NVIDIA社は、COMPUTEX期間中に、プレス向けのブリーフィングを行った。ブリーフィングは、モバイルビジネス部門シニアバイスプレジデントのPhil J. Carmack氏への質問という形で進行した。

まず、現行のTegra 3だが、Windows RTに関して、ASUS社がタブレットを発表している。他にもWindows RTタブレットでTegra 3の採用を決めたところがあるのか? という質問に関しては「多数だ」との回答であったが、ASUS社が、一番最初にTegra3を使ったWindows RTマシンを出荷することは間違いないようだ。

ASUS社とNVIDA社は、Androidタブレットでも、密接な関係を築いている。最初のTegra 3採用タブレットは、ASUS社のTransformer Primeだった。その関係は、Widnows RTでも続いており、両者協力のもと、Windows RT搭載タブレット(ASUS Tablet 600)は、Windows 8の出荷初期に登場するWindows RTマシンの1つになるようだ。

ASUS社が発表したTegra3採用Windows RTタブレット「ASUS Tablet 600」

Android搭載のTransformerと同様、キーボード部を装着できるタイプ。ディスプレイは10.1インチ

Windows 8の立ち上げに関して、今回、はじめて登場するWindows RTに関しては、マイクロソフトもセンシティブになっているという。このため、ハードメーカーとプロセッサメーカーが密接に協力できるような体制を敷いているという。その1つのグループが「ASUS、NVIDIA」組なのだろう。NVIDIAのこれまでのTegraの展開パターンから考えるに、最初にASUSのみが製品を出荷し、他社の製品がその後続くという経過になると考えられる。

このため、Windows 8の出荷とともに登場するASUS以外のWindows RTマシンに関しては、Tegra 3以外のプロセッサが採用されていると考えられる。今回同時期にWindows RTを発表した東芝は、採用プロセッサに関しては、現時点では未公開であった。Tegra 3は、すでに発表されて久しく、いまさら秘密にするようなものでもないことを考えると、東芝が採用しているプロセッサはNVIDIA以外であると考えるのが妥当だろう。

また、NVIDIAは、3Gなどのベースバンド機能を統合したTegra 3を計画中だ。これについて、Carmack氏は、「来年の出荷になる」と回答した。また、次世代のプロセッサとなる「Wayne」(Tegra 4)も、もともとの計画通りに来年になるとした。昨年の6月には、今年出荷予定だったTegra 3のチップを公開しているが、今回は、Tegra 4については、姿も見えない。これは、Tegra 3が、既存のCortex-A9のクワッドコア化だったのに対して、次世代のTegra 4では、新しいコアであるCortex-A15を使うからだと考えられる。

自社工場をもたないNVIDIA社は、ファウンドリーとの協力でTegraプロセッサを開発している。通常、ファウンドリーを使ってARMプロセッサを使うSoCを開発する場合、まず、ARM社とファウンドリーが協力して、ファウンドリーのプロセスに合致した設計を完成させる。ファウンドリーは、これを使い、NVIDAのようなファブレス企業からの受注を行う。  今回、Tegra 4の動きが遅く見えるのは、新しいCortex-A15のマスクパターンなどの製造設計が現在進行中だからだと考えられる。これに対してTegra 3の場合には、すでにCortex-A9プロセッサのマスクパターンなどの製造設計は完成しており、それを4コアにしたために短期間で開発が行われたのであろう。

また、来年、Tegra 4が登場するにもかかわらず、Tegra 3のベースバンド統合版を開発しているのは、価格的な差をつけてラインアップを組むからだと考えられる。つまり、ベースバンドを統合して1チップ化しフットプリントなどを削減したTegra 3を用意することで、現在のTegra 3、来年のTegra 4がカバーできない低価格の領域をこれでカバーする予定なのだと考えられる。

というのも、現在のスマートフォン市場は、ハイエンド分野と低価格スマートフォンの2極化が進んでおり、低価格分野は、100~150ドルでAndroid 4.0を動かすというところまで進んできたからである。

Tegra 3は、現時点では、ハイエンド分野しかカバーできないが、来年になり、設計コストなどが回収できたあとは、低価格化が可能になる。同時にハイエンド分野をTegra 4でカバーすることで、引き続き、ハイエンド市場を押さえることもできる。

スマートフォンやタブレット以外の分野、たとえば、家電やセットトップボックスといった応用に関しては、これからの展開になるという。いまのところタブレットやスマートフォン分野への導入が行われている段階で、すぐに広範囲な応用分野をカバーすることは難しいようだ。

また、Windows Phoneの次世代バージョンで、Windows 8と同じカーネルを採用するというウワサがあり、そうなると、NVIDIAとしては、すでにAndroidスマートフォンなどに進出している関係で有利と思われるが、明確な話は出てこなかった。マイクロソフトは、導入期にハードウェアを限定することで、出荷される製品のクオリティを保ち、さらに開発期間を短縮するという手法を使う。Windows Phone 7では、このためにプロセッサはQualcommの1GHzのSnapdragonだけに限定された。その後、800MHzのSnapdragonの利用も可能になった。いまのところTegra系のプロセッサを搭載したWindows Phoneは登場していない。これは、マイクロソフトの開発ベースがまだ、Snapdragonのみに限定されているからだろう。

もし、Windows Phoneが次世代でWindows 8のカーネルを採用した場合、Tegra系のWindows Phoneの可能性が出てくる。特に来年登場予定のベースバンドチップを統合したTegra 3は、スマートフォンがメインターゲットと考えられる。しかし、Windows Phoneに関しては、あまり積極的な発言がなかったことは、そもそもWindows 8カーネル利用という情報が違うか、なんらかの理由で、Windows Phone分野に興味がないかのどちらかであろう。

Windows 8/RTやWindows Phoneに使われたMetroは、Tegraを採用したマイクロソフトのZune HD音楽プレーヤー用に最初に開発されたもの。Windows Phoneの開発にあたり、Tegraシリーズが推奨となるとかおもわれたが、実際に標準となったのはQualcomm社のSnapdragonだった。そういう意味で、Windows Phoneに関しては、マイクロソフトとNVIDIAの間に何らかの確執があるのかもしれない。

残念ながら、今回のCOMPUTEXでは、Tegra 4に関しては特にアップデートはなかったが、Tegra 3によるWindows RTに関しては開発は順調なようだ。