「HTML5は分断している」と、FacebookはモバイルWebの標準化を主導する――同社のCTOを務めるBret Taylor氏が2月27日、スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2012」で明らかにした。Facebookは先に、サードパーティアプリに「Social Graph」を拡大する「Open Graph」を開始してプラットフォーム戦略を一歩進めたが、うまくいけば、モバイルアプリ市場で中心役を果たしている「App Store」「Android Market」といったアプリストアの影響力が弱まるかもしれない。

Facebook CTO Bret Taylor氏。Facebook幹部がMWCで基調講演を行うのは初めて

Facebookとモバイル製品の相性は抜群

FacebookがMWCで基調講演を行うのは初めてだが、会場にはたくさんの人で埋め尽くされた。Taylor氏はここでモバイルでのFacebookの取り組みについて語った。

Taylor氏は冒頭、「Facebookとモバイルはお互いのために作られた」とモバイルとの相性の良さをアピールした。Facebookはデスクトップアプリとしてスタートしたが、キャパシティブタッチ画面、GPS、プッシュ通知などの技術、ポータブル、リアルタイムなどの特徴により、いつでもどこでも写真や状況をアップデートし、位置情報を瞬時に共有できる。

「モバイルアプリがデスクトップの代替インタフェースとは思っていない。Mark Zuckerbergが8年前にハーバード大の寮でFacebookを開発した時、これらの技術があれば間違いなくFacebook Mobileを最初に作ったはずだ」とTaylor氏。

Facebookとモバイルの相性のよさは数値にも表れている。Facebookがスタートして8年、ユーザーは8億4,500万人に上るが、4年前に開始したモバイル版は半分以上となる4億2,500万人が利用している。南アフリカとナイジェリアでは90%以上のユーザーがモバイルからアクセスしており、北米では2011年のピークモバイルトラフィックのうち20%をFacebookが占めているという。

Taylor氏はモバイルの特徴として、「端末にはさまざまなメーカーやOSが関わっており、非常に多様なエコシステムだ」と述べる。毎月2,500種類のモバイル端末がFacebookにアクセスしており、この中にはスマートフォンはもちろん、フィーチャーフォンも多く含まれているそうだ。

Facebookを経由するアプリ発見ルートの仕組み

だが、毎月2,500種類による端末から成る多様なエコシステムは問題にもなりうる。OS、メーカーの違いを越えて結び付けるのがモバイルWebだが、Taylor氏はアプリのエコシステムの観点から見て、モバイルWebには「アプリの発見」「技術の分断化」「課金の仕組み」という3つの課題があると指摘する。

「アプリの発見」においては、Facebookは2011年秋にローンチした「Open Graph」が解決策となる。Taylor氏は具体例を示しながら、FacebookがOpen Graphによりプラットフォームになりつつあることを印象付けた。

初期パートナーであるSpotifyでは、次のようになる。あるユーザーがAndroid端末上でSpotifyのモバイルサイトにアクセスして音楽を聴くと、SpotifyのアカウントとFacebookアカウントが統合されているため、そのユーザーの友人のフィードにその情報が表示される。iPhoneを使う友人がこの曲をクリックすると、SpotifyのiOSネイティブアプリにとび、同じ曲を共有できる、というものだ。また、あるユーザーがPinterestで共有すると、ほかのユーザーのフィードに表示され、ワンクリックでPinterestに飛ぶ。

Pinterestで共有すると、Facebookの他のユーザーのフィードに表示され、ワンクリックでPinterestに飛ぶ

この結果、アカウント統合から1ヵ月でSpotifyのダウンロードは700万回となり、Facebookはナンバー1のリファラー(参照元)になったという。さらには、FacebookからSpotifyをダウンロードしたユーザーは他の手段から発見した人と比較して、有料サービスに加入する比率が2倍というから、Spotifyにとってはさらにおいしい話となっているようだ。気になるものを"ピン"するPinterestの場合、FacebookからPinterestを使うようになった人の20%(約200万人)が毎日アクセスしているという。

「iOS向けアプリ、Android向けアプリのいずれも、モバイルサイトを作成してアカウントをOpen Graphで統合すると、"ソーシャルアプリ発見ルート"ができあがる。これは、すべての端末で利用できるルートだ」とTaylor氏。ここでモバイルWebが果たす役割を、アプリ間の体験を結び付ける「糊」にたとえた。

HTML5は分断状態、モバイルWeb標準で統一化

だが、「技術の分断化」「課金の仕組み」については、「業界全体の問題」とTaylor氏。技術の分断化は、「HTML5と一口に言っても、端末の数だけ実装の種類が異なる」と問題を指摘する。そこで、「端末が一貫して実装する標準を定義すれば、アプリ開発が容易になる」と提案し、「Mobile Web Platform Core Community Group」をW3C(The World Wide Web Consortium)内に立ち上げたことを発表した。

「目標はHTML5のモバイルWeb標準の確立。この標準に準拠するアプリは、どの端末/ブラウザでも動くようになる」という。モバイルWebにおいて重要な機能を優先化し、開発者のフィードバックも反映させていく。

これを補完するのが、モバイル標準テストの「Ringmark」だ。開発者、メーカー/オペレーターはRingmarkでアプリおよび端末をテストすることで、標準がちゃんと実装されるよう支援する。標準プロセスとテストスイートの両輪により、「すべてのモバイル端末で一貫性のあるHTML5実装を実現する」とTaylor氏。

この団体には、最初に話を持ちかけたという韓Samsungに始まり、フィンランドNokia、台湾HTC、英Sony Mobile Communications(旧社名:Sony Ericsson)などの端末メーカー、米Verizon Wireless、ソフトバンクモバイル、KDDIなどのオペレーター、Mozilla、ノルウェーOpera Softwareなどブラウザベンダー、半導体企業などが名を連ねる。

「Mobile Web Platform Core Community Group」に参加する企業

スムーズな課金によりエコシステムを完成

課金の問題では、モバイルWebの場合、オペレーターが中心的役割を果たす。だがTaylor氏は、SMSによる確認の手順がユーザーにとって複雑であること、開発者にとっては多くのAPIをサポートしなければならず、スムーズな体験を提供するためのカスタマイズの余地がないことを指摘した。

ここでFacebookはオペレーターと提携し、ユーザーと開発者の両方の障害を取り除くオペレーター課金を実現するとした。ほとんどの場合でSMSによる確認ステップを省略できるという。「ネイティブアプリと同じか、それ以上のユーザー体験を提供する」とTaylor氏は述べた。

オペレーター課金の提携先のスライドでは、KDDI、ソフトバンクなどのロゴがある。NTTドコモのロゴは両方ともスライドになかった

最後にTaylor氏は、「Facebookは基本的にモバイル製品だ」とし、「モバイルWebを改善していかなければならない。問題は複雑だが楽観している。Open Graph、標準化、課金などのイニシアティブにより、世界中の開発者がすばらしいアプリを開発し、収益を得て、多くの人の生活が改善することをFacebookは望んでいる」と述べてスピーチを締めくくった。