新千歳空港の側、湿原をサラサラと流れる清流美々川

新千歳空港から直線距離にしてわずか2キロ。大都市や大空港のすぐ近くに、原始の姿そのままに流れる奇跡のような川が存在していることを知っている人は案外いない。勇払原野を静かに流れるその小さな清流の名は「美々(びび)川」。カヌーを担いで行ってみた。

湿原を縫うように流れる小さな清流

札幌圏の人々に、苫小牧(とまこまい)にあるウトナイ湖を知っているかと聞くと、ほとんどの人が「知っている」と答える。野鳥のサンクチュアリ、そしてラムサール条約で指定されているウトナイ湖。しかし、「そのウトナイ湖に注ぐ美々川という川を知っているか」と聞くと、多くの人が「えッ? その川は知らない」と答える。そんなわけで、美々川を知らない人は意外と多いのだという印象がある。

札幌と千歳、苫小牧をつなぐ国道36号線。札幌方面から走り新千歳空港に近づくと、道路脇の草原のような場所を蛇行して流れる川の姿が垣間見える。草原のように見えるのは、釧路湿原、サロベツ原野とともに、「北海道の三大原野」と呼ばれる勇払(ゆうふつ)原野。千歳・苫小牧周辺から太平洋に至る低地帯だ。美々川はその勇払原野を隠れるように流れる小さな清流なのである。

美々川は道路からだとほとんど見えない

美々川はカヌーでくだるのがベスト

湿原を流れる美々川には陸地からアプローチできる地点が限られているため、なかなかその美しさに触れることができない。そこでカヌーを使ってその姿を見に行ってみた。美々川は全長約10キロの2級河川。源流は複数あり、新千歳空港からすぐ近くの場所にある千歳湖から流れ出した水や、湿原の森の中の湧き水が集まり、ゆっくりと一本の川になっていく。

水源からしばらくは、草の間にちょろちょろと水が流れるという雰囲気で、カヌーでは進めない状態がしばらく続く。ようやく水量が安定してくる第2美々橋から川下りをスタートさせるが、しばらくはカヌーの幅ぎりぎりの狭い流れが続くため、必死の舟こぎが続く。流れは極めて緩やか。

背の高い草に囲まれた中に続く一本の水路。その水は透き通っており、陸地では決して味わうことができないなんとも幻想的な雰囲気である。

狭い川も少しずつ広くなり、幻想的な風景が広がり始める

新千歳空港を利用するなら、ぜひ美々川へ

少しずつ川幅が広がり、眺めのいい広い川面が目の前に広がると、いよいよ川下りは最高に気持ちよくなる。時折岸に近づくと、鮮やかな青色をしたカキツバタなどの野生の花が目を楽しませてくれる。

周辺は野鳥の聖域といわれる一帯なので、美しい鳥がしばしば頭上を行き交う。この日はたまたま、のんびりと水上散歩を楽しむ野生の白鳥とも出会った。水上から見えるのは自然の風景そのままなのに、時折新千歳空港を発着する旅客機が空を飛んでいくのもおもしろい。

時間の流れも忘れ、気軽に自然と触れ合える桃源郷のような清流が、札幌から約1時間、新千歳空港からは15分程度の場所にある。なんとぜいたくなことなのか。

湿原ならではの可愛らしい花が、川岸や水面を彩っている

美々川の魅力を堪能するには、なんといってもカヌーで下るのが一番だ。ガイドしてくれる会社も複数あるので、そういった会社を利用すれば身ひとつでも気軽に楽しめる。新千歳空港を利用して北海道に来る人は、行き帰りのどちらでもいい。ぜひ美々川を下ってみてはいかがだろう。

時折カヌーを楽しむ人や野鳥に出会うのも楽しい