レノボ・ジャパンは29日、同社製ノートPC「ThinkPad X1 Carbon」の発表に合わせて、報道関係者向けの発表会と技術説明会を開催。「ThinkPad X1 Carbon」のデザインコンセプトや採用された薄型軽量化技術について解説した。

「ThinkPad X1 Carbon」は、ThinkPadブランドでは初のUltrabook。シリーズ史上最薄となる薄さ18.8mm。14型ディスプレイを搭載するUltrabookとしては世界最軽量となる1.36kgを実現する(主な仕様については発表時のニュースを参照)。5月に行われた製品発表会で予告されていたが、あらためて正式発表となった。

「ThinkPad X1 Carbon」

電源コネクタは角形で「LaVie Z」と共通だという。ただしACアダプタの出力が異なるため共用はできない

レノボ・ジャパン 製品開発統括担当 田保光雄氏

技術説明会に登場したレノボ・ジャパン 製品開発統括担当 田保光雄氏は、「前モデルの『ThinkPad X1』を発表した後、ユーザーの方から『さらに軽く』や『高解像度のディスプレイ』、『よりバッテリー駆動時間を長く』といったご意見をもらった。『ThinkPad X1 Carbon』では、ご意見を反映していい製品になった」と話す。

「ThinkPad X1 Carbon」の本体サイズはW331×D226×H8~18.8mmと、14型ディスプレイ搭載モデルながら、13.3型ディスプレイを搭載した前モデル「ThinkPad X1」と比べて、W6mm、D5mm、H2.5mmコンパクト化した。サイズや重量を削減しつつ、天板にカーボンを採用することで、堅牢性を維持している。

ディスプレイサイズは大きくなりながら、本体サイズはコンパクトに

「ThinkPadらしさ」を見直しつつ、踏み込んだデザイン

レノボ・ジャパン デザイン/ユーザーエクスペリエンス 部長 高橋知之氏

レノボ・ジャパン デザイン/ユーザーエクスペリエンス 部長 高橋知之氏は、「ThinkPad X1 Carbon」のデザインコンセプトとして「新世代ThinkPadのデザインとしての飛躍を目指した」という。「ThinkPadらしさ」を見直しつつ、従来のデザインの仕様にはこだわらずにより踏み込んだデザインとなっている。

「ThinkPad X1 Carbon」では、薄さをより強調するためにくさび型ボディを採用。天板のふち部分や側面部分で、これまでの製品以上に曲面デザインを採っている。特に側面部分は、「ThinkPad X1」以上に絞り込みを行っており、本体手前側が鋭角に見えるようになっている。

「ThinkPad X1 Carbon」のデザインの特徴

本体は薄くなりながら、ThinkPadの持つ「使い勝手」にもこだわり、14型高解像度(1600×900ドット)ディスプレイや、ガラス製のタッチパッドなどを搭載する。ヒンジはThinkPadとして初めてドロップダウンタイプのヒンジを採用。多くの場合、ドロップダウンタイプのヒンジでは、ディスプレイが180度開くことは難しいが、相手に画面を見せるときなどの使いやすさを考え、「ThinkPad X1 Carbon」では180度開くことが可能となっている。

キーボードの配列は、2012年6月に発表された製品とほぼ同等だが、6列目のFキーに仕切りが設けられている。

「ThinkPad X1 Carbon」のキーボード

高橋氏は「多くの部分でこれまでのThinkPadとは変化しているが、ThinkPadとしてのアイデンティティは全く失われていない。全体的な印象としては『ThinkPadらしさ』を感じてもらえると思っている。変わることを目的とした変化ではなく、改善のために変化している。最新のThinkPadが最高のThinkPad」と述べた。

ThinkPad史上最強のカーボン素材

レノボ・ジャパン ノートブック製品 機構設計担当 大谷哲也氏

続いてレノボ・ジャパン ノートブック製品 機構設計担当 大谷哲也氏が登壇。大谷氏はThinkPad誕生当初から20年間にわたってThinkPadの機構設計を担当しているという。

大谷氏はまず、「ThinkPad X1 Carbon」の最大の特長であるカーボン素材について開発。カーボン素材自体、ThinkPadではこれまでにも採用例があるが、「ThinkPad X1 Carbon」では、人工衛星の部品にも使われるグレードの高い炭素繊維を使用。

「ThinkPad X1 Carbon」のに使用されているカーボン素材は世代でいうと第7世代。ThinkPad史上最強だという

人工衛星や釣り竿に使われているようなグレードの高い炭素繊維を採用している

炭素繊維を同一方向に並べ、シート状にした「プリプレグ」を直交方向に重ねた2層の板を2枚使用し、板の間に発泡樹脂を入れることで強度を維持しつつ比重を軽くしている。その結果、一般的なノートPCに採用されるアルミニウムやマグネシウムなどの金属素材と比べても軽く、高強度の素材となっている。

カーボン素材の構造

その分、コストもかかる。「ThinkPad T430」に使用されているカーボンのおよそ2倍、金属素材と比べても高いコストがかかるという。

ThinkPad伝統のトーチャーテストももちろんクリア

キーボードにも妥協なし

薄型化を実現するために、キーボードも見直しが行われた。これまでのThinkPadでは、約2mmのキーストロークが確保されていたが、「ThinkPad X1 Carbon」では0.2mm減らした約1.8mmのストロークとなっている。ストロークが短くなったとはいえ、他社製のUltrabookと比べても深いキーストロークが確保されているほか、ThinkPadの大きなアドバンテージであるキーボードの打ちやすさを損なわない工夫が取られている。

