるほど。しかし、広範囲で栽培をしていたら、収穫量や出荷量は多くなるはずでは? その割には、スーパーで新潟県産のナスを目にすることは少ないような……。

「作付面積は1位でも、収穫量や出荷量は1位じゃないんですよ」(堀本さん)

え!? それってどういうこと?

ナスといえば野菜、野菜といえばJA。ということで、知る人ぞ知る“ナス王国”の謎を探るべく、全農新潟県本部園芸部青果販売課の甲野さんにお話を伺った。

どこに消える? 新潟のナス

十全ナスは、新潟では夏の味覚の代表格

「新潟県のナスの作付面積は674ヘクタール。一方で、収穫量は9,020トン、出荷量に至っては2,920トン(2011年度、農林水産省調べ)と、全国的に見てもそんなに多くはありません」(甲野さん)

その理由としては、まず、収穫期が短いことがあげられる。新潟のナスの収穫期は、だいたい6月から8月。1年間の収穫のほとんどがその時期に集中するという。

さらに、栽培のほとんどが「露地栽培」のため、強風で柔らかい実が傷つくなど、気候にも大きく左右されるのだ。例えば2012年は、気温が高かったことでナスの花が落ちたり、病気や虫の被害が多くみられたりしたそうだ。

ふむ。作付面積と収穫量が比例しない理由は分かった。しかし、それ以上に不思議なのは、出荷量が少ないことだ。その理由を尋ねたところ、「新潟の夏の定番として、ほとんど自分たちで食べてしまうから、という理由が一番大きいかもしれません」と甲野さん。

一番おいしいものは、自分たちで食べてしまう。これは、当たり前のことかもしれない。売るのも惜しいというその味を、ぜひ確かめてみたいものである。

長岡巾着ナスは、蒸かして食べるのがオススメ

まん丸のフォルムがキュートな越の丸ナス

色、形、大きさ、食べ方までも様々!

新潟県内で栽培されているナスは約20種類にものぼる。そのため、ナスを用途によって使い分ける食文化があるそうだ。

新潟県内で栽培されているナスは、下記のように分類される。

・「十全」系:黒十全ナス、深雪ナスなど
・「巾着ナス」系:長岡巾着ナス、魚沼巾着なすなど
・「丸ナス」系:越の丸ナス、大福丸ナス、梵天(ぼんてん)丸ナスなど
・「ヤキナス」系:ヤキナス
・「長卵形ナス」系:千両2号、えんぴつナスなど

「巾着ナス」系はふかしたり、みそ漬けにしたりするのがオススメとのこと。「丸ナス」系は煮物やみそ汁、炒め物に、「ヤキナス」系は、その名の通り焼きナスにしてしょうがじょうゆなどで食べられているという。

中でも、新潟市、白根、燕市、柏崎、中之島、塩沢、北魚沼などで栽培されている「十全ナス」は、小ぶりで皮・果実ともにやわらかく、歯切れが良いそうだ。この特長を生かすには、浅漬けが最適とのこと。

十全ナスの浅漬けをガブリとかむと、皮がはじけて漬け汁がジュッと飛び出してくる。他の漬けナスにはない、ジューシーな甘みがたまらない。

ヤキナスは、まるで焼かれるために生まれたような名前である

黒十全ナスは、そのみずみずしさから「梨ナス」と呼ばれている

中には、「白ナス」や「緑ナス」のように県内でもめったに見られないめずらしいナスや、関東の料亭などで使われている「越の丸ナス」など高級なナスもある。しかし、それ以外は県内で普通に出回っているという。近所のスーパーで新潟のナスを見かけた時には、品種にあった食べ方でその味を楽しんでみたい。

残念ながら2012年の収穫のピークは過ぎたが、十全ナスの浅漬けはお土産用としても販売されている。新潟県を旅する時には、チェックしてみよう。