携帯電話を使った決済は、国内では「おサイフケータイ」として普及しているが、世界ではこれからだ。NFCを搭載したスマートフォンが大きな契機として飛躍が期待されるが、オペレーター、金融機関、インターネット企業がそれぞれの展開を進めており、混乱を指摘する声もある。そうしたなか、目立つのがクレジットカード会社の動きだ。

Visa EuropeのCEO、Peter Ayliffe氏は、まもなく開催されるロンドン五輪を踏み台に、「2020年には当社の決済の半分がモバイル経由になる」と豪語しており、ロンドンで5月末、その見通しを語った。

Visa Europe CEO Peter Ayliffe氏

ユーザーの関心とは裏腹になかなか普及しないNFC

ロンドン五輪の公式スポンサーであるVisaは5月、同じくスポンサーであるSamsungとともにSamsungの最新スマートフォン「GALAXY S III」にVisaのモバイル決済システム「Visa PayWave」を搭載した公式スマートフォンとして、選手に提供することを発表した。同端末を利用して、PayWave専用端末にかざすとモバイル決済ができるという。これに合わせ、オリンピックスタジアム、ロンドンを中心に英国に14万以上の読み取り端末を設置し、利用を促す。

Visaのモバイル決済システム「Visa PayWave」を搭載した「GALAXY S III」

Ayliffe氏は「これから、今まで体験したことなかったレベルの大きな変化が金融業界に起こる。スマートフォンはわれわれの生活を大きく変えるだろう」と予言、Visaはこの変化を活用するべく、モバイル決済に積極的に打って出る決意を見せる。

一方で、NFCによる決済がなかなか離陸しない現実を指摘する声を意識してか、「新しい技術が登場すると、短期的にその技術のインパクトを過信し、長期的にはインパクトを過小評価する傾向がある」とも語る。「モバイル決済にはハイプが多い。だが、時代はモバイルであり、今、投資を始めなければ時代についていけず消えていく企業になる」とAyliffe氏。モバイル決済が主流になると確信しているという。

ハイプといわれる所以は、現時点では失敗といわれている「Google Wallet」に始まり、NFCを利用した決済の進展が遅いためだ。調査では、NFCに対するユーザーの関心は高く、トライアル後の調査でもポジティブな反応が多い。だが、なかなか現実のものにならないと指摘されている。現在、携帯電話を使った決済としては、以前からあるSMS方式(事前に設定したPINなどを使ってSMSの送受信により済ませる)が成長国でもいまだに多く用いられている。

ロンドン五輪をNFC離陸に向けたイベントに

Ayliffe氏はNFCが普及しない問題点として、インフラを挙げる。特に重要なのは、小売店などに設置する読み取り機だ。NFCを搭載したスマートフォンがいくら出回っても、ショップに読み取り機がなければ使い物にならない。「ここでつまづいている」とAyliffe氏は分析する。

欧州では、ロンドン五輪に向けてNFCのインフラ整備が大きく進んだ英国、そしてポーランドがリードしているという。まもなく開幕するロンドン五輪については、「スポンサーとしてサポートするだけでなく、新たな決済を体験してもらうショーケースにしたい」とAyliffe氏。NFC離陸に向けた重要なイベントとして、ロンドン五輪に期待していることがうかがえた。

いよいよ7月27日から開催されるロンドン五輪

「モバイル決済は消費者にとって便利なだけでなく、より深いインパクトをもたらす」と、Ayliffe氏は見る。「支払いに加えて送金ができるオンラインバンキングなどのインフラがモバイル端末に組み込まれることで、旅行中にトランザクションを確認するといったことが可能になる。銀行やECサイトは、データの活用により即時性の高いキャンペーンを打つことができる」と一例を挙げた。

ここでVisaが開発を進めるのが「ウォレット機能」だ。ユーザーは好きなサービスを登録しておけば、関連したクーポンやオファーを受け取ることができ、ショップ側は位置情報を利用して近くにいる登録ユーザーにプロモーションをかけるなどのことが可能になるという。「ウォレット機能により、望まないユーザーにプロモーションをかけるような効果のないマーケティングを削減できる。効果を測定しながら、途中でオファーの内容を変えることも可能になり、これは消費者にとってもメリットだ」(Ayliffe氏)

Ayliffe氏はそうしたうえで、「2020年にはVisaの決済の半分がモバイル端末から起こる」と予言する。「電子商取引の比率はすでに2割に達しており、非現実的な予想ではない」と続ける。また、「NFCを使った乗車システムなどは便利であり、一度使い始めると元には戻れない。NFC対応のスマートフォンはすでにコンシューマーの手にあり、われわれがインフラを整備すれば、NFCはすぐに離陸する」と成功への楽観も示した。

だが、ウォレット機能については、Googleなどのサービス企業、各国のオペレーターも狙っており、消費者は混乱しているという声もある。これについては、「MP3プレイヤーが登場した当初と同じ状態」として、「各社がMP3プレイヤーを製造したが、最終的にはAppleの『iPod』が定番になった。消費者が望むものを提供したからだ。モバイル決済でもこれと同じことが起こるだろう」と予想した。