Apple SOSの失敗とApple ProDOSの登場。そしてApple GS/OSへ

Apple DOS 3.3と同じ時期に登場したApple IIIは、下位互換性を維持するために実装したApple IIエミュレーションモードが仇(あだ)となり、ソフトウェアベンダーがApple III専用のソフトウェアを開発せず、先進的ながらも商業的に失敗したコンピューターです。しかし、同コンピューターにはApple SOS(Sophisticated Operating System)という、階層構造を有するOSが搭載されていました。

同OSはハードウェアの拡充に伴う表示形式の改良や、同社初の外付けHDD(ハードディスクドライブ)である「ProFile」のサポートなど優れた点が多く見受けられました。しかし、前述のようにApple IIエミュレーションモードを実装するということは、既に市場的成功を収めたApple DOS 3.3が動作するということになります。そのため、Apple SOSの出番は限られてしまったのでしょう。

Apple SOSで興味深いのが、この時点でCUIによるプルダウンメニューを搭載している点。当時先進的と言われていたXeroxのALTOとは異なる形式で、Apple SOSのUIがなければ、MacOSの同メニューに至る発想に至らなかったかもしれません。この点だけ見れば、Apple IIIはMacintoshの先祖にあたるコンピューターなのでしょう。残念ながらApple IIIの再現環境を得られないため、読者にご覧いただくことはできませんが、当時筆者は都内に点在していたコンピューターショップで見たことを今でも鮮明に覚えています。興味がある方は米Computer History Museumを訪れてみてはいかがでしょうか。

さて、Apple IIIの商業的失敗と平行して同社は、Apple IIを販売していました。1983年に登場したApple IIeは従来版となるApple II plusの拡張版にあたり、OSとしてApple ProDOS 1.0を用意(標準搭載されたのは、Apple IIcから)。前述のApple SOSで培った機能を搭載しつつもも、低レベルセクターフォーマットなどApple DOS 3.3と互換性がないため、資産を移行させるには変換ツールが使う必要がありました(図07~08)。

図07 Apple ProDOSの起動画面。Apple SOSと同じく階層構造をサポートしています

図08 HDDから起動したApple ProDOS。基本的な操作を行うメニューが用意されています

Apple ProDOSは当時普及し始めていたMS-DOSを意識してか、ファイルやディスクを操作するためのコマンドが多数搭載され、影響を受けた節が見受けられます。それでも基本的なコマンドはROM BASICと連動するスタイルは変わらず、Apple DOS 3.3からの移行は難しくなったはずですが、必要スペックの向上からApple ProDOSに移行する古いユーザーは多くありませんでした。

"最後のApple II"と言われるApple II GSが登場したのは、既にMacintoshが登場した後の1986年。同コンピューターにあわせて、Apple ProDOSの拡張版が用意されました。そのため、Apple IIcまでのApple ProDOSは「Apple ProDOS 8」、Apple II GS専用のApple ProDOSを「Apple ProDOS 16」と名称変更しています。MacOSの影響を受けてか、Apple ProDOSはGUIに変更されており、もはやDOSの代名詞であるCUIは影も形もありません。それでもDOSという単語を用いたのは、商業的な理由だったのでしょう。

1986年はWindows 1.03やMac OS 3.xがリリースされた年であり、既にコンピューターのUIに対してGUI化の波が訪れていた時代です。もっとも、この時点でのGUI化は完全ではなく、再び名称変更を受けたApple GS/OSでは、ProDOSをベースにファイルシステムの拡張が行われ、古いMacintoshユーザーにはお馴染みのリソースフォークが使用可能になりました(図09~10)。

図09 Apple ProDOS 8に名称変更された同OSのシステムディスク。ディスクの操作を行うメニューが用意されています

図10 Apple ProDOS 16から名称変更されたApple II GS/OSのデスクトップ。MacOSとほぼ同じです

Apple II GSは平行するMacintoshの台頭により、その姿を消していきますが、Apple II GS System Softwareはバージョンアップを繰り返し、当時システム7と呼ばれていたMac OS 7.xがリリースされていた1993年までメンテナンスは続きました。現代のOSのリリースサイクルを踏まえますと、不思議なほど長い期間と感じますが、それだけApple IIは市場を席巻し、多くのユーザーに愛されていたのでしょう。

残念ながらApple DOSに代表される一連のOSはクローズドソースのため、現在のコンピューターでその世界観を体感することはできません。また、30年以上も前のOSを現在のコンピューターで使用するメリットも皆無。それでもApple DOSの歴史を紐解きますと、CUIからGUIへの移行期を肌で感じられるだけに、読者諸兄のなかに実機を触れる機会がありましたら是非そのマシンで時代を感じてください。

Apple DOSの紹介は以上です。ナビゲーターは阿久津良和でした。次回もお楽しみに。

参考文献

・Apple II 1976-1986 /柴田文彦(マイナビ)
・パーソナルコンピュータを創ってきた人々/脇英世(ソフトバンククリエイティブ)
・THE COMPUTER/Mark Frauenfelder(トランスワールドジャパン)
Wikipedia
Apple II World.jp

阿久津良和(Cactus)