【インタビュー】

被爆者の実情を描いた入魂のドキュメンタリー映画『夏の祈り』制作秘話

1 TVドキュメンタリーではできないことを自主制作で実現

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ドキュメンタリー映画『夏の祈り』より
(C)2012 SUPERSAURUS

長崎県にある「恵の丘長崎原爆ホーム」。ここは、被爆高齢者のための世界最大規模の特別養護老人ホームである。時の総理大臣が広島、そして長崎平和祈念式典出席の後、毎年必ず訪れる場所であるという「恵の丘長崎原爆ホーム」だが、その実像が広く知られているとは言い難い。

このホームに暮らす人々や、原爆の落ちた都市 長崎の姿を2年間に亘り追い続けたドキュメンタリー作品『夏の祈り』が公開される(2012年8月4日長崎先行公開。2012年8月14日より渋谷 アップリンクにて公開)。この作品を監督した映像作家 坂口香津美に話を訊いた。

TVドキュメンタリーではできないこと

坂口香津美
1955年 鹿児島県出身。家族や若者をテーマに、約200本ものTVドキュメンタリー番組を監督する。近作に『NNNドキュメント08 血をこえて ~我が子になったきみへ』(ギャラクシー賞08年7月度月間賞受賞)、『NNNドキュメント10 かりんの家 ~親と暮らせない子どもたち』など。『青の塔』、『カタルシス』、『ネムリユスリカ』の3本の劇映画では、ひきこもり、少年犯罪、性犯罪被害者などを題材に、重厚な作品世界を構築した

――坂口監督はTVドキュメンタリーを約200作品も監督されていますが、今回の『夏の祈り』は劇場用映画として公開されます。

坂口香津美(以下、坂口)「僕はこれまで様々な種類のTVドキュメンタリーを作ってきたのですが、近年は行き詰まりを感じていました。具体的には、僕が作りたいものと、テレビ局が求めている物にズレがでてきた。僕は1作目からすべて自分の企画でやってきた人間で、他人の企画をやったことがないのです。僕自身、完全主義者で全てを自身の管理下に置いてやりたいタイプなので、テレビでは難しい。テレビの一過性、基本的に1回しか放送がないという部分も納得いかなかった。そこで、本作は映画という形が良いと思いました。現実問題として、テレビでドキュメンタリーの枠も少なくなってきていましたし、虚無感もありましたから」

――TVドキュメンタリーにおける虚無感とは、どのような物なのでしょうか。

坂口「まず、TVドキュメンタリー制作のためには、テレビ局に企画を提案します。企画が成立すれば予算がつきます。予算がつくということは、当然ながら番組を提供するスポンサーが存在するということです。テレビ局はスポンサーあっての商売で、スポンサーは視聴者の関心を得たい。極論すれば、それが民放の番組制作のシステムです。姿の見えない視聴者という名の大衆に向けて、優先で『皆が理解できる』という極めて曖昧模糊とした最大公約数のゴールに向けた作品を作っていくことになります」

――『夏の祈り』は、そのような「最大公約数のゴール」へ向かう流れを持つ作品ではありませんね。

坂口「はい。僕はそのような『最大公約数のゴール』へ向かう流れとは真逆を指向しています。テレビが排除したがる偏見を尊重することこそがドキュメンタリー映画の真髄と思っていますから。僕の作品はスポンサーもなく、すべて自費で制作しています。これは、お金があってやっているのではなく、作るために工面してやっているのです。だからこそ、自らの意思に忠実に、何も恐れることなく、果敢に挑むことができるのです」

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インデックス

目次
(1) TVドキュメンタリーではできないことを自主制作で実現
(2) 社会的弱者に寄り添う視点とは
(3) 撮影とは不思議な行為であり、終わりのない試みである


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