CDジャケットの制作や、音楽ライブでのペンタブレットを使ったライブペイントなどを行うグラフィティアーティスト・AZI a.k.a. 橋本悠一郎。長年、アナログな制作環境にこだわってきた橋本氏が、なぜペンタブレットを使ったデジタルの制作環境を取り入れたのか、そのわけを聞いた。

AZI a.k.a. 橋本悠一郎 (アジ エーケーエー ハシモトユウイチロウ)
グラフィティアーティスト。1981年3月8日生まれ、東京都出身。東京造形大学卒業。缶スプレーもしくは、Macとワコム製ペンタブレットを使用して、ステージ上で行うライヴペイントと制作活動を行い、175RのPVでの作品提供や、映画『デトロイト・メタル・シティ』劇中歌K DUB SHINE「フロム N.Y. シティ」PVでの作品提供、ブランド「swanky」とのコラボレーションで、新宿ルミネ、柏丸井、渋谷109などのショップトータルアート、多数のCD/DVDジャケット、ロゴ、タイトルなどの制作、アパレルブランドとのコラボレーション、数々のイベントや学園祭でのライヴなど多方面で活躍している。

――現在、橋本さんはどのようなお仕事をされているのですか。

AZI a.k.a. 橋本悠一郎(以下、AZI)「CDジャケットに使うイラストなどの制作とライブペイントを平行して行っています。ライブペイントに関しては、以前は缶スプレーを使っていたのですが、ある時期を境にペンタブレットで行うようになりましたね」

――ライブペイントは具体的にどのような場所でやっているのですか。

AZI「元々はクラブイベントでやっていたのですが、より多くの人に"グラフィティ"というものを知ってもらうため、昼間のイベントやフェスといった、より大きな会場でライブペイントをやるようになりました」

――そのパフォーマンスにおいて使うツールが、缶スプレーからペンタブレットに移行したわけですね。何か移行するきっかけがあったのですか。

AZI「あるとき、アップルストア渋谷でライブペイントをやってほしいという依頼がきたんです。で、僕としては当然缶スプレーでライブを行うものだと思っていたのですが、建物の消防法にひっかかってしまい、缶スプレーでのライブが実施できなくなってしまったんです。その頃、ちょうどペンタブレットを使い始めた時期だったので、これとPhotoshopを使ってライブをできないかなと考えたのがきっかけですね」

――では、今のスタイルが生まれたのは偶然だったと。

AZI「そうですね。もし、アップルストア渋谷で缶スプレーを使ったライブペイントが出来ていたら、思いつかなかったかもしれません」

――デジタルでの作品作りに関して元々興味があったということですよね。

AZI「いや、それがまったく違うんです。大学に入ったときは、絶対に絵を描くときにパソコンは使わないと思ったんです。デジタルでアナログの風合いが出せるわけがないと思っていたので。大学の教授からもパソコンを使ったほうがいいと言われたんですけど、反発していましたね(笑)」

――そこまで頑なに拒み続けたパソコンを使うようになったきっかけを教えて下さい。

AZI「大学3年生のときにデータで納品しなくてはいけない海外のコンぺがあって。その作品は大学の友人とふたりで作っていたのですが、その友人がパソコンとペンタブレットを使って作品を制作するタイプの人間だったんです。で、彼から色々とデジタル環境でのクリエイションの優位性を語られ、パソコンに対するイメージが変わりました」

――パソコンを使った制作環境への移行はスムースにいきましたか。

AZI「一度ペンタブレットを導入する前に、マウスだけを使って絵を描いたことがあるんですが、とても描きづらくて。これじゃ無理だと思いましたね。で、すぐにIntuos3を購入しました。Intuos3を導入したことによって、パソコン上で絵を"描く"という動作をアナログ的にこなせるようになりましたね。そう考えると、Intuos3がなければデジタル環境に移行することはなかったかもしれません」

――パソコン上で作品を作るときに注意している点はありますか。

AZI「パソコンを使い始めたときからそうなんですが、作品のなかに絶対にアナログの部分を入れるように心がけています。パソコンの利点を上手く使いつつ、アナログで描いた部分も取り込んでいくイメージです。基本的には下絵をアナログで描いて、着彩をパソコンで行っています」

――ライブペイントとイラスト制作では、制作方法に違いはありますか。

AZI「ライブのときは特にシンプルにしたくて。Photoshopのショートカットキーも使いませんし、レイヤーは1レイヤーしか使いません。極力、アナログに近い形でペンタブレットを使いたいんです。逆に、イラストなどの制作をする際は最大限にPhotoshopやIntuosの機能を使っています」

――今回、新たに発売されたIntuos5も使ってもらいました。様々な進化を遂げていると思いますが、どのあたりを特に気に入られましたか?

AZI「ワイヤレス機能がいいですよね。Intuos4の時もワイヤレス機能はあったのですが、Bluetoothでの接続だったので、他のワイヤレス機材と混線してしまい、ライブパフォーマンスのときにうまく活用することが出来なかったんです。しかし、今回は通信方法が変わり、混線する心配もなくなったので、ステージ上で自由にライブパフォーマンスができると思います」

――普段、お使いなっているIntuos3との違いについてはどうでしょうか。

AZI「ペンの筆圧や傾きの感知機能が向上しましたね。これまで以上に線の太さや濃淡をうまく表現できるようになっていると思います。また、質感や見た目のデザインも良くなっていると思います。創作活動にはそういった部分も大切になってくるので」

――そのほか、Intuos5ではタッチ機能も追加されたので、さらにアナログに近い制作環境になったと思います。

AZI「まだタッチ機能についてはあまり使いこなせていないのですが、今後使っていきたい機能です。Intuosシリーズは進化するたびにパソコン上の作業がアナログに近づいていきますよね。最先端のデジタル技術により、デジタル上でアナログな表現がどんどんリアルに再現できるようになっている印象を受けます。だからこそ、アナログなスタイルで絵を描く人にこそ、是非Intuos5を使ってもらいたいですね」

――最後に、今後どんなライブペイントがしてみたいですか。

AZI「大きいものに絵を描くのが好きなので、たとえば飛行機にプロジェクションマッピングを使ったライブペイントして、そのまま飛行機が離陸するといったパフォーマンスをやってみたいですね」

撮影:石井健
ヘアメイク:山下ひろし