ネットワークの高速化、そしてモバイルデバイスやクラウドサービスの普及は、ITの利用シーンを大幅に変えつつある。そこで重要な役割を果たすのが、さまざまなデバイスとコンテンツやサービスをネットワークにつなぐネットワーク機器だ。

ネットワーク機器の世界的なトップベンダー、米NETGEAR社の設立者であり、現代表取締役会長兼CEOを務めるパトリック・ロー氏に、同社のネットワーク機器が高いコストパフォーマンスを実現できる理由と、これからのITとネットワークの動向を踏まえたビジョンについて話を聞いた。

インターネット黎明期に、ネットワーク機器專門ベンダーを設立

──はじめに、パトリックさんがアメリカでNETGEAR社を設立した背景についてお聞かせいただけますか。

米NETGEAR 代表取締役会長兼CEOのパトリック・ロー氏

ロー氏 : 私は83年から95年までヒューレット・パッカードで、ネットワーク製品やUnixサーバーなどのマーケティングを担当していました。ちなみに92年から95年にかけては日本に滞在していたんです。

私がヒューレット・パッカードを退社した95年というのは、アメリカでまさにインターネットが花開き始めた年で、ネットスケープコミュニケーションズが株式公開を果たすなど、新しい時代到来の予感に市場は活気に満ちていました。

そうしたなかで私は、インターネットが将来はるかに高速化して、エンターテインメイントやコミュニケーション、エデュケーションなど、人々のあらゆる活動がインターネット上で行われるようになると予測したのです。

そしてそうなった時に自分ができることとは何かを考えたわけですが、私自身はハードウェアエンジニアであり、そしてこれからはより高性能なネットワーク機器が求められるようになると見込んだことから、ネットワークを支えるハードウェアを専門に扱う企業として、96年にNETGEARを起ち上げたのです。

──その後順調に成長を続けて、いまでは世界的なネットワーク機器ベンダーとなったわけですね。

ロー氏 : おかげさまで、アメリカとヨーロッパ、オーストラリアでのマーケットシェアは1位となっています。とりわけこうした市場では、当社製品の高い性能と豊富な機能がもたらす技術力が発揮しています。

安定した成長を支える高い開発力

──これまでとこれからの具体的な業績について教えていただけますか。

ロー氏 : 96年の設立時からいままで平均して25%の成長率で推移して来たのですが、今後10年間についても同じ成長率を維持できると見込んでいます。ただし、アジア・パシフィック地域の成長率はもっと高い数値となることでしょう。

今年については、グローバルでの売上高15億ドルを達成する見込みです。そして2年後には20億ドルの売上高を予定しており、将来的には100億ドルという数字を実現することを目標にしています。

──それだけの高い業績を継続する秘訣はどこにあると見ていますか。

ロー氏 : 当社は売上高に比して従業員はグローバルで800人と非常に少ないのです。そのため、意思決定が素早く、新製品も迅速に市場に送り出すことができます。これが最大の競争力になっていると自負しています。

──新製品の開発体制はどのようになっているのですか。

ロー氏 : 現在、アメリカや台湾、インドなど世界に6つの開発チームがそれぞれ別々の製品カテゴリーを担当しています。彼らが年間80~100にも及ぶ新製品を開発しており、新しい機能を盛り込むのも他社と比べてワンテンポ先取りしたタイミングでできています。

このような高い開発力の源泉となっているのも、少数精鋭による意思決定の早さだと思います。

オンラインストレージはNASビジネスに影響なし

──現在、特に力を入れている製品分野についてお聞かせください。

ロー氏 : いま注力しているのは、次の4つの分野ですね。まず1つ目が、次世代のWi-Fi規格であるIEEE802.11acです。こちらは4月に他社に先駆けてIEEE802.11ac対応Wi-Fiルータを発表しております。

2つ目はNASで、企業向け製品はプライベート・クラウドとして利用できるようになっています。

3つ目は高速ゲートウェイ。1Gbpsの光ファイバーやLTEに対応した高性能が売りです。

そして4つ目が、10Gbitスイッチです。当社では1年前に初めて10Gbpsスイッチを手がけましたが、今後はこれをさらにプッシュしていく予定です。

IEEE802.11acに対応した「NETGEAR R6300 WiFi Route」。国内では未発売

──最近ではオンラインストレージサービスが普及してきていますが、こうした動向はNASのビジネスにも影響があるのではないですか。

ロー氏 : 実は皆さんが想像されているような影響はないんです。確かに、コンシューマーはパブリック・クラウドのオンラインストレージサービスを今後さらに利用するようになるでしょう。しかし、我々のWi-FiルータもすべてUSBストレージを接続することでネットワークストレージとして利用できるようになっています。個人の貴重な画像データや動画データなどの保存ではパブリックサービスを使わずにこうしたNASを使うといったように、住み分けができるようになるのではないでしょうか。

これが企業ユーザーとなると、ますますパブリック・クラウドではなく、よりセキュアなプライベート・クラウドとしてのストレージ、つまり我々のNASのようなものを求めるようになるでしょう。さらに、当社のハイエンドNASでは、SIerがパブリック・クラウドサービスのストレージとして利用することもできるようになっています。

──御社の企業向けNAS製品の特徴と市場からの評価について説明をお願いします。

ロー氏 : 当社の企業向けNASは、リモートレプリケーションやVMwareの仮想化プラットフォーム、スナップショットに対応した高機能と高性能が売りとなっています。これらが評価されて、2万5000ドル以下の価格帯のNASは出荷台数で世界1位、5000ドル以下の価格帯のNASでは金額ベースで世界1位となっております。

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