神田外語大学専任講師 神崎正哉氏

勤務先のニーズや自らのキャリア形成のため、TOEICを受け続ける人は多いでしょう。さらなるスコアアップに向けたお勧めの勉強法とは? 神田外語大学で専任講師を務めるTOEIC対策のスペシャリスト神崎正哉氏に読者のレベル別に解説をしていただきました。

スコアアップしたいなら、バランスのとれた勉強を

――神崎先生は自ら運営するブログでTOEIC対策のさまざまな勉強法を紹介しています。スコアアップのために何をすべきでしょうか。

TOEICに向けてとるべき対策は、その人のレベルや状況によって変わってきます。例えば『いつまでたっても400点台から抜け出せない』という方は英語の基礎力が足りないと思います。TOEICをやる前にまずは中学校レベルの基本的な文法や語彙(ごい)を固めるのがよいでしょう。同時に易し目のリスニング素材を使って、英語の音の聞き取りの練習もしてください。

また、極端に点数の取れないパートがあるという人は、自分の苦手なパートのトレーニングを集中的に行って、苦手意識を克服するというのも一つの手でしょう。逆に得意なパートをさらに伸ばすという手もあります。自分の好きなパートの方が楽しんで出来るので、モチベーションも上がります。それに引っ張られて苦手なパートも伸びてくるということもあります。自分の性格に合ったやり方を選んでください。

「英語は昔から得意」「英語圏の大学に留学していた」「海外勤務の経験がある」というような英語力の高い人はTOEICの問題集を解いて、問題形式になれるだけで高得点が期待できます。

――では、初学者向けのお勧めのメソッドを分野別に教えてください。まず、TOEICの後半のリーディングから伺います。

リーディングセクションで必要なのは語彙力、文法力、読解力です。この3つをバランスよく伸ばすようにやるのがいいですね。単語は中学3年間で学習する1,000語に加え、TOEICでよく使われる1,000語覚えることが必要です。

TOEIC頻出語句の覚え方ですが、TOEIC頻出語句を集めた単語帳を使い、1日10個なり20個なり決めて、毎日コツコツ覚えていくというやり方が一般的です。またTOEICの問題を解く過程で出会った知らない単語を拾っていって覚えるというやり方もあります。

『TOEICテスト新公式問題集』シリーズ(TOEICを主催するETSが作成した問題集、以下『公式問題集』)はTOEIC頻出語句の宝庫ですから、問題を解く練習をした後、英文問題中の知らない語句を覚えるようにすれば一石二鳥です。

単語の覚え方ですが、単語カードを使うというのも有効な方法だと思います。表に単語や例文を書き、その裏に意味を書く。そして表の英語を見て意味が浮かぶかどうかチェックする。単語カードを使うと覚えた単語のカードは外して、覚えられていないものだけ繰り返すという調整が可能ですので、効率的な反復練習ができます。

覚えて忘れて覚えて忘れて、というのを何回も繰り返すうちに記憶に定着して行きます。単語カードは持ち運びが楽なので電車の中やちょっとしたすき間時間ができた時、使えるので便利です。

それから声に出して覚えるとよく記憶に残るということもあります。単語やフレーズ、例文を声に出してみてください。覚えやすいと思いますよ。あと手で書いた方が覚えられるという人もいます。試してみてださい。声に出しならがら手で書くなんていう組み合わせ方式も効果があるでしょう。自分に合ったやり方を見つけてください。

どんなやり方でも大切なことは反復練習です。一度覚えても放っておくと忘れてしまいます。復習を必ずしてください。それから単語単体で覚えるのではなく、フレーズや例文で覚えるようにしてください。その方がTOEICでも役立ちますし、実際に英語を使う際も役立ちます。

文法に関しては、中学英語レベルでTOEICのPart 5、6に出題される文法問題の9割以上はカバーできます。ただ、400点台の人には中学校で習う英語がきちんと身についていない場合が多いです。中学英語に不安がある人は『中学校3年間の英語を10時間でやり直す本』などを使って、中学英語がマスターできているか確認してみてください。

