サムソンで発売したGalaxy S2にはユーザーの利便性向上の為に多様な機能が搭載されている。その基本機能の1つが「傾けることで操作する」機能だ。通常は指でなぞって文字やコンテンツを拡大したり、画面をスクロールしたりするが、Galaxy S2は傾けるだけで画面を拡大したり縮小するなどの操作ができる。

報道によれば、この機能をリリースするまでに3年という歳月がかかったという。これは、最近の開発の速度を考えれば遅いと感じるかもしれない。しかし、その多くは、開発作業ではなく、機能を体感するユーザーが実際に満足するかどうかを調査・確認するのに費やしたということである。すなわち、サムスンでは、本当の意味でのユーザーエクスペリエンス(UX : User eXperience)の有効性を重視しているということであろう。

本企画では2回にわたり、このUXをテーマに、今後のソフトウェアのあるべき姿について考えていきたい。

執筆者紹介

崔 彰桓(チェ チャンファン) - トゥービーソフトジャパン COO


1976年12月1日、韓国生まれ、35歳。03年、韓国外国語大学を卒業し、韓国貿易ITアカデミーのエンベデット課程を卒業。大学時代からプログラミングが好きで、大学に通いながらシステム開発のアルバイトをしていた。卒業後の04年、教保情報システムズの日本法人に入社。

06年にトゥービーソフト(韓国)に入社し、08年からトゥービーソフト東京支社長を経て、現在はトゥービーソフトジャパンのCOO(最高執行責任者)として当社の日本市場における営業全般を総括している。

※ 韓国のトゥービーソフトが日本事業及び顧客サポート強化を目的として100%出資し、新設された日本法人。4月2日設立。

UXの定義

ユーザーエクスペリエンス(UX : User eXperience)の考え方が先行して普及している韓国では、スマートフォン市場だけでなく最近の家電製品の広告を見ても、以前のように最新機能を全面に強調したりしてはいない。代わりに、家電製品がどのように生活の中に入り込み、ユーザーがそれをどのように楽しんで使えるかを伝えている。

Galaxy S2を傾けることで操作可能

こうしたトレンドの変化により、製品を作る企業がUXを重視するようになってきている。メディア上でUXがしばしば議論されるケースが増え、ユーザー側にもUXという言葉が浸透してきている。一方で、最近、韓国ではUXという概念が製品のマーケティング手段として登場した結果、いくつかの誤解を市場に生んでしまっている。

皆さんに改めて認識していただかなければならないのは、UXはUIではないということだ。もちろん、派手であればよいというものでもない。単純に宣伝を意識し過ぎるあまり、画面を派手に飾ることだけに注力すれば、UXの本質から乖離し、本末転倒になってしまう。

UIはUXを実現する一構成要素であり、UXはあくまで便利でなければいけないのである。したがって、ユーザーの使用環境によっても求められるUXの定義が変わってくる。例えば、同じ業務を処理するアプリケーションでも、事務所で座って利用する時と出先で移動中に利用する時では同じユーザーを対象にするが、操作する環境と使用する機能などの状況が違うので、UXを設計する際に考慮しなければならないのだ。

UXを定義する時、主に引用されるのはユーザビリティと認知科学の研究者だったヤコブ・ニールセンとドナルド・ノーマンが設立した会社のニールセンノーマングループ(NNGroup)で整理した定義だ。

原文では以下のように記述されている。

User Experience - Our Definition

"User experience" encompasses all aspects of the end-user’s interaction with the company, its services, and its products. The first requirement for an exemplary user experience is to meet the exact needs of the customer, without fuss or bother. Next comes simplicity and elegance that produce products that are a joy to own, a joy to use. True user experience goes far beyond giving customers what they say they want, or providing checklist features. In order to achieve high-quality user experience in a company’s offerings there must be a seamless merging of the services of multiple disciplines, including engineering, marketing, graphical and industrial design, and interface design.
(出典URL : http://www.nngroup.com/about/userexperience.html)

筆者が訳すと以下のようになる。

"UXは、企業、サービス、製品におけるエンドユーザーとのインタラクションの全側面を包含するものである。UXにとって最も重要な要件は、ユーザーに混乱を与えたり、わずらわしい思いをさせたりせずに、ユーザーの要求を正確に満たすことだ。そして2番目に重要なのは、ユーザーが製品を持ちたくなるような、使いながら楽しみを感じられるようなシンプルさと優雅さを両立しなければならないということだ。 真のUXはユーザーが想像する要求事項以上の操作感を提供しなければならない。水準が高いUXはエンジニアリング、マーケティング、グラフィック、工業デザイン、インタフェース・デザインなどがシームレスに統合されなければならない。"

前にも述べたが、もしUXをUIとして判断してしまった場合、UXに関連したすべての責任をデザイナーに任せてしまうことになる。

だが、本来はニールセンノーマングループの定義のように、UIはUXを構成するパズルの一切れとしてしか存在していなければならない。そして、様々な分野のサービスがシームレスに統合されるべきである。

特に企業の場合、このような認識に対するズレが大きくなる。 企業ではUXを単に派手な装い程度と理解し、ゲームに慣れた世代たちのために、それに合ったUIを作らなければならないのではないかと考えている場合が多い。そして実際そのような要求事項を盛り込んで作られた企業用アプリケーションはそこかしこに見つけることができる。その結果、初めに意図した内容とは違うものになり、失敗に終わってしまうことが多い。

先のUXの定義のように、最も重要な要件は、ユーザーに混乱を与えたり、わずらわしい思いをさせたりしないことだ。だが、外見だけ派手なUIは目的が欠如しているだけでなく、ユーザーに対して業務のアイデンティティに関する混乱を生じさせることになる。UXの本質と全体的なバランス/プロセスを管理できないままの企業も多い。

企業模索すべきは、多様なサービスを自然に統合し、ユーザーの要求を正確に満足させて楽しみまで伝えることができるプラットホームだろう。そのような基盤になりうる概念が、本稿のテーマである「ユーザーエクスペリエンスプラットホーム(UXP : User eXperience Platform)」である。