ソーシャルコマースは「ユーザー育成」

デジタルスタジオ 代表取締役 板橋 憲生氏

インターネットを利用して物を売る手法として、ショップサイトに人を呼び込むという考え方はもう古い。ショップサイトに来てくれるのは、すでに物を買う気でいる人々だ。さらにいえば、「ある特定のものを買うことを決めている人」であることが多い。では、まだ知られていない自社製品に目を向けさせるにはどうしたらよいのだろうか。

これに対する1つの答えが、最近流行のキーワードでもある「ソーシャルコマース」だ。SNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用して自社や商品への出会いを提供し、興味を持ってもらい、最終的に購買へとつなげることを目指す。

「特に効果的なのがFacebookの利用です。コマースというと直接オンラインで物販を行うイメージがありますが、実は高額商品やサービス業など、直接売買がしにくい業種でも活用できます」と語るのは、ECサイト構築ソリューション「Live Commerce」を提供するデジタルスタジオの代表取締役 板橋 憲生氏だ。

現在、多くのユーザーがSNSを利用している。SNSには多くの個人や企業が発信する情報が流れており、偶発的な出会いもあれば、紹介による出会いもある。単純にショップサイトで商材を紹介しているだけでは、その商材に興味を持った人と、その商材を非常に積極的に紹介しようと考えたユーザー (コアなファン)からのクチコミしか見込めないが、SNSではもっとライトな出会いが期待できる。

「たまたま話題になっているのを見つけたり、ちょっとおもしろい記事を見つけたりといったことがきっかけで、企業や商品に興味を持ったユーザーは、すぐには商品の購入を行わないかもしれませんが、興味を持つきっかけさえあれば情報を眺めていようとは考えてくれます。このようなユーザーを実際の購買者に育てて行くことができるのがSNSの特徴です」と板橋氏は語る。

たとえばFacebookの場合、企業や商品に興味を持って情報を購読してみようと考えたユーザーのウォールには、親しい友人やあこがれの芸能人が発信した情報と一緒に、企業からの情報が掲載される。自然と情報がユーザーの中に蓄積され、少しずつ好印象を積み重ねることで、購買意欲を高めていく。そうして単なる閲覧者を購買ユーザーへと育てることで、新たなユーザーを獲得できるというわけだ。

受注30%増! 小売業以外でも積極活用がお勧め

「Live Commerce」は多くのECサイトで採用された実績を持つオープンソースソリューションだが、デジタルスタジオではASPサービスも展開している。その機能として、2012年3月に追加されたのが、Facebook上で物販や問い合わせ受付を行う機能だ。すでにサービスを利用している企業では、その効果も出ているという。

「小売り業のお客様の中には、従来型のECサイトだけの状態からFacebookの活用によって、受注数が30%増えたという実績もあります。買い物をするつもりでFacebookを眺める人はいないですから、積極的に検索してECサイトにたどり着くのとFacebookから入ってくるのは違った客層のはずです。増えた30%は従来とは違う、新しい顧客層だと考えられます」と板橋氏。

Facebookを利用することのメリットとして板橋氏が挙げるのは、押しつけがましく感じられない広告であることだ。「従来型PRの代表格であるメールマガジンは、すでに読まれていません。大半が読まれないままゴミになっています。ところがFacebookのウォールは読まれます。自分で購読しているという能動的な感覚と、配信されてくるものが短文であることがポイントです」と板橋氏は語る。

そして、企業がファンページを利用してPRを試みるならば、情報を発信して「いいね!」を集めるだけでは意味がないという。企業や商品のよいイメージが定着したとしても、「いいね!」を押しているだけでは購買に結びつかないからだ。「いいね!」を押してもらい、企業や商品に対する関心や好感度へと育てることに成功したとしても、それを実際の購買や実店舗への訪問につなげるには、さらに高い壁を越えなければならない。

だからこそ、直接的な物販だけでなく高額商品の資料取り寄せやサービス内容への問い合わせを、Fecebook上で受ける必要があるのだ。一方的な情報配信だけではなく、ユーザー側のアクションを受ける窓口を持つことで、オンライン上での売買はなくとも購買や実サービスの利用につなげることができる。

「不動産や自動車といった非常に高額な商品の資料請求や、サービス業のカタログ請求などをするための問い合わせボタンをFecebook上に作ることが、新たな窓口になります。中小の製造メーカーなども、自社製品のPRや販売にぜひFacebookを使うべきです」と板橋氏は指摘する。

違和感のない見た目にこだわり海外展開も支援

具体的にFacebookを利用してソーシャルコマースを実現するのに有効なのが、「Live Commerce」だ。単純にFecebook上に購買・問い合わせボタンを表示するだけでなく、具体的な購買につなげる機能や工夫が盛り込まれている。

まず「Live Commerce」を利用したFacebookカートは、Facebookのデザインと高い調和性を持っている。表示されるボタンの大きさや色は完全にFacebookのスタンダードデザインに合わせられており、フォントの種類やサイズ、ラインの太さに至るまでFacebookと親和性の高いデザインとなっている。とってつけたようなカートではなく、完全に溶け込んでいるのがポイントだ。

「外部のECサイトにリンクされているのはもちろん、Facebook上でも違和感のあるデザインだとユーザーは手を止めてしまいます。宣伝を見せられている、買わされている感が強くなるからです。Facebook上で自分が選んだページを見ているのだという感覚を維持するためには、違和感を消すことが重要です。だからこそ、ボタンカラーや罫線の太さなどのカスタマイズ機能を、あえて排除しています」と板橋氏。

Facebookのデザインと違和感のないカート画面

一方で、実際の決済画面はFacebookそのままという見せ方ではなくなっている。「Live Commerce」で作られたECサイト側に飛ばし、しっかりと誰を相手に支払っているのかを認識させるのだ。これは、Facebookから購入しているような錯覚を抱かせないための工夫だという。

企業側にとっては、商品登録だけでFacebookアプリを作ることができるというメリットがある。登録するだけで形の整ったFacebookページが作成されるのだ。購買用のカート機能を停止してお問い合わせボタンだけ表示するようにすれば、資料請求の窓口としての利用も可能だ。

また登録時には、Google翻訳を利用して日英中(繁体字/簡体字)への翻訳もでき、簡単に4言語対応サイトを構築可能なのもポイントだろう。決済方法も欧米でよく利用されるPayPalや、中国向けの各種決済方法に対応しているため、初めて海外展開をしようという企業にとっても扱いやすい。

「内需に限界を感じている中小の製造メーカーはもちろん、すでに海外展開している企業にも使って欲しいですね。直接オンライン上で海外向け販売をするには抵抗がある場合でも、カタログを見せることで潜在的な顧客にアクセスできます」と板橋氏は力づよく語った。


デジタルスタジオは、Webプログラム開発、特にECサイト構築事業に特化し、ECサイト構築ソリューション「Live Commerce」をオープンソースとして提供している。