昔、高校や大学の受験などで一生懸命勉強した経験のある方は、そういったことは必要ないでしょう。TOEICの問題をやれば昔の感覚を呼び起こせるはずです。単語学習とは違い、文法はまとまった時間を設けて一気に勉強するの可能です。

――リスニングではレベルを問わず、「とにかく声に出すこと」を推奨されているそうですね。

とにかく英語を聞いて、声に出してください。使う素材は何でもかまいませんがTOEICを目指して学習を進めているのであればTOEICの教材を音読の素材に使うのがよいでしょう。例えば、『公式問題集』の模擬問題を解いて、答え合わせをした後、音声CDを使って音の練習ができます。

Part 1、2は文が短いので、聞いて繰り返すListen & Repeatの練習に適しています。聞こえた通りまねして声に出す練習を重ねることで英語の音のパターンを体に染み込ませることができます。英語の音のパターンがマスターできるとリスニングがしやすくなります。

Part 3の会話とPart 4のトークは、暗唱の練習に使ってください。問題を解いて答え合わせをしたら、まず知らない語句や文法のチェックをして意味が理解できている状態にしてください。そして一文ずつListen & Repeatをして音を正確に出せるか確認してください。そうしたら同じ会話・トークを10回、20回、30回と繰り返して音と一緒に丸ごと覚えてください。この練習には利点がいろいろあります。

まず、TOEICのPart 3,4で出題される会話・トークはパターンが決まってきます。『公式問題集』中の会話・トークをたくさん覚えていると、本番で似たような会話・トークに当たる可能性が高くなります。

自分が暗唱したものを同じような会話・トークは聞いて理解するのが容易です。20~40くらい暗唱しているとかなり有利になります。また、会話・トークを暗唱して英語のデータベースが頭の中に出来ると、実際に英語を使う際にも役立ちます。

特にPart 3の会話は英語圏で暮らして仕事をする人が遭遇するであろう場面設定でのものがほとんどですのでそこで使われている言い回しなど、覚えておくと実用的です。

さらに会話・トークを丸ごと覚えることで『英語の回路』ができてきます。暗唱している会話・トークは意味が分かっている英語なのでいちいち日本語に訳さなくても意味が取れます。英語を英語のままで理解できるのです。

そのような会話・トークが増えることで英語の感覚が身に付き、『英語の回路』が徐々にできてきます。それに合わせて総合的な英語力も伸びていくでしょう。

TOEICは苦行ではない。楽しんで学ぶもの

――本番で約700点前後をマークし、さらなるスコアアップを目指す人にはどんな勉強がお勧めですか。

一口に700点と言っても、そのスコアをどのように取ったかによって以後の勉強方法も違ってきます。例えばあまり勉強をせず、最初に受けた試験でそれくらいの点数が取れた方は、『公式問題集』をやって試験形式や問題の問われるポイントに慣れるだけで900点台に届くかもしれません。

逆に、必死にTOEIC対策をした末にやっと700点が取れたという方は、もうTOEICの問題形式や問題パターンは熟知しているので、模擬問題を解いても大幅なスコアアップは見込めません。英語力自体を高める必要があります。

そこであえてTOEICと関係のない英語に触れてはいかがでしょうか。洋画や英語のドラマ、英語ニュースなどを通して、TOEIC対策の勉強では触れる機会の少なかった本物の英語に接するのも良いかもしれません。また、英会話のレッスンを受けるというのでいいでしょう。方法は何であれ、英語力を伸ばすことが、結果的に得点アップへの近道になるはずです。

――900点以上から満点を目指す! そんな方にはどんなアドバイスを与えられますか。

900点以上のスコアを既に持っている方は、TOEICの対策本から学べることは少ないと思います。TOEICレベルの問題は9割以上解けるはずなので。必死にTOEIC対策をして700点台を取った方へのお話と共通しますが、TOEIC教材を使うより総合的に英語力を高める訓練が必要でしょう。もっとも、帰国子女の方などで、全くTOEIC対策をせずに900点台をマークした方は、『公式問題集』をやって問題慣れすることで満点が取れるかもしれませんが。

