【レポート】
2008年のリーマン・ショック以降、欧米経済が失速する中、世界経済の牽引役はBRICSを中心にした新興国に移った。中でも、新興国の代表格といえる中国やインド、資源も豊富でG20のメンバーでもあるインドネシアなどアジア各国の経済は依然好調だ。なぜアジア各国の経済は好調なのか? 今後アジア経済はどのような方向に向かうのか? 日興アセットマネジメント 商品情報部 商品情報グループの妹尾園子氏に、インタビューした。
――アジア経済は好調といわれますが、どのような状況にあるのでしょうか。
IMFによると、1990年から2015年までの名目GDPの伸びは、日本を除くアジア(11倍)が世界全体を大きく上回ると予測されており、世界に占めるアジア(除く日本)の比率は、8%からの23%へと拡大する見通しです。
経済が成長する一つの大きな要因として、人口の多さが挙げられます。中国、インドやインドネシアなどアジアの主要国は、経済成長が想定的に加速しやすい人口ボーナス期(※1)にある、あるいはこれから入る見通しで、非常に有望な成長市場といえます。また、安価な労働力を求めて海外の企業がアジア各国に進出し生産拠点を設け、そこから行われる生産やそれに伴なう雇用の創出を通じて、内需を押し上げることで国が成長するのです。また国の成長などによる賃金の上昇が、個人消費をが拡大させることに加え、富裕層と中間層の拡大が見込まれることから、そうした層による消費の拡大がさらに経済を押し上げていくのです。
※ 「働き手」の数(=生産年齢人口)を「子供+高齢者」の数で除したものが人口ボーナス指数で、この指数が2を超える期間が、経済成長が加速しやすい「人口ボーナス期」といわれている。日本の高度成長期も「人口ボーナス期」だった。
――アジア経済といえば、1997年のアジア通貨危機がありましたが、アジアの各国はこれをどう乗り越えたのでしょうか。
アジア通貨危機を契機として、それぞれの国が堅実な財政運営や経済改革を推し進めました。外国の資本に頼ると、何かあったら資金を引き上げられてしまうため、アジア各国は、経常収支の黒字化・拡大に努めたほか、外貨準備高の積み上げによって危機時における政策対応余地を高めていったことなどが、足元での経済の抵抗力や回復力につながっています。アジア経済はもともと潜在的な成長性があったのですが、こうした自助努力によって、高成長につながったのです。
――なるほど。2008年のリーマン・ショックでは欧米は大きな打撃を受けましたが、アジア各国はどのような状況だったのでしょうか?
日本を除くアジアの経済は、世界的な金融危機からの影響が比較的軽微にとどまりました。特に、中国、インド、インドネシアなどはマイナス成長にならずにすみました。インドネシアにおいては、IMFから「世界の不況を免れた国」と評されました。さきほど述べたアジア通貨危機後の構造改革によって、外資への依存を減らし、財務体質を改善していたからです。他のアジアの主要国も、GDPに対する政府の債務残高の比率が低く、財務内容は相対的に良い状況にあります。財務内容が健全であるということは、不況になりそうな時に景気対策を打てるということです。
――アジア通貨危機での教訓を生かし、財務体質をよくしていたことが、リーマン・ショックを乗り越える原動力となったわけですね。特に中国は、リーマン・ショック後の世界経済を牽引したといえますよね。
2010年の世界のGDPが約63兆ドルで、2016年には89兆ドルになると予測されていますが、そのうち2010年の中国のGDPは世界の9.4%を占める5.9兆ドル、2016年の中国のGDPは世界の13.1%を占めて11.6兆ドルになると予測されています。中国のGDPはこの6年間で約2倍になるわけですから、2010年時点での中国がもう一つ増えるという驚くべき成長が見込まれているのです。ちなみに米国は23%から21%へと、世界経済に占める比率は低下する見込みです。
さらに中国には注目すべき点があります。日本のGDPに占める個人消費の割合は2011年時点で約6割、米国は7割なのですが、中国は37%で4割弱です。GDPに占める社会インフラ・公共投資の割合が現時点で高いからですが、中国の国会にあたる全人代では、先般、個人消費を増やす方針が決定されました。世界一の人口を持つ中国の個人消費が拡大するということは、世界経済にとっても大きなチャンスで、この消費需要をいかに取り込めるかが世界中で大変な注目を集めているのです。
――なるほど。2016年までにもう一つの中国ができる計算になるというのは、大変なことですね。一方、アジアのもう一つの雄、インドについてはいかがでしょうか?
