Spainsionは2月21日に都内で記者説明会を開催、本国SpansionのCEOであるJohn Kispert氏が来日して説明を行った(Photo01)。

Photo01:2009年に同社のCEOに就任、以来経営状態の改善の指揮を執ってきたJohn Kispert氏。2010年にはChapter 11から脱却し、以降少しずつ財務状況も改善しつつある

まずは2012年1月末に発表された2011年第4四半期及び2011年通期の決算を振り返りつつビジネスの概観を紹介した(Photo02~04)。まず通期では約11億ドルまで売り上げが増え、12の新製品を投入するなどしており、また現金や預貯金などの合計は2億6000万ドルを超えるなど、財務状況が改善していること、また45nmプロセス製品の投入の準備が進んでいることや2011年中に450のDesign Winを獲得するなど今後のビジネス展開も好調であることが明らかにされた。

Photo02:2010年から同社は組み込み向けに主軸を移しており、こうした動きが功を奏していると説明

Photo03:収益の330万ドルはかなり低いが、Kispert氏によれば「第4四半期は底」だったそうで、この状態でも黒字が出せた事が、同社の改善の状況を示していると説明した。ちなみにまだ同社は4億5000万ドル程度の債務も抱えているが、2012年度中には手持ちの現金や預貯金などの合計がこの債務を上回る見通しであることも明らかにされた

Photo04:第4四半期では、日本における売り上げが37%という、普通にはありえない数字も。これは自動車業界が、品質管理の観点から同社のFlashを必要とするような製品の生産を日本国内で行っている(国外生産としない)事とも関係するとの話

また製品ポートフォリオも組み込み向けに広く分散しており、また特徴的な事として、国外の半導体メーカーとしては類を見ないほど日本国内での売り上げが大きい事も明らかにされた。

この日本向けの非常に大きな売り上げは専ら自動車向けによるところが多いそうで、これを支えるために同社は品質保証やエンジニアリング部隊として60名近くを確保している、という話もあった。

その同社の製品ラインナップは大きく4つで、現在はパラレルNORと低容量SPI、大容量SPIの3製品だが、まもなく組み込み向けSLC NANDも加わるとしている。ちなみにこのSLC NANDは2011年7月の説明で明らかにされたもので、既にSLC NANDを組み込み向けに利用している顧客が主なターゲットとなるもので、MLC NANDを利用した大容量メモリを必要とする民生用機器(メディアプレイヤーとかスマートフォンがその代表例だろう)は考えていない。この組み込み向けSLC NANDは今年後半に市場投入されるとしている。

Photo05:組み込み向けNANDはエルピーダメモリとの共同開発で、エルピーダの広島工場での生産を予定している。今のところは開発も順調との事で、エルピーダについて伝えられる苦境に関しても「彼らが『作れない』と言わない限り、生産の予定は変わらない」との話だった

もう少し用途別に製品ラインナップを示したのがPhoto06である。民生品に関して言えば規模は大きいものの伸び率はやや劣る方向にあり、逆に自動車とか通信・ゲームなどは規模は小さいものの伸び率が大きい。NORマーケット全体、という観点で言えば特に携帯電話向けの売り上げが急速に落ちていることもあって全体ではそれほど変わらないのだが、同社がフォーカスしているこうした組み込み向けではどんどんマーケットが大きくなっているという話であった。

Photo06:ゲームに関しては引き続きParallel NORでの供給が続くが、殆どの用途ではSPI経由のSerial NORに移行すると見ている

製品そのものに関しては、同社のMirrorBitを使った製品は今年で10周年となる。既に通常のFloating Gate構造の製品は90nmまでとなっており、65nm以降に関してはMirrorBitを使った製品のみとなっている(Photo07)。

Photo07:一方のSLC NANDに関しては43nmでの生産となる

現時点では同社の出荷量の80%がMirrorBit製品だそうだ。昨年7月の時点で45nm製品の開発は終了しており、以後はValidationということになっていたわけだが、現時点でもまだValidationは続いており(Photo08)、今年末に製品投入が開始されるということになりそうだ。

Photo08:随分45nmのValidationに時間が掛かっていることを尋ねたところ、65nm世代では競合ベンダに遅れを取っており、45nmでこれを取り戻すために随分時間を掛けたとの事。ただこれで45nm世代ではトップに立てるので、次のプロセスはもっと早く移行できるとしていた

面白いのはこれからである。2015年のマーケット規模は65億ドル程度になると見込まれており、まずはNORでがっちりマーケットシェアを取ると共に、SLC NANDや他の半導体メーカー向けのライセンス、そして新たにPSS向けのマーケットを積極的に力を入れていると説明した。この最後に出てきたPSSであるが、これはProgrammable System Solutionの略である(Photo10)。

Photo09:ライセンスとは、様々なMCUベンダに対してNOR FlashをIPの形でライセンス供給するという話である。このところMCUも高容量化・高速化の要求が激しいため、同社のMirrorBitの様に容量を倍増できるテクノロジーは魅力的、という事だろう

Photo10:ただしこれはeDRAM(Embedded DRAM)と思いっきり競合するのでは? と尋ねたところ「その通り」という答えが返ってきた。なので、こうした用途全体を狙うのではなく、NOR Flashのメリット(不揮発性など)を生かせる用途に絞ってまずは展開してゆくという話であった

要するに、音声とかジェスチャー、顔/画像認識といった用途では、これまでMPUあるいは専用の処理プロセッサに、外付けのDRAMなどの構成でシステムを構築してきた。要するに、処理のためにはそれなりのワークメモリが必要で、このメモリ上にパターンをあらかじめ格納しておき、入力データとパターンマッチさせるといったものだ。

こうしたものを1チップ化する、というのがPSSであり、これに向けては5F2構成のNOR Flashを提供するとしている。これも牽引するのは自動車向けだそうで、海外では既に実用化に入っている音声認識(FordのSYNCとかGMのOnStarなど)機能を搭載するというニーズが高いとの話で、こうした用途向けに提供してゆくと言う話であった。

氏の説明はこの程度だったが、プロセスに関して質疑応答から若干補足を。先に30nm世代の話が出たが、技術的にはNAND/NOR共に更に微細化することは可能だと見ているという話だった。どちらが優先か、と言えばコスト面での要求が厳しいSLC NAND向けの方がむしろ優先度が高いとか。

ただ、問題は30nm世代に向けての微細化の投資を行うに見合うだけの価値があるかどうかという話で、それに関しては今年中に決めるという話であった。ちなみに氏は具体的に30nm台のプロセスの数字は示さなかったが、昨年7月にAli Pourkeramati氏(Senior Vice President, Marketing and Business Division)が32nmは難しいという話が出ており、NAND Fhash同様に34nmとか、もしくはMCUなどへのIP供給を睨んで40nm/28nmあたりになるのかもしれない。