1985年の日航機墜落事故で父親を失った息子たちの四半世紀を綴ったドラマWスペシャル『尾根のかなたに~父と息子の日航機墜落事故~』が10月7日、14日にWOWOWプライムで放送される。そこで、事故により母親と妹を失い、そのショックで体を壊した父親をも亡くした小倉光太郎役の俳優・松坂桃李に話を聞いた。

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――航空機事故というシリアスな内容ですが、撮影を終えての率直な感想をお聞かせて下さい。

松坂「光太郎を演じて、過去を見るということより、未来を見据えた可能性というものを一番感じました。事故で母親と妹を失って、最終的には父親も病気で亡くしてしまうけれど、それで終わりじゃない。起きてしまった現実という辛い部分もありますが、その先にあるあゆみとの出会いとか、希望や可能性というものを強く感じましたね」

――松坂さん自身も、役柄を通して希望や可能性を感じましたか?

松坂「人生というものは必ずしも上手くいくわけじゃない。もちろん、こういう大きな事件とは比較出来ませんけど、例えば受験に失敗してしまったりしても、それで自分の人生が終わりなわけじゃない。その先には、希望を持たせてくれるものや可能性、辛い現実から一歩踏み出せるものが必ずある。この作品の主題は日航機墜落事故ですが、暗く悲しいだけの話ではないです」

――実在する方を演じていますが、役作りについて教えて下さい。

松坂「僕が生まれる前の出来事なので、この題材を扱った映画『沈まぬ太陽』を見たり、監督に光太郎のモデルになっている方の人柄を聞いたりして、人物のイメージを膨らましつつ現場でやり取りをしていきました。実在する方を演じた経験が無かったので、ご本人が観た時にどう思うんだろうと思いながら。でも、いざやってみると役作りの熱量や取り組む姿勢は変わらなかった。今はこの作品を実際に観て頂いて、どのように思われるのか気になりますね」

――繊細さを持った光太郎という役柄についてどう感じましたか?

松坂「彼は、起きてしまった過去に対して砂をかけてるイメージなんですね。それって、いくら砂をかけても意味が無いわけですよ。彼は本当の自分を隠している"自分"に囚われているんですが、あゆみと出会うことによって変わっていく。彼女は僕の懐にポンと入ってくるんですが、実はとても繊細な部分を持っていて。何度か台本を読んでいくうちに、光太郎は自分の気持ちを分かってくれるお母さんのような人と出会えたんだと思いました」

『尾根のかなたに~父と息子の日航機墜落事故~』

――父と子の絆がテーマになっていますが、演じていて良いなと思ったことはありますか?

松坂「今日はクランクアップで子どもたちとの焼肉シーンを撮りました。だから若干焼肉臭いです(笑)。光太郎は息子が3人いるんですけど、僕も3人兄妹。焼肉を食べてるシーンはすごく幸せな気持ちになりましたね。こういう風に息子たちが食べる姿を見て、うちの親父も僕と同じような幸せな気持ちになってたんだろうなと。印象的な台詞があるわけじゃないんですけど、みんなで同じ空間で時間を共有していることが心地良かったですし、今しかない時間を噛み締める感じだった。今までの事や未来を見ることも含めて幸せな瞬間でしたね」