多くのMacユーザに支持されてきた歴史

基本的にOS Xは、標準装備するアプリケーションの機能を強化し、その数を増やす方向で進化している。しかも、Growlと競合する「通知センター」が次期バージョンMountain Lionで搭載されるように、サードパーティーが手がけていた分野すら躊躇せずOS標準装備化してしまうことがある。そして一度そうなると、OSという基盤を開発するAppleに対抗することは難しい。

しかし、日本語入力システムは例外的存在だ。日本語というローカルかつ複数の文字種が混在する言語は、文字変換(かな漢字変換)という複雑な機構を伴うため、高度なノウハウを必要とする。OS Xには旧Mac OS時代から「ことえり」というかな漢字変換システムが標準装備されているが、多くの日本人ユーザが敢えて有償のサードパーティー製品を選択している事実からも、変換精度の高さがうかがえる。

先日ジャストシステムから発売された「ATOK 2012 for Mac」は、今年で生誕30年を迎える日本語入力システムATOKのOS X版。旧Mac OS時代の1994年に「ATOK 8」として登場して以降、Windows版に比べバージョンアップが遅れた時期もあったものの、現在ではほぼ同等の機能が数カ月程度の時差で手に入れられるようになった。それでは、どの部分が強化されたのか、具体的に紹介していこう。

ついに登場した「ATO 2012 for Mac」。もちろん以前のATOKやことえりからの移行もサポートされている

インタフェースの改良点のひとつ、デスクトップの大部分を使い変換候補を一括表示する「全候補ウィンドウ」

新搭載「ASエンジン」が賢い

ATOK 2012 for Macは、7月中にリリースされるOS X次期バージョン「Mountain Lion」への対応が確約されている。Leopardのとき導入された文字入力システム「IMKit」を前提とするため、OS X v10.5.8以降/Intelプロセッサ搭載機のみのサポートとなるが、Mountain Lionへのアップデート後すぐに使うことができる。

インストール完了後最初に気づくのは、新搭載「AS(Advanced Suggest)エンジン」の働きぶりだ。「もっとかしこくもっとスマートに、そしてもっとラクに」を旗印に開発され、キー入力数の削減と入力作業の効率化が図られている。特に、以前のバージョンでは慣用句や確定履歴、よく使われる言い回し程度だった推測変換が、一般的な語句や固有名詞(人名/地名)も対象に含まれるようになったことがポイントだ。

推測変換は、インクリメンタル検索(キー入力のつど検索結果が最新の状態に洗い替えされる機能)の要領で行われる。たとえば、「達成感」と入力するときには、「たっせい」まで入力した時点で「達成」と「達成感」などの推測変換候補が現れる。「tab」キーを押してその中から語句を選び、続けて「return」キーを押せば入力が確定される。確定履歴も対象に含まれるので、使い続けるほど入力効率が向上するしくみだ。

デフォルトでは無効化されているが、環境設定パネルの「推測変換」項目-「入力・変換」タブにある「確定直後に推測候補の自動表示を行う」をオンにすると、確定後の文字列を参照し、それに続くと推測される単語を変換候補に表示してくれるのだ。たとえば、「スティーブ」と入力すると、人名辞典のなかから後に続く(著名人の)姓名が表示される。前述した推測変換が"先読み型"とすると、こちらは確定後なので"後読み型"だ。確定するたびに推測変換候補が現れるようになるのでジャマに感じられるかもしれないが、役立つ場面は多い。

推測変換機能の設定画面。確定直後に推測候補の自動表示を行う設定にも切り替えできる

人名や地名の推測変換も可能になった

「先読み予測」もASエンジンの特徴のひとつ。タイプミスしやすい単語、誤用されやすい単語が入力されようとしていると判断すると、正しい変換候補を推測し表示してくれる。たとえば、「的を射る」のつもりが「的を得る」になりそうと判断した場合は、「まとをえ」と入力された時点で「当を得る」と「的を射る」を候補に表示してくれる。

先読み予測により、慣用句の誤用も防げる

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