ソフトバンクは9日、米PayPalと提携して合弁会社を設立し、PayPalの決済サービス「PayPal Here」を国内で提供すると発表した。一部店舗での展開を始め、7月中には本格的にサービスを開始する。

日本の決済市場を買える、と意気込む

ソフトバンクとPayPalによる「最強連合」

PayPal Hereは、店舗側のスマートフォンにアダプタを装着し、クレジットカードを読み取ることでカード決済ができるほか、PayPal口座を使うことで、クレジットカードなしでも実店舗での決済が行える。初期費用などが安く、小規模店舗でも簡単にクレジットカード対応できるのが特徴だ。

スマートフォンのイヤホンジャックに装着するクレジットカード読み取りアダプタと専用アプリ、PayPal口座を店舗側が用意するだけで、新たなクレジットカード対応POSレジなどを導入しなくても、店舗のクレジットカード対応が可能になる。アダプタはコンパクトなもので、ソフトバンクショップでは1,200円程度で販売される。

iPhoneの上部に装着されているのがアダプタ。イヤホンジャックに差し込む形で、iOS/Androidアプリがあれば利用できる。その他のプラットフォームへの拡大は検討中だという

PayPal口座は、誰でも無償で開設できる決済サービス。オンラインショッピングなどの支払いに利用することで、インターネット上で買い物の度にクレジットカード情報を入力せず決済できる。さらに、ショッピングサイト側にクレジットカード情報をはじめとした個人情報を渡さずに決済を完了できる。

多くの国と地域、通貨をサポートし、世界最大のオンライン決済プラットフォームを提供する

米国を中心に190の国と地域でサービスを提供しており、25の通貨に対応。1億1,000万ユーザーがPayPal口座を持つ。2011年で取り扱われたのは約1,180億ドルで、2012年第1四半期には1日辺り600万回のPayPal経由の支払いが行われるなど、オンライン決済では高いシェアを確保している。

PayPalを利用すると、クレジットカード情報を各サイトに登録する必要が無くなる

今回両社が提供するPayPal Hereは、オンライン決済を実店舗の支払いというオフライン決済にも拡大するための施策で、店舗側がPayPal口座とアダプタ、スマートフォンを用意。専用アプリ上に店舗で販売している商品と値段を登録しておき、支払い時には通常のレジと同じようにアプリ上で商品を選択していく。最終的に客のクレジットカードをアダプタに通し、スマートフォンの通信機能を使ってクレジットカードで決済を行う。アプリ側にはサイン画面を表示する機能もあり、スマートフォンのタッチパネルを使ってサインを行う。専用アプリはiOS、Androidに対応する。

日本は「クレジットカード後進国」(孫社長)。利用できる店舗が少ないことが原因だと孫社長は指摘する

通常のクレジットカード決済だと、クレジットカード会社から代金が支払われるのが「月に1~2回」(ソフトバンク・孫正義社長)であり、販売と入金に時間差がある。PayPalの場合、決済が行われるとすぐにPayPal側が支払いを代替して口座への入金することができ、すぐに資金が確保できる。PayPal側がその後、クレジットカード会社からの入金を受け取ることになる。さらに、PayPal HereではPayPal口座からの支払いにも対応。客がPayPal口座からの支払いを選択すると、客のPayPal口座から店舗のPayPal口座へ直接支払いを行える。この場合、クレジットカードを経由しないため、客側がクレジットカードを持っている必要はない。

