米セールスフォース・ドットコムの年次イベント「Dreamforce 2012」が、米国時間の9月21日、3日間の会期を終えて閉幕した。企業におけるクラウド活用の象徴的存在である同社のメッセージから、今後の企業ITのトレンドをつかんでいただきたい。

米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターにおいて開催されたDreamforce 2012

米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターにおいて開催されたDreamforce 2012は、今年で10回目を迎えた同社のプライベートイベントで、全世界65カ国から9万人以上が事前に登録。「ベンダーが主催するエンタープライズテクノロジーイベントとしては、過去に例をみない最大規模のものになった」(米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO)としている。

米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO

同社によると、ライブ動画配信である「Salesforce Live on Facebook」においても、10万人がバーチャル環境で視聴参加したという。

今年のDreamforce 2012は、いくつかの特徴が見て取れる。

ひとつは、例年よりも規模が拡大したことだ。事前登録者数は、前年に比べて96%増加。Cレベルと呼ばれる「CxO(最高責任者レベル)」の役員は、前年に比べて倍増となる3000人近くが登録したという。

また、同時開催した展示会場の「Cloud Expo X」には、350社の企業が出展し、1000以上のソリューションが展示されたという。

「Cloud Expo X」には、350社の企業が出展し、1000以上のソリューションが展示された

さらに、会期中には、10本の基調講演や、750以上のセッションおよびセミナーが行われ、こちらも過去最大規模のものとなった。

基調講演に登場したヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏

開催初日には、米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOが基調講演を行ったほか、ゲストスピーカーによる基調講演として、ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏、ゼネラル・エレクトリック(GE)の会長兼CEOのジェフ・イメルト氏、米国務長官を務めたコリン・パウエル氏が基調講演に登場。各氏の経営に対する姿勢やリーダーシップ論のほか、環境問題、世界情勢、雇用問題など、幅広い内容に触れられる講演となった。

ゼネラル・エレクトリック(GE)の会長兼CEOのジェフ・イメルト氏

2つめには、これらの基調講演やブレイクアウトセッション、展示会などを通じて、同社の最新製品や、業界の新たな方向性などが発表された点だ。

Dreamforce 2012では、世界初のソーシャルパフォーマンス管理プラットフォームであるWork.comや、あらゆるモバイルデバイスにSalesforce を提供するSalesforce Touch、信頼性の高いSalesforceをベースに、あらゆるデバイス間でシンプルかつセキュアなファイル共有を実現するSalesforce Chatterbox、ソーシャルリスニングから、コンテンツ、エンゲージメント、広告、ワークフローの自動化と効果測定までを統合したスイート製品であるSalesforce Marketing Cloudのほか、Salesforce Platform向けに、単一のソーシャルIDによって、すべてのクラウドアプリケーションへアクセスできるSalesforce Identityなどの追加を発表。例年以上に数多くの製品を発表してみせた。

これらの製品は、「販売」、「サービス提供」、「マーケティング」、「コラボレーション」、「働き方」、「イノベーション」の6つの領域に集約できると同社では位置づけている。

「販売」「サービス提供」「マーケティング」「コラボレーション」「働き方」「イノベーション」の6つの領域から製品を発表

ここで特筆できるのが、これらの一連の製品発表において、実際に先行導入しているユーザー企業の導入責任者がベニオフ会長兼CEOの基調講演に相次ぎ登壇し、その成果を自らの言葉で話していた点だ。

コカ・コーラやバーバリー、Facebook、ロシニョールといったセールスフォース製品を導入している企業のCEO、CIO、CMOが、新たな製品に関してメッセージを伝えていた。

そして、3つめには、今回のイベントが、マーケティング部門の担当者を中心とした内容へと大きくシフトしたことだろう。

ベニオフ会長兼CEOは自らの基調講演のなかで、ガートナーが予測したひとつのデータを提示したが、この予測が今回のDreamforce 2012を通じて、重要なポイントとなっている。それは、「2017年には、CIOが持つIT予算よりも、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が持つIT予算の方が上回る」というデータだ。

今回発表した製品をみても、Salesforce IdentityといったCIOを対象とした新たな製品が発表されたものの、Work.comやSalesforce Touchといった会場で注目を集めた製品の多くは、マーケティング部門担当者に「響く」ものだといっていいだろう。

セールスフォースでは、CIOが担当するバックオフィス系システムよりも、フロント系システムを担当するCMOの役割が今後重視されてくることを明確に指摘。その背景には、ソーシャル、クラウド、モバイルという大きなインフラの変化があることを示してみせた。

ベニオフ会長兼CEOは、「ビジネスはソーシャル」をテーマに約3時間にわたる基調講演を行ったが、「ソーシャルという新たな革命が起こり、この5年にわたり、セールスフォース・ドットコムはそこにフォーカスをしてきた。顧客の声を聴き、それを、製品やマーケティングに反映するためには、ソーシャルを活用することが不可避といえる。今回の製品が業界を次のレベルに引き上げていくことができるものになる」などと語った。

ソーシャルを通じて顧客の声を集め、そこから製品開発やマーケティングを行うには、これまでCIOが構築してきた従来型のシステムでは限界がある。ソーシャルメディアの環境においては、システムのキャパシティ予測が不可能であり、そこに対応するためにクラウドの価値がより高まるという背景がある。そして、多くの顧客や、マーケティングおよび営業現場の社員にとっては、モバイル環境でも利用できるタッチ機能を搭載したタブレット端末やスマートフォンの利用が前提となっており、ここにモバイルが注目される理由がある。

こうした市場環境や技術の変化を捉えて、セールスフォースではマーケティング部門にフォーカスした提案を行ってみせたのだ。

実際、同社によると、例年は3~5%だったCMOおよびマーケティング部門担当役員の参加構成比率は、今年の場合、約20%にまで高まっているといい、参加者の顔触れも大きく変化していることを示した。

ベニオフ会長兼CEOは、「CMO自らがITを知らなくてはならない時代が確実に訪れる」と指摘したが、今回のDreamforceのポイントは、まさにここにあったといえるだろう。