東南アジア名産の果物、ドリアン。生産地では、旬ともなれば採れたてのドリアンが山積みされ、村はむせ返るような香気に包まれる。しかしドリアンは「食べごろ」が短く、その見極めも難しい。時機を逸してしまえば現地の人でも顔をしかめる臭気を放つ「はずれドリアン」になってしまう。トゲトゲの豪快な姿と匂いから「果物の王様」と称されるドリアンは、誠にはかないフルーツなのだ。

そんなドリアンを長持ちさせるための工夫が加熱加工である。ドリアンの果肉を鍋に入れ、弱火でじっくりと煎りつければクリーム色が栗色に、さらに茶色へと変わる。火を通しつつ練り上げてペースト状になったものを棒状に固めれば、ドリアン保存食の完成。この食品はインドネシアではドドル・ドリアン、タイでトゥリアン・クワンと呼ばれるが、日本人観光客は「ドリアン羊羹」と呼びならわしている。

ドリアン羊羹を開封した瞬間……

東南アジアの珍奇な土産として話題になることが多いドリアン羊羹。実際に賞味すべく、都内のタイ食材専門店で買い求めた。大きさも形も、魚肉ソーセージそのままのドリアン羊羹は1個380円。パッケージの英文によれば、匂いが薄い品種「モントーン」を使った製品らしい。

こちらがドリアン羊羹。匂いがマイルドな品種を使っているというが……

しかし包みを開いた瞬間、ドリアンの「悪臭」である「都市ガスの臭い」、あるいは「腐った玉ネギの臭い」が一挙に立ち上った。一瞬たじろぎながら、本体にナイフを入れる。やはり果肉を加熱処理しただけあって中身は「羊羹」というより硬めの餡のよう。

さて肝心の味だが、これが決して悪くない。むしろおいしい。ネットリした濃厚な甘みに一瞬舌が締め上げられかけるものの、長続きすることなく素直に喉に落とし込まれていく。合わせる飲み物は、ブラックコーヒーかアッサム紅茶のストレートが最適だろう。「羊羹」だが、個人的には緑茶との相性は明らかに悪いと思われる。単品で食べるだけでなく、パンに入れて「ドリ餡パン」にでもすれば案外イケるだろう。しかし食後の胃の腑から立ち上る玉ネギ臭には参った。

さて、ドリアン羊羹の原料は、食べごろを過ぎて臭みが増したドリアン。原料の素質ゆえに日本では「ドリアン羊羹は臭い」とのイメージが定着してしまっているのは残念だ。食べごろのドリアンをふんだんに入手できたなら、本当においしいドリアン羊羹が自作できるのではないだろうか。