モデル別のキーボードスペック

Fキー間の仕切りが復活

キーボードを薄くするためには、パンタグラフを薄くする必要があるが、ただ薄くするだけではガタつきが起こってしまう。「ThinkPad X1 Carbon」のキーボードでは、「ThinkPad X1」と比較して約50%ガタつきを低減。ガタつきが抑えられることにより、入力ミスも減るという。

パンタグラフのガタつきを低減

防滴性能も向上

また、2012年発表の製品と同様に底付き感を抑えるソフトランディング方式の構造を採用し、長時間の使用でも疲れを軽減する。このほかバックライトを標準で搭載する。

主要サブシステムも新たに設計

薄型化に向けて主要なサブシステムも新たに設計されている。

空冷モジュールは「ThinkPad X1」と比べて、1.7mm薄く、21g軽くなった。ファンを薄型した場合、ファンの回転数を上げて空冷効率を向上させるのだが、回転数が上がると空気の流れが乱れノイズの原因となってしまう。そこで乱流を軽減する整流版をファンに設置して、ノイズを削減する。

新設計の空冷モジュール

ファン内の空気を整えることでノイズを低減

また、静電気によって放熱用のフィンにほこりが堆積してしまうと冷却能力が落ちてしまうが、放熱用フィンをアースに接続、静電気を放電させることでフィンにほこりが付着するのを防ぐ。この機構は2012年発表の製品に採用されている。

静電気を除去し、ほこりの目詰まりを防止する

また、無線LANカードについては従来miniPCIで接続していたが、新たにコネクタの規格を作成し、面積を約25%削減。SSDに関しても「ThinkPad X1」と比べて面積を約90%削減、重量は約60g軽くなった。

SSDを小型軽量化

ニーズに合わせて製品を提供

レノボ・ジャパン 常務執行役員 研究・開発ノートブック製品担当 横田聡一氏

レノボ・ジャパン 常務執行役員 研究・開発ノートブック製品担当 横田聡一氏によると、日本市場では「ThinkPad X230」などに代表される小型のモバイルノートPCと、高解像度を好むユーザーが多いという。

薄さや軽さ、高解像度という面では「ThinkPad X1 Carbon」、イーサネットポートやD-subといったインタフェース、ドッキングステーションやバッテリーなどの豊富なオプション類は「ThinkPad X230」で提供することで、細分化するユーザーニーズに合わせていくとした。

ユーザーニーズに合わせて製品を展開

「ThinkPad X1 Carbon」によってスタートする「第5世代」ThinkPad

レノボ・ジャパン 代表取締役社長 渡辺朱美氏

ThinkPadシリーズは1992年に発表した初代の「ThinkPad 700c」から数えて、今年で20周年を迎える。

2012年4月にレノボ・ジャパン 代表取締役社長に就任した渡辺朱美氏は、大学卒業後日本IBMに入社。エンジニアとして、ThinkPadの前身となるラップトップPCから開発に携わり、その後アジアパシフィックのブランド担当者としてThinkPadに深く関わってきたという。

「デスクトップPCの機能をノートPCに入れるということで、新しいチャレンジがたくさんあった。寝袋を持ち込んで泊まり込みで研究に取り組んだり、除夜の鐘を聞きながら仕事をしたこともあった」と当時を振り返った。

レノボ・ジャパン 取締役副社長 内藤在正氏

レノボ・ジャパン 取締役副社長 内藤在正氏は、ThinkPadが誕生した背景として、「IBMがノートPC開発に必要となるカラーLCDやHDDなどの技術に投資しており、それを実際に製品の形にして届けることになった」と話す。

しかし、社内に技術があってもすぐに使えるわけではなく、ノートPCの開発エンジニアとデバイスのエンジニアが一緒になって、ユーザーが必要とするものを実現するために議論したという。IBMのPC事業の再編もあったが、結果として各デバイスの開発者と一緒にチームとなり、コンポーネントから「次を見据えて」開発を進めてきた。

内藤氏によるとThinkPadの世代として、初代からラインアップを追加していく第1世代、ラインアップを統合、オプションの共通化を図り第2世代、パフォーマンスを上げつつより薄さと軽さを目指した第3世代、「ThinkPad Edge」シリーズが投入された第4世代と分けられるという。

世代ごとのThinkPadの進化

「ThinkPad X1 Carbon」によって第5世代ThinkPadがスタート

「そして『ThinkPad X1 Carbon』はこれからの20年を支えていく、第5世代の第1弾となる製品。それだけ力を入れて開発した」と「ThinkPad X1 Carbon」に自信を見せた。

会場には歴代のThinkPadが集合

B5サイズながらフルキーボードを搭載した「ThinkPad S30」

バタフライキーボードを搭載した「ThinkPad 701CS」。ユニークな機構で復活を望むファンもいるが、内藤氏は「いまは液晶ディスプレイも大きなサイズを使えるので、この機構の出番がない」という