13億もの人口を抱え、2010年にはついにGDPで日本を抜き世界第2位へと躍り出た中国。この成長著しい超大国が抱える市場は日本企業にとっても非常に魅力的だ。すでに中国市場への進出を果たした企業も数多いが、これから中国進出を検討している企業や、手始めに小さなビジネスから手がけて様子を伺っている企業も多いことだろう。

中国でのビジネスで日本企業が失敗する要因として指摘されるのが、言葉や商習慣、人々の気質や価値観を含めた文化の違いや地理的問題などだ。中国でのビジネスを考えるならば当然、こうした中国市場ならではの事情について、過去の事例を含めて学んでおく必要がある。

そうしたなか、中国を含めた海外展開を視野に入れている、もしくは生産管理や受発注・在庫管理のシステム刷新を検討している主に国内の製造業を対象に、インフォアジャパンが「Infor Japan海外展開セミナー:中国市場攻略のための処方箋」を開催したので、その内容をお届けしよう。

中国市場を制す者がグローバル市場を制す

日本能率協会コンサルティング 取締役 中国法人董事長 横田正仲氏

最初に登壇したのは、日本能率協会コンサルティング 取締役 中国法人董事長の横田正仲氏だ。同氏は、現地でのコンサルティング実績をベースに、中国市場攻略のためのポイントを説明した。

横田氏は初めに、中国を巡る最近の動向について概要を説明。日本の26倍もの国土を有する中国は、多民族で構成されており地域によって生活習慣も嗜好も大きく異なる。「この国の多様性をどのように攻めるかが大切。また、主に沿岸地域から発展を遂げているため、発展途上にある内陸部の市場がこれから魅力的な市場となることも忘れてはならない」と横田氏は言う。

経済の急速な発展に伴い、人件費もまた高騰している。中国国内の人件費はこの7年の間になんと2倍に上昇しているというのだ。そして今後はますます上がり続ける見通しだという。

「中国内での調達コストの上昇にもつながる問題。いかに人件費に見合うよう人材能力を上げるかがこれからの課題となるだろう」

現在、第4次中国ブームだと言われる。これまでの3回のブームとの相違点は、中堅中小企業が積極的に進出している点や現地市場販売が主目的になっている点などだ。

横田氏は主張する。「今度の中国ブームはこれまでとは違う。本格的な中国市場開発競争の時代へと突入したのである。そこでは日本でのブランドは通用しない。だからこそ、中国で人を雇用しながら足場を築くことが大事。中国市場を制す者がグローバル市場を制すと言っても過言ではない」

中国人と日本人との意識のギャップを理解したマネジメントを

中国市場を開拓する際、企業が陥りがちなジレンマがある。それは、「何から着手すればいいのかわからない」「中国市場のリスクが見えず検討が思うように進まない」「中国市場開発に向けた体制が組めない」「人材が不足し決定すべき事柄が決定できない」といったことだ。

このようなジレンマに陥らないためにも、横田氏は、「噂や曖昧な情報を信じて勝手な思い込みをせず、正しい手法で中国市場を調査して客観的な情報から判断を下すようにしたい。そして、何よりも実際に自分の目や耳で確かめ、考え動きながら修正していくことが重要」と説く。

また、中国人従業員をマネジメントする場合に留意すべき点としては、中国人経営トップ・幹部人材の育成、キャリアアッププランの明示、信賞必罰な人事評価制度の再構築と運用、中国人気質を考慮した人材採用戦略などが挙げられた。

そこで踏まえるべきは、日本人と中国人との就業意識のギャップだ。横田氏によると、中国人の全体的な就業意識には次のような特徴があるという。「結果にこだわるがプロセスには関心が薄く、押し付けられるのを嫌うが任せられると力を発揮する」「就社ではなく就職という意識のため会社ロイヤリティが低い」「徹底した個人主義で実利主義である」などだ。こうしたギャップを理解しつつ、現地で人材を育成することが肝要なのである。

中国ビジネスのリスクとその回避法とは

中国で事業を展開するには、中国の国情を反映したリスクも生じる。よく挙げられるのは、知的財産権保護にまつわる問題、法制度未整備と運用の問題、労務上の問題、税務上のリスク、人件費の上昇などだ。これらのうち、労務上の問題と人件費の上昇が絡んだ問題として昨今よく取り上げられるのが、現地従業員によるストライキである。

この問題の回避策として横田氏は、「定期的なコミュニケーションの場をつくり現地の声をよく聞くとともに、現地の経営側と管理者の一体感を形成する、金銭以外での社員への優遇策を図るなど、ストライキという事態にならないよう日頃からの取り組みが大切だ」とアドバイスする。

中国でのITシステムにもリスクはある。それは、製造実績データ等の入力精度の低さや現地人材のスキル不足などに起因するものである。このようなリスクを低減するためには、プロジェクト体制の工夫やシステム導入前の業務のシンプル化、教育やマニュアルの整備などといった対策が必要となる。

横田氏は、「1つのパッケージシステムに集約するなど、シンプルな仕組みづくりを心がけたい」と語った後に、次のように続ける。

「中国でのあらゆるリスクを減らすために共通して心がけるべきは、『郷に入れば郷に従え』ということだ。しっかりとした基本を身に付けていれば、どんな変化にも対応できるだろう」