――得点を問わず、教材選びのコツを教えてください。

『公式問題集』は TOEICの主催者が作ったテキストですから、まず『ハズレ』はありません。今、Vol. 5まで出ていますが、一冊目(Vol.ナンバーなし)と2冊目(Vol. 2)はちょっと古いんで、これから買うならVol. 3、4、5がお薦めです。問題の質的には『公式問題集』が最高ですが、とはいえスコアが400点に届いていない方にとっては、レベル的に難しすぎてしまいます。

そもそもTOEICは、初心者から上級者まですべてのレベルの受験者が同じ問題を解くという試験ですので、ビギナーにとっては難しすぎ、ハイレベルな方にとっては易しすぎてしまいます。

ですから、本番と同じ難易度の『公式問題集』は500点以下の初級者と900点以上の上級者にはレベル的な面で合わないと思います。それでも上級者は生の素材を使ったりできるのでよいのですが、初心者は自分に合ったレベルの教材を探すのが大変かもしれません。もし現在のスコアが400点以下であればTOEIC Bridge用の教材(『TOEIC Bridge公式問題集』など)を使うのがよいでしょう。

『公式問題集』以外の教材を選ぶ基準は、著者がTOEICのことをよく知っているかどうかでしょう。『著者プロフィール』を見て、その著者がTOEICを定期的に受験しているようであれば、ハズレの教材である可能性は少ないと思います。

――最近、数多く開催される対策セミナーの活用法を教えてください。

セミナーに行くメリットは、仲間ができてモチベーションが上がることだと思います。受講生は皆、TOEICを受けるという同じ目標を持っている。そうした人同士で直接触れ合って、情報交換などを行うことは、勉強のやる気アップに効果があります。

モチベーション維持には、『TOEICブログ』を始めるのも効果があります。ブログに学習の記録やTOEICスコアなどを載せると『ブログを書かなきゃいけないから勉強しなきゃ』、『ブログに恥ずかしい試験結果を載せたくないからテストがんばろう』など自分を律することの助けになります。また、同じようにTOEICブログをやっている学習者とコメントのやり取りなどを通して繋がりができていったりもします。そうすることで学習仲間ができて、さらにモチベーションが上がります。

――では最後に、TOEICに挑戦する読者にメッセージをお願いします。

忘れてほしくないのは、TOEICは受験者の英語力を測る試験だということです。英語力とは無関係にスコアだけを伸ばすことも可能ですが、それではTOEICが英語の試験ではなくなってしまいます。試験対策を通して英語力そのものを身につける。TOEICとは、そういう付き合い方をしていただきたいと思います。

TOEICは英語学習に対するモチベーション維持に役立ちます。例えば『今日は眠いから勉強をやめようかな』と思った時、『2週間後にTOEICがあるから、頑張ろう』というように自分を奮い立たせることができます。また結果がスコアという分かりやすい形で出ますので目標の設定もしやすいですし、目標が達成できたかどうかも一目瞭然(りょうぜん)です。英語学習に対するモチベーション維持にTOEICをうまく使ってください。そしてTOEICスコアに比例して英語力も伸ばしていってください。

■お話を伺った人

神田外語大学 国際コミュニケーション学科 語学専任講師。東京水産大学 (現東京海洋大学) を卒業後、渡英。ロンドンで6年間、英語を学ぶ。帰国後、英会話講師になる。2008年8月2008年8月テンプル大学大学院修士課程(英語教授法専攻)修了。TOEIC 990点の他、英検1級、国連英検特A級、Cambridge CPEなど英語に関わる多数の資格を取得。TOEIC受験者のためのブログ「TOEIC Blitz Blog」運営する。

http://toeicblog.blog22.fc2.com/

■主な著書・共著

・新TOEIC TEST 出る順で学ぶボキャブラリー990 (講談社/1680円)
・はじめての新TOEIC TEST 完全総合対策 (IBCパブリッシング/1995円)
・新TOEIC TESTパート3・4特急実力養成ドリル (朝日新聞出版/798円)

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