ホラーや特撮などのジャンルムービーで、国内外から高い評価を獲得している映画監督 井口昇。彼の最新作となる『怪談新耳袋 異形』が2012年8月11日から劇場公開される。人気アイドル スマイレージを主演に迎え、新たな恐怖表現に挑んだ井口監督に話を訊いた。

得体の知れない恐怖を描く異色のホラー映画にしたかった

井口昇
1969年生まれ。『怪談新耳袋』、『東京少女』、『ケータイ刑事』などのテレビドラマシリーズの監督を務める。映画『恋する幼虫』(2003年)、『猫目小僧』(2005年)などで高い評価を得る。『片腕マシンガール』(2007年)、『ロボゲイシャ』(2009年)などの作品は、過激なバイオレンス描写やギャグで、海外でもカルト的な作品として人気を集める。他の監督作品に『電人ザボーガー』(2011年)、『ゾンビアス』(2012年)、『富江 アンリミテッド』(2011年)など多数。また、俳優としても各方面で活躍中

――これまで『新耳袋』は様々な形で映像化されています。井口監督は、今回の『異形』でどうのような新耳袋を目指したのでしょうか。

井口昇(以下、井口)「『怪談新耳袋』(テレビ版)は僕の商業デビュー作品で、想い入れのあるシリーズです。ホラーって面白いもので、撮った後に"自分が思ってたより怖くない"とか、"他人はここで怖がるんだ"とか、毎回新たな発見があるんです。正直、反省もあるし課題が毎回湧いてくるんですよ。今回は、幽霊かどうか定かではない、得体の知れない物が襲ってくる。新耳袋の中では王道なのですが、映像化しにくい話に挑戦したいと思ったんです」

――確かに新耳袋の中でも変わった映画ですよね。特に2話は、これまでの新耳袋にはないタイプの作品でした。

井口「もう、あらゆるJホラー映画が出尽くしているので、『異形』は異色作にしたいと思ったんです。2話は正体不明の赤い怪物が出てくるのですが、あれは原作の全身赤いものが立っている話が原案になっています。あと、3話については、僕の大好きなエピソードをふたつミックスさせています。三面鏡の話と、部屋の天袋から包丁を持った手が出てくるという話をミックスしました」

『怪談新耳袋 異形』
現代怪談ブームを巻き起こした『怪談新耳袋』の劇場版最新作。6人の少女たちが遭遇する様々な恐怖体験を、4話オムニバス形式で描く。
(C)2012「怪談新耳袋 異形」製作委員会

――新耳袋には、怨念話は扱わない、怪談を取材した側の解釈を入れないなどの作風があるのですが、それらのルールは意識しましたか。

井口「新耳袋の良さってあの文体だと思うんです。あのあっけなさだったり、オチを放り投げたまま終わる部分。それにいかに映像で迫れるかは意識しました。恐怖って、どうしてこんな怖いことが起こっているのか、その理由が説明された途端につまらなくなってしまいます。見た人によって解釈が違うのが面白いと思うので、謎は謎のまま放置しています。2話に出てくる赤い怪物にしても、その解釈が皆さん違っていて面白かった」