2012年5月25日より日米同時公開される映画『メン・イン・ブラック3』。『メン・イン・ブラック3』は、地球をエイリアンの脅威から秘密裏に守る「黒服の男たち」の活躍を描いた人気シリーズの最新作だ。このシリーズを1作目から監督しているバリー・ソネンフェルド監督に、撮影秘話や3D映画の未来について話を訊いた。

バリー・ソネンフェルド

『ブラッド・シンプル』(1985年)、『赤ちゃん泥棒』(1987年)、『ミラーズ・クロッシング』(1990年)などのコーエン兄弟の作品や、『ビッグ』(1988年)、『ミザリー』(1990年)などの作品で撮影監督を務める。1991年に『アダムス・ファミリー』で監督デビュー。そのほかの監督作品に『ゲット・ショーティ』(1995年)、『メン・イン・ブラック』(1997年)、『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(1999年)、『メン・イン・ブラック2』(2002年)などがある。

『メン・イン・ブラック3』はこうして生まれた

――『メン・イン・ブラック3』は前作『2』から10年のブランクがあります。久々に人気シリーズを監督されていかがでしたか。

バリー・ソネンフェルド(以下、ソネンフェルド)「とにかく楽しかったですね。『メン・イン・ブラック』は、私が主演のウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズを起用して作ったシリーズですし、深い思い入れがある作品です。久しぶりの現場だったのですが、そんな感じはなく、『また週末にみんなと会った』という感じでしたね」

――今回の「過去にタイムトラベルしてエイリアンと戦う」という設定は、どのようにして生まれたのでしょうか。

ソネンフェルド「これは実は、ウィル・スミスのアイデアなんです。『メン。・イン・ブラック2』の撮影当時、時間は朝4時だったのですが(笑)、いきなり彼がタイムトラベルのアイデアを話してくれたんです。今回は、そのエピソードが元となっています」

MIB最強のコンビとして日夜エイリアンの行動を監視し、暴走を取り締まっていたJ(ウィル・スミス)とK(トミー・リー・ジョーンズ)。ある日、単独で事件を追っていたKが消息を断ち、エイリアンの地球侵略が始まる。これは、何者かが過去にタイムトラベルして「Kが40年前に死んだ」と歴史を改ざんしたために起こった事態だった。Kを救い歴史を正すため、Jは過去にタイムトラベルするのだった。
Photo by WILSON WEBB -(C)2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

3D化に適した撮影方法とは?

――ソネンフェルド監督は元々撮影監督でしたね。撮影監督ならではの、3D撮影に関しての見解やこだわりがありましたら教えてください。

ソネンフェルド「この作品に関しては、最初から3D撮影するか、通常の撮影を行い、後で3Dにコンバージョンするかで非常に悩み、撮影前にテストを繰り返しました。結果的には、多くの人の意見や最近のトレンドとは逆なのですが、コンバージョンのほうが良いと判断しました」

撮影監督出身という立場から、3D映像についての持論を語るソネンフェルド監督

――具体的に、どのような理由でその手法を選択したのでしょうか。

ソネンフェルド「私は普段から撮影に広角レンズを多用しています。通常でも21ミリレンズなので、かなり広角です。その場合、3Dカメラで効果的な撮影をしようとすると、アングルにも無理が出て、不自然な感じの映像になってしまうんです」

――不自然とは映像とは具体的にどういうことなのでしょうか。

ソネンフェルド「通常の3D映画は、3D効果を得るために奥行きを出して撮影するのですが、私の撮り方では、観客からすると、奥行きがあり過ぎる感じになってしまいます。広角レンズだと、スクリーン手前側でアクションが起きているので、あえて3D撮影しなくても、撮影した映像をコンバージョンすることで大きな3D効果が得られます。また、カメラをパンさせた映像を3Dにするのは非常に難しいのですが、私は撮影監督時代から、パンは使わず、軸、アクシスを使って撮影しているので、3D化に向いているのです」

――撮影技法以外にも、コンバージョンの利点があれば教えてください。

ソネンフェルド「制作スピードと費用ですね。3D撮影では、機材も大きくなり、技術者の数も増えます。シーンごとのカメラのセッティングにも、より多くの時間がかかります。『メン・イン・ブラック3』のようなコメディ映画では、テンポ良く撮影を進行させたかったので、コンバージョンを選択して正解でした。

――費用の面ではどうでしょうか。

ソネンフェルド「コストの点でも、コンバージョンのほうが有効です。この作品で、2Dから3Dへのコンバージョンにかかった費用は1,500万ドルでした。3Dで撮影していたら、もっと膨大な費用がかかっていたはずですし、撮影自体、まだ終了していなかったと思います」

――ソネンフェルド監督は、これから3D映画はどのようになっていくと思われますか。

ソネンフェルド「編集段階での選択肢も増えるので、これからは、撮影後にコンバージョンを選ぶ監督が増えてくると思います。3D映画自体は、これからも残っていくと思いますが、もし、残らないとすれば、それは興行側の問題です。元々、3D映画は、フィルターやシャッターの問題で、画面が暗めです。快適に観客が鑑賞するためには、作品の善し悪しだけでなく、3Dメガネの快適さや映写の明るさなど、観客に対する興行側の努力が必要になってきます」

――最後に、ソネンフェルド監督は、クリエイターになるためには、何が大切であると思いますか。

ソネンフェルド「映画監督という意味で限定してお答えします。編集を経験することと、良い脚本を書くということです。編集では、映画作りのあらゆる事を学び、経験を積むことができます。また、本当に良い脚本は、役者や監督と違い、取り替えがきかないものですから重要です。編集を経験するのは教育を受けるという意味で、良い脚本を書く能力は映画業界でパワーを得るという意味で、どちらも映画監督になるために必要だと思います」

映画『メン・イン・ブラック3』は2012年5月25日より、TOHOシネマズ 日劇ほか日米同時公開
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撮影:石井健