今年4月からアニメ化され脚光を浴びている『氷菓』の原作となる同名の小説は、無気力系主人公が活躍する学園モノ――というと、「ああ、最近のライトノベルでは定番になった設定だよね」と思うかもしれません。でもこの小説、実は11年前の2001年に発表された作品なのです。

(C)米澤穂信/角川書店

もちろん、昔から同じような設定の作品は多々あるのでしょうけど、『氷菓』を読んで驚いたのはその内容が非常に"今風"だったこと。仮に今年書かれた小説だと言われても、まったく違和感ありません。その意味では時代を10年先取りした小説だったと言えるのかも。なお、本作は作者・米澤穂信のデビュー作であり、現在も刊行されている〈古典部〉シリーズの第一作に当たります。

さて、本作の舞台となるのは、文化系の部活動が活発なことで知られる神山高校。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーにする省エネ主義の1年生・折木奉太郎は、海外を旅する姉の供恵から届いた手紙をきっかけに、廃部寸前の古典部に入部することになります。そこで奉太郎が出会ったのは、「わたし、気になります」が口癖の好奇心旺盛なお嬢様・千反田える。さらに奉太郎の親友・福部里志と、里志に思いを寄せる毒舌の図書委員・伊原摩耶花を加えた4人で、学校の様々な謎に挑んでいく――というストーリー。

正直、この"学校を舞台にした謎"というのは大したことのないものばかりで、たとえば学校が火事になるだの、連続殺人事件が起こるだの、異次元に飛ばされてモンスターと戦うだのといった派手な出来事は一切ありません。出てくる謎は、たとえば「図書室で同じ本を毎週違う人が借りて、その日のうちに戻している。何かおかしい」とか、それくらいのレベルの話です。もしかしたらこのくらいの謎は僕らの身の回りにも転がっているかもしれません。でももし遭遇したとしても、僕なら一瞬疑問を抱くだけですぐ忘れてしまうだろうなぁ。その意味で現代人のメンタリティは、何事にも興味を示さない主人公の奉太郎のそれに比較的近いのかもしれません。

でも、そんな小さな謎も、ヒロインのえるは見逃しません。溢れんばかりの好奇心で「わたし、気になります」と首を突っ込んでいきます。大げさにいえば、この好奇心は僕らが大人になるにつれて失った"若者らしさ"なんじゃないかなぁとも思うのです。

謎そのものは先程も述べた通り、たいしたことのないものばかりなのですが、4人が知恵を絞って「ああでもない、こうでもない」と考え、力を合わせて解決に導く流れは読んでいてとても楽しいし、思わせぶりな演出がないおかげか解決までのテンポも悪くありません。シリアスなミステリを期待して読むと肩透かしを喰らいますが、それぞれに魅力的な古典部メンバーの一員になったつもりで物語に参加すれば、きっと楽しめるはずです。

……もっとも、シリアスなミステリではないといっても、最後の謎だけはちょっと事情が異なります。えるが古典部に入部する理由ともなった"一身上の都合"――その裏に見え隠れするのは、33年前の古典部で起こったとある事件と、『氷菓』と呼ばれる古典部文集に隠された謎。時代を超えて展開されるラストの謎解きには、素直にワクワクさせられました。どんでん返しなどの派手な要素はないけれど、"学園青春ストーリー、ときどき謎"くらいのテンションで気楽に読んでほしい作品です。

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