スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2011」で、Ubuntuを開発しているCanonical社は、「Ubuntu for Android」の展示を行っていた。Ubuntuは、Linuxカーネルと必要なファイルやツール、アプリケーションなどまとめたディストリビューションの1つ。

Ubuntu for Android(以下、UfA)は、Androidスマートフォンなどで、Ubuntu Linux環境を動作させるもの。基本的にUbuntuとして利用でき、アプリケーションをインストールするためのパッケージマネージャなどが利用可能になる。Androidとの違いは、アプリケーションがJava環境に制限されることなく、Linux用のバイナリコードやスクリプトなどが利用可能な、フルのLinux環境である点。Android側が持つHDMI出力を使って、高解像度の画面で利用が可能な点。

Ubuntu for Androidのデモ。画面右下のウィンドウが、Androidの画面出力を表示するウィンドウ。ハードウェアは写真左下にあるモトローラ社のAtrixを利用。専用ドックを使い、マウス、キーボードとHDMI出力でLCDモニタを接続している

また、UfAは、1つのウィンドウの中で、Androidの画面を表示させることが可能で、ファイルなどを共有することもできるという。Android側の画面(通常の実装では、フレームバッファデバイスを利用して画面表示している)をウィンドウ内に表示するためにGPU側の機能を利用しているという。

もともとAndroidは、Linuxカーネルを利用している。UfAは、そのカーネルを利用して動作するとのことだ。このため、利用できるアプリケーションバイナリは、プロセッサと同じくARMバイナリコードとなる。ARMプロセッサ以外のAndroidへの対応は現時点では未確定だという。しかし、通常のUbuntu同様、パッケージマネージャが動作でき、Ubuntuのアプリケーションを自由にインストールして利用可能なフルのLinux環境を提供しているとのこと。ただし、Android側との関連があるため、カーネルなどを差し替えることは「難しいだろう」とのことだ。

基本的にAndroidとカーネルを共有するため、Android側で可能な通信機能などは、そのままUfAから利用することが可能。3G、4Gを問わず利用できる。また、マルチコアプロセッサへの対応なども、すでにアンドロイドとして完了していることになるため、Ubuntuでも同様に効率的なマルチコアによる実行が可能だという。ただし、このUfAは、ユーザーが購入後にインストールするものではなく、Canonical社からAndroidのセットメーカーに提供されるもので、セットメーカーが自社製品に組み込んで出荷する。

同様のものに米国モトローラ社のAtrixスマートフォンなどに装備されていたWebTopがあるが、WebTopもUbuntuを利用しており、説明員によれば「基本的に同じようなもの」だという。WebTopがCanonicalの製品だったのかは聞きそびれたが、デモでもモトローラ社のAtrixを利用しており、構造的にも同じものといえそうだ。

なお、基本的な利用にあたり、ハードウェア側にHDMIによる画面出力、USBホスト機能(キーボード、マウス接続)は必須だという。また、基本的には、どちらかというとハイエンドスマートフォンを想定しており、高性能なプロセッサやGPUを持っていることが前提だという。安価でさほど性能が高くないプロセッサでも実行は可能だが、実用性があるかどうかは、やはりプロセッサ速度や実装メモリ量、GPU性能などに依存する。

Ubuntu用には、Citrix社のクライアントやVMWareなどがすでに用意されており、これらが利用できるという。開発元のCanonical社としては企業向けのシンクライアントや、新興国向けのPCなどとしての利用を想定しているという。ただ、Linuxであっても、本体実装メモリなどもあり、セルフ開発環境としては厳しいのではないかとは、説明員の言。原理的にはEclipseを入れ、開発したコードをそのまま動かすこともできるが、開発環境として実用性のある速度などになるかどうかはハードウェア次第というところか。 なお、UfA自体はオープンソースなのか? という質問に対しては、大半はUbuntuそのものなのでオープンソースとなっている部物はあるが、メーカーで開発したドライバ、もともとAndroidでもオープンソースでない部分などがあるため、すべてがオープンソースにはならないだろうとのこと。

(記事提供: AndroWire編集部)