これまでに取り上げた事柄を踏まえて、横田氏が最終的に中国市場進出のカギを握るとするのは、日本人駐在員である。現地の日本人スタッフが適切なマネジメント能力とコミュニケーション能力を発揮することができれば、中国でのビジネスに大いに期待が持てるというわけだ。

「中国では日本のような"あ・うん"の呼吸は伝わらない。大切な事はきちんと伝えるようにしなければいけない」

最後に横田氏は、会場に向けて次のようなメッセージを贈り、壇を後にした。

「中国市場の魅力はまだまだ語り尽くせないほどたくさんある。今回お話した内容などを参考に、ぜひこれから必要な準備に取り掛かって、中国市場でのビジネスの成功に結び付けていただきたい」

ITを活用してサプライチェーンの最適化を

インフォアジャパン ビジネスコンサルティング本部 佐藤幸樹氏

続いては、インフォアジャパン ビジネスコンサルティング本部の佐藤幸樹氏が、「これからの中国事業拡大に必要な管理の仕組みと、それを支えるIT基盤」と題して講演を行った。

佐藤氏はまず、横田氏の講演内容を受けて「人材や販売、コスト削減といった課題に対しては、ITで解決できることも多々あるのではないか」と問いかけた。

インフォアは、40ヵ国180ものサポート拠点を有し、製造業のERPやSCMソリューションをグローバルで展開する。その顧客は7万社以上に上る。そうした同社のソリューションを活用することで、中国でのサプライチェーンの最適化、ひいてはビジネス全体のスピードと対応力の向上を実現できるというわけだ。

中国の国土は広大であり、沿岸部から内陸部へと大都市が散在していることから、サプライチェーンはきわめて複雑となる。佐藤氏は、「中国では、サプライチェーンのトータルコストの把握がより一層重要になる」と主張する。

いつ、どこで、どれだけ生産し、どのように輸送すればコストがどれだけかかり、売上はいくら見込めるのか?──これらを踏まえたサプライチェーンの計画と実行を可能にするのが、インフォアが提供する「Infor10」ソリューション群である。

このうちサプライチェーン計画系のソリューションとなるのが、SCM部門や需給調整部門がサプライチェーン全体の最適な需給計画を立てるのに貢献する「Infor10 Advanced Planner」と、ローカル販売会社で需要予測と販売計画を立てるのに資する「Infor10 Demand Planning」だ。加えて、工場での実現可能で最適な生産日程計画の作成をサポートする「Infor10 Advanced Scheduling」も用意されている。

「現地でもサプライチェーン計画を考えることはビジネス成功の必須条件と言ってもいいだろう。それができるのが、当社のソリューションの強みだ」

グローバル経営にスピードをもたらす生・販・財を一気通貫するシステム

インフォアジャパン ビジネスコンサルティング本部 石田雅久氏

さらにインフォアのソリューションを使えば、製造と販売の需給バランスをグローバルレベルで最適化して、ビジネスでの競争力を強化できるとして昨今注目を集める、S&OP(Sales & Operations Planning)も実践可能となる。

S&OPの基本的なプロセスは、販売に関わる事業計画と供給側の生産計画を同期してオペレーションを回していくというものだ。そこでは、経営層から開発、販売、生産、物流、調達といったさまざまな部門が情報を共有しながら、計画に基づいてオペレーションを遂行することに重きが置かれる。Infor10は、こうした一連のプロセス全体を、中国などの現地法人を含めたグローバルレベルでカバーできるところに特徴がある。

佐藤氏は訴える。「グローバルにガバナンスを効かせてS&OPを実践するには、中国でも日本本社でもしっかりとした管理ができる仕組みが重要になる。しかし、情報システムがバラバラではスピード感や情報の精度に影響してうまくいかない。すべてのプロセスを統合して管理できるシステムが必要なのだ」

生産から販売、財務までを一気通貫で管理するための要となるのが、基幹システム「Infor10 ERP Business(Syteline)」である。Sytelineは、グローバルで約5,500社の導入実績を誇る。とりわけアジア諸国で強く、導入企業数は約1,400社に及ぶ。なかでも、中国での導入実績が最も多く264社となっている。中国会計に対応しているのも同国での導入実績が高い理由と言えるだろう。

「グローバル化の進展で、海外で通用するパッケージが強く求められるようになっている」と佐藤氏。

日本インフォアでは、日本の製造業の顧客がグローバル、特にアジア地域にビジネス進出を支援するために、專門組織となる「グローバルビジネス支援機能」を新設するなど、体制強化を図っている。佐藤氏は、「日本企業が中国そして世界各国の市場を勝ち取るための支援により尽力していきたい」と強調して講演を締めくくった。

セミナーの最後には、インフォアジャパン ビジネスコンサルティング本部の石田雅久氏による、同社のソリューションのデモやシステム導入ステップに従ったシミュレーションなども披露された。

同氏は、実際にSytelineなどをグローバル導入した同社顧客の事例を紹介。グループ経営状況の可視化などによって経営層レベルの課題が解決しただけでなく、部門マネージャー、現場担当者、それぞれの層でさまざまな課題を解決し、生産性を高めていることが明らかにされた。

石田氏は最後に、佐藤氏と同じく日本企業の中国進出のさらなる支援強化を宣言し、今回のセミナーの幕が閉じた。