紙媒体はもちろん、電子書籍やWebなど幅広い媒体に対応しながら進化を続ける「Adobe InDesign」。これまでの前編中編では、さまざまな媒体に合わせたレイアウトを作成する上で役立つ新機能を紹介してきた。シリーズ最終回となる今回は、電子書籍への対応について紹介しよう。

電子書籍への対応

日本国内の電子書籍用フォーマットとして、とくに書籍出版分野で期待されている「EPUB」。InDesignではCS3から対応しており、常に最新の「EPUBフォーマット」を先取りした機能を搭載してきた。とくに日本語組版特有のルールである縦書きやルビ、縦中横、圏点といった機能をサポートしたEPUB3.0の対応は早く、前バージョンであるInDesign CS5.5ですでに使用可能だった。

今回のInDesign CS6では、アドビが作成した実験的な形式として書き出しメニューに「EPUB3.0(レイアウト付き)」が加わり、複数の段組やテキストの回り込みなどをサポートした電子書籍が作成できる。この「EPUB3.0(レイアウト付き)」で書き出した電子書籍は、アドビビューアテクノロジー(「Adobe Digital Editions」:Adobe Labsでプレビュー版を公開中)でのみ動作するため、汎用的な物とは言えないかもしれないが、ひとつの先進的な例として注目しておきたい。

「EPUB 3.0(レイアウト付き)」は実験的な部分も強い設定だが、日本語組版機能が強化された「EPUB 3.0」に加え、画像の回り込みなどをサポートした

「EPUB 3.0(レイアウト付き)」で書き出したepubフォーマットは、Adobe Labsで配布されているAdobe Digital Editionsで表示すると、画像の回り込みも確認できる

また、前編の冒頭でも紹介したようにAdobe Digital Publishing Suite関連の機能が多数盛り込まれたInDesign CS6において、もうひとつ紹介しておきたいのが「HTMLの挿入」。たとえば画像フレームに対してgoogleマップのURLを指定すると、そのまま電子書籍化したときに該当する地図が表示され、拡大縮小や場所の移動など、その部分にgoogleマップの機能を利用することができる。

紙媒体の印刷では使用例がないかもしれないが、Webやタブレット端末用にレイアウトを流用したい場合に重宝する機能になるだろう。

新たに加わった「HTMLを編集...」を使うとInDesignのドキュメント上の画像フレームなどにHTMLを定義し、リンク情報を保ったまま電子書籍などに活用できる

あらゆる媒体を飲み込む総合レイアウトソフトとして発展

アドビ システムズのアプリケーションには、紙媒体にはInDesign、WebならDreamweaverとそれぞれに役割があり、バージョンアップの度に目的に適った新機能が搭載されてきた。InDesignの場合、その目的は「デザインをする」という至極シンプルながら対象は広い範疇に広がり始めたようである。その傾向はすでにInDesign CS5あたりから見えていたが、InDesign CS6でいよいよ顕著な物となり「InDesignさえ使いこなせばWebも電子書籍もOK」というアプリケーションに発展した。

もちろん、Webや電子書籍は紙の世界より数倍早い速度で新技術が登場し、プロデザイナーはその技術革新を取り入れたデザインが求められる。こうした新機能への迅速な対応は元々専用アプリケーションとして開発された物に任せるべきだろう。

InDesignの出番は紙媒体を軸に、他媒体への対応を求められたときだ。作業時間に追われるグラフィックデザイナーが、新たな媒体へのチャレンジに対する負荷を少しでも軽減する──そのための強力なサポートツールがAdobe InDesign CS6になるのではないだろうか。