実際の支払いでは、レジ代わりのアプリに品物を入力していき、最後に決済方法を選択する

クレジットカードを選んだ場合、アダプタにカードを通して決済する

現金支払いも可能

店舗側のアプリでは履歴を確認できる

PayPalでの支払いをする場合、ユーザー側にも専用アプリが必要で、客はそのアプリからPayPal Here対応店舗でチェックイン作業を行う。店舗側のアプリでは、チェックインした客の情報が表示されるので、クレジットカード決済の時と同様に購入商品を登録して、PayPal決済を選べば、その場で決済できる。チェックイン時の情報で、客の名前と顔写真が店舗側のアプリに表示されるので、最初にそれを確認しておけば、客が決済作業を行わなくても、店舗側の作業だけで支払いが済む。自動チェックイン機能もあり、例えばよく行く喫茶店では、店に入ると自動チェックインが行われ、それを店員が確認し、注文を受けたらそのまま決済ができるので、客はそのまま店を出ても支払いが行われる。

客のアプリからはPayPal Here対応店舗が検索でき、チェックインを行える(左)。すると店舗側にはその客の情報が表示されるので、そこからPayPal支払いを行える

店舗側では、PayPalに支払う手数料が1件につき5%かかるが、金額、件数問わず固定で、初期費用も最初のアダプタ1,200円分だけしかかからない。クレジットカード対応には「導入コスト10万円、支払い後の代金回収まで15~30日、5~8%の手数料」(同)がかかる従来のクレジットカード対応に比べて、低コストで導入して利用できる、という。特に「日本企業の99.7%を占める」(PayPal)中小企業をターゲットにしており、ソフトバンクの営業力や開拓力を生かして「(クレジットカード対応店舗を)100万~200万軒増やす」(同)と意気込む。

サービスは、ソフトバンク10億円、PayPalの親会社である米eBay10億円をそれぞれ出資して設立する「PayPal Japan」が提供。欧米では一般的に利用されているクレジットカード支払いが、国内では12%程度と低迷している現状で、孫社長は「クレジットカードが使える店舗が少ないのが原因」として、今回のサービスでクレジットカード対応店舗を拡大していきたい考えだ。

店舗側にとっては、現金の持ち合わせがなかったために購入できなかった商品が買えるようになったり、現金がなくては入れなかった店に入れるようになったりと言った来店客の増加、客単価の向上というメリットがある、と孫社長。「革命的な支払いを実現する」と強調する。

孫社長は、オンライン決済のPayPalをオフライン決済でも利用できるようという「O2O(Online to Offline)」が業界のキーワードと指摘し、「今後5年ぐらいでO2Oの割合を(現在の2割から)5割に拡大していきたい」考えだ。

国内のオフライン決済ではおサイフケータイが使われているが、孫社長は「入金に手間がかかったり、現実には大して使われていない。ここ数年のサービス」と断じ、PayPal Hereが置き換えるとの認識を示す。ただし、PayPal側では、PayPal HereとNFCを併用するような形で支払いを行うことも検討しており、スマートフォンをリーダーにかざしてPayPal口座から支払う、といった展開も、今後考えられる。

セキュリティに関しては、アダプタはPCI Data Security Standardに準拠した暗号化が行われており、ネットワーク経由での漏えいを防止。店舗側や客側の不正行為などによる損害はPayPal側が補償するほか、サービス開始後に、日本特有の問題が生じた場合は、その対策も検討していく。

なお、PayPal口座の開設は誰でもできるが、PayPal Hereでの決済を行いたい店舗側は身分証明が必要になる。マネーロンダリングのような犯罪対策のため、PayPal口座を使って「送金」を行う場合は同様に身分証明が必要だが、客として店舗で支払いを行うだけであれば証明はいらず、簡単に登録できる。逆に言えば、身分証明さえ行われれば、個人でもPayPal Hereを使って商品を売ることが可能で、フリーマーケットでの個人間の売買でもクレジットカードを使った支払いが可能。PayPalが合弁会社を設立するのは今回が初めてで、今回の提携により、「O2Oでもナンバー1を目指す」(孫社長)考えだ。

左からPayPal Japan社長就任予定の喜多埜裕明氏、米eBayのJohn Donahoe CEO、孫正義ソフトバンク社長、米PayPalのDavid Marcus代表

(記事提供: AndroWire編集部)