離婚とお金の話は、切っても切れない関係。弁護士費用がいくらかかるのか紹介した前編に続いて、今回は、財産の清算や慰謝料、子どもがいる場合の養育費といった夫婦間のお金のやりとりについてとりあげる。「妻の浮気で離婚したい」という40歳会社員男性の相談をもとに、大久保八州彦弁護士に教えていただいた。

40歳会社員男性、結婚10年目です。妻は兼業主婦の36歳会社員、子どもは5歳の女の子がいます。子どもが生まれた年に都内の新築マンションを買いました。価格は購入当時4,500万円で、頭金500万円、35年の住宅ローン(ペアローン)で購入しました。私は離婚後もこのマンションに住み続けたいと思っています。年収は私800万円、妻500万円です。貯蓄は500万程度で、結婚後にためたものです。他に私のへそくりが100万程度、妻は金額不明ですがそれなりの額があるようです。

離婚したい理由は、妻の浮気です。浮気相手とのメールの記録があります。2年くらい関係があったようです。私は子どもの親権が欲しいと思っていて、妻は「離婚するなら親権は譲る」と言っています。養育費、慰謝料を妻に請求したいです。妻は離婚に反対しています。浮気の関係も現在は解消した模様です。

離婚を考えるとき、一般的に考えないといけない重要なポイントは、(1)お互いが「離婚したい」と思っているか、離婚原因はあるのか、の確認、(2)今後の子育てはどうするのか、(3)財産の清算や慰謝料はどうするのか、にまとめることができます。

具体的には、「夫は離婚したいが妻は離婚したくない」というケースでは、離婚原因の有無が主たる問題となります。また、子供がいれば、親権問題や養育費、面接交渉(面会交流)について考えなければなりません。夫婦で築いた共有財産があれば財産分与の問題が生じますし、離婚原因の内容によっては、慰謝料の問題も生じます。

さて、ご相談のケースについて検討してみましょう。

それぞれの新しい人生のために……

2年にわたる浮気……慰謝料は?

まず、相談者は離婚したいご意向のようですが、奥さんは離婚に反対しているため、離婚原因の有無を検討する必要があります。相談者の話では、奧さんが2年程度浮気をしていたようで、その証拠もあるようです。ここでいう「浮気」が性交渉、すなわち、民法上の不貞行為(民法第770条第1項第1号)であれば、離婚原因があると考えられます。浮気を解消した時期にもよりますが、「現在、浮気を解消している」ことは特に関係ありません。

また、相談者は、奧さんの2年程度にわたる浮気により、離婚を決断せざるを得なくなったといえるため、奧さんに慰謝料を請求することができます。慰謝料の額は具体的な事情により異なりますが、2年程度浮気をしていたことに鑑みると、200万円程度が1つの基準になると考えられます。

子どもの親権者になった場合、養育費は?

次に、相談者には奧さんとの間のお子さんが1人いらっしゃるので、まず、お子さんの親権の問題が生じます。この点、相談者は「親権が欲しい」、奧さんは「離婚するなら親権は譲る」というご意向のようなので、相談者がお子さんの親権者になることに問題はありません。相談者がお子さんの親権者になった場合、奧さんに対し、養育費を請求することができますが、養育費算定表を参考にすると、養育費の額は、月々3万円程度になると考えられます。

預金と購入したマンションはどうなる?

また、相談者と奧さんには、結婚後に築いた財産として、500万円の預貯金や新築マンション等があるようですね。夫婦が婚姻中に形成した財産(結婚前に蓄えた預貯金や、相続や贈与によって取得した財産は除きます)は、原則として夫婦が協力して形成したものであり、財産形成に対する寄与の程度は、夫婦平等であると考えられています(いわゆる「財産分与の2分の1ルール」)。そのため、結婚後に築いたことが明確な500万円の預貯金は、250万円ずつ分配することが基本になります。

さて、ご相談のケースで難しいのは、ペアローンで購入した新築マンションの処理です。さまざまな処理の方法が考えられますが、相談者は「今後もこのマンションに住み続けたい」という意向のようなので、別居するまでの負債は夫婦が平等に負担し、別居後は、相談者が負担することが、1つの合理的な解決策になります。

これまで相談者のみがローンの支払いをしていたのであれば、返済した金額の半額を、奧さんに請求することも考えられます。ただし、この場合、ペアローンの名義変更や借り換え等が必要になると考えられるので、契約内容を確認し、住宅ローン会社とも交渉しながら、手続きを進めていくことになります。

離婚は新しい人生のスタート

以上、相談者のケースについて一般論を基に考えてきましたが、その他に考慮すべき事情も多々あり、具体的な事案の内容によっては、上記以外のさまざまな解決が考えられます。

離婚は、それまでの夫婦関係を清算して、今後の新しい人生のスタートする、人生のターニングポイントの1つになります。そこでは、(1)夫婦関係をすべて適切に清算し、(2)少しでも自己に有利な(不利にならない)条件で離婚をすることによって、気持ちよく、新しい人生をスタートすることが重要です。そのためにも、離婚問題が生じた場合には、弁護士による法律相談を受けてアドバイスをもらい、案件によっては弁護士に依頼することをお勧めします。

<著者プロフィール>
弁護士 大久保八州彦
05年神戸大学法学部卒業。08年神戸法科大学院卒業。11年弁護士登録。同年、法律事務所オーセンス入所。第二東京弁護士会所属。離婚問題をはじめ、多くの男女問題を解決しております。「すべての依頼者に最良のサービスを。」という当事務所理念の実現を目指して、依頼者と共に悩み、考え、そしてよりよく多くの選択肢をご提供し、最善の解決を導くためのお力添えができるように心掛けております。
法律事務所オーセンス
http://www.authense.jp/

イラスト: 野出木彩