アジア各国の中でも、目覚しい発展を遂げているのはご承知の通りですが、必要とされるインフラが整っていないという事情もあります。今後インフラが整備されていけば、さらなる経済成長が期待できます。また、インドは世界の中でも「人口ボーナス期」が長く続くことが期待されていますので、こうした点からも、まだまだ発展する余地がありそうです。
インドは英語が堪能な人が多いことで知られていますが、そうした点も企業が進出する際の"妙味"といえそうです。2011年に日本の国際協力銀行が挙げた「今後3年間有望とみられる地域」では、中国、インドの名前が挙がっており、その理由として安価な労働力と個人消費拡大への期待が示されています。
――他に注目すべきアジアの国はありますか?
IMFがリーマン・ショックの不況の影響を免れた国としたインドネシアに注目しています。インドネシアは、オランダからの独立戦争の際に、インドネシア側の武装勢力に身を投じて戦争に参加した日本人も多かったこともあって、日本を身近に感じる人が多いのです。また、日本は長年にわたり、インドネシアの社会や経済の発展を実現するために経済協力を行なっており、日本とつながりが深いといえます。日本人の旅行先としても、インドネシアのバリ島は「行ってよかった場所」として満足度が高い観光地です。
経済的に見ると、労働人口が多く年齢も比較的若いといった特徴があることが注目されます。たくさんの島があり、東西の両端は5,100キロメートルもあり、米国本土の東西が収まるぐらいの長い距離で、国土の面積も日本の5倍です。石炭、天然ガス、パーム油、天然ゴムといった天然資源も豊富なので、天然資源の保有国としての立場を強めていくことで成長が押し上げられていくとみられることが大変魅力的です。
また、インドネシアのほか、マレーシアやタイなど東南アジアを中心に、原油や天然ガスなどの資源を生産・産出している国が多く、経済成長の追い風となっています。
さらに、インドネシアやマレーシアを、「ASEAN」という地域として見ると、巨大で投資機会も多い地域であることが見えてきます。「ASEAN」の内部で相乗効果があり、さらに「ASEAN」の元気(良好な経済環境)と、「中国」の元気が、アジア経済、世界経済を牽引するという構図になっています。
――アジアの内部で相乗効果がでてきているわけですね。
アジアをつなぐものとしては、「アジアハイウェイ構想」というものもあります。アジアハイウェイ構想とは、アジア地域における貿易や観光、経済・社会発展を目的とした国際道路ネットワーク整備構想で、現在では、2003年11月に参加表明した日本も含め、アジア地域のほとんどの国をカバーする32カ国がプロジェクトに参加し、総延長距離約14万2,000キロメートルの国際道路網が形成されています。また、「アジア横断鉄道網」という、アジアの貿易関係強化と均衡のとれた開発を目指した、アジアを横断する鉄道ネットワークも存在します。こうした交通網で物が動けば人が動くわけで、今後アジアが巨大経済圏となる可能性があります。
また、アジア域内では「ASEAN」を核として、域内で自由貿易が確立されつつあります。「ASEAN」が核となっている理由は、ちょうど地理的にいい位置にあるということもあります。
アジア域内でいえば、韓国は政府が全面的にバックアップしてインフラの輸出を拡大するなど、インフラ産業が目覚ましい躍進をみせています。また、韓国企業は、現地目線でニーズをつかみ、中間層より少し下の層向けの値段を抑えた製品を開発して現地で生産したり、ウォン安を活用して輸出を伸ばしたりしています。
さらに、ASEANと日本、中国、韓国との間では、緊急時に外貨を融通する多国間金融協定「チェンマイ・イニシアティブ」が結ばれていますが、今年5月には外貨融通網の資金枠を2400億ドルと従来の倍とすることで正式合意するなど、金融安全網の強化に向けた取組みも見られています。
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