もはや社会のインフラとなっているといっても過言ではないコンビニエンスストア。食品などの販売だけでなくさまざまなサービスを提供しています。その中でも重要なサービスが「コンビニATM」。いつでも使えるATMネットワークとして、多くの方に利用されています。今回は、コンビニエンスストアの取材を24年間にわたって行ってきた著者が、"コンビニ専門家"から見た「コンビニATM」について、2回にわたり執筆します。

コンビニへのATM設置は、20世紀から21世紀への過渡期に始まった。写真は、2002年ごろのセブン-イレブン店舗(※アイワイバンク銀行(現セブン銀行)ディスクロージャー誌2002より)

銀行の「ハブ&スポーク」政策で街に散りばめられた「ATM」

1990年代後半、バブルが崩壊した日本では、銀行の護送船団方式が終わりを告げ、銀行間の競争の時代がやってきました。護送船団方式とは、戦後銀行は行政に守られていて「競争力が無くても破綻はさせない」という考え方です。その安定時代から競争時代に。銀行も経営効率や競争力が問われる時代になったわけです。

また、バブルの後遺症として、不良債権を多く抱えた銀行は規模の拡大やコスト削減など、経営効率が求められるようになりました。都銀同士の統合が急速に進んだのもこの時代です。メガバンクという言葉もこの頃流行りました。そして銀行は合併とともに支店の統廃合も進めます。今まで近隣にあった銀行の支店が同じ銀行になるケースも出てくるので、統合して支店数を減らしていくというのも、大きなコスト削減になります。

ただ、支店の統廃合を進めていくと、預金者にとって今まで近くにあった支店が遠くなり、不便になってしまいます。支店自体は大きくなるのですが、拠点数が減る分リテール(小口金融業務)が弱くなり、預金者の銀行離れが懸念されました。

支店の統合によるコスト削減と預金者の利便性。この2つを実現するために銀行は、「ハブ&スポーク」という政策を打ち出します。「ハブ&スポーク」とは、統廃合により大きな1つの支店をつくり、その周りにATMを散りばめるという考え方です。ATM利用の多くは現金の入出金ですから、頻繁に行なわれる入出金に対しては散りばめたATMを利用してもらう。そう頻繁でない通帳記入やローン相談などは支店まで来てもらう。その体制を確立することで、支店数の減少による不便さを極力小さくするという考え方です。

銀行の街中へのATM設置はさまざまな方法が考えられました。例えばビルの1階などの狭小なスペースを借り切って、自社の「ATMコーナー」を作ったり、各施設などにもATMを置いたりと、それまで銀行の支店にあったATMは外に出て行くようになっていきます。今でも街の中で「ATMコーナー」を見かけることがあると思いますが、この多くはその時の名残です。

以前から「コンビニで今後取扱ってほしいサービス」の第1位は『ATM』

また、この頃は現在のコンビニATMとは違ったかたちでコンビニにATMを置くケースも出てきます。三井住友銀行はampmと提携を結び、全店に銀行においてあるATMと同じものを置き始めます。これ以外にコンビニの1店単位で郵貯や銀行のATMを置くというケースも出てきます。いまでもたまに、コンビニ店内の片隅に銀行所有のATMが置いてあるのを見かけるとこがありますが、これはその頃からものです。

コンビニでは以前から、「今後取扱ってほしいサービス」の第1位にATMが上がっていたので、コンビニとATMの融和性が高いという期待はありました。ただ、コンビニはチェーンビジネスなので1店1店という単位ではなく何千店という単位で政策を進めるので、銀行に置いてあるようなフルスペック型のATMを全てのコンビニに置いていくのは、投資という点で限界があります。

コストが低い「簡易型ATM」をコンビニに置こうという動き

ここでちょっとATMの機器について説明しておきます。ATMは大きく分けて「フルスペック型」と「簡易型」の2つに分けられます。銀行に設置してあるのがフルスペック型で通帳記入や硬貨の取扱いも可能です。現在、コンビニに置いてあるのが簡易型で紙幣での入出金が主な機能(一部振込みや海外送金もできる)になります。

当時、1台あたりのコストはフルスペック型の方が圧倒的に高く、簡易型の2~3倍かかるといわれていました。それだけの高価な機械を4万店もあるコンビニに入れていくには投資の上で難しいですよね。そこで、簡易型ATMをコンビニに置き、その運営会社と銀行が提携を結んで、コンビニでのATMサービスを行なっていこうという動きが出てきました。

20世紀から21世紀への過渡期に始まった「コンビニATM」

1999年9月17日、国内初となるATM運営会社㈱イーネットが設立され、同年10月8日に1号機が稼動しました。イーネットのATMは業界3位のファミリーマートをはじめ、中堅クラスなどの約10チェーンにATMを設置しています。その約1年7カ月後の2001年4月10日、当時の㈱アイワイバンク銀行(現セブン銀行)が設立され、同年5月15日にATMの稼動がスタート。そして、ローソン・エイティエム・ネットワークス(ローソンATM)はアイワイバンクがATMの稼動をスタートさせた同日に設立し、同年10月3日からATMを稼動させました。

2001年よりアイワイバンク銀行(現セブン銀行)が設置していたATM。現在、セブン銀行のATMは全国に17,000台以上が設置されている。(※アイワイバンク銀行(現セブン銀行)ディスクロージャー誌2002より)

現在、この3社のATM稼動台数は、セブン銀行=約1万7000台、イーネット=約1万2000台、ローソンATM=約9500台で合計約3万8500台。この台数は約5万店あるコンビニの8割弱を占め、コンビニに置いてあるATMの約9割を占めるに至っています。

この3社の設立およびATMの稼動時期を見ても分かるように、コンビニATMは20世紀から21世紀への過渡期に始まり、その後も飛躍的に伸びたサービスということができます。その利用数1日約300万件。毎日、これだけ多くのユーザーがコンビニに足を運んでATMを利用しています。コンビニにATM。あるのが当たり前の時代になりました。

次回は、「安心・便利に進化するコンビニATM」がテーマです。

執筆者プロフィール : 清水 俊照(しみず としてる)

「コンビニエンスストア新聞」、「コンビニエンスストア速報」の編集長。最近では社長や主幹などと名乗ることもあるが、実態はコンビニ業界の出来事を自らの表現で伝達していく表現伝達者。「コンビニエンスストア速報」で毎週月曜日、「オフロードの時代」というタイトルのコラムを掲載。ニュース記事にはならない本当の話をコンセプトに、ニュース以上の中身とインパクトの提供を目指している。