監督デビュー作で「巨匠と呼んで」

長原成樹(左)と鎌苅健太(右)

お笑い芸人・俳優として活躍している長原成樹の自伝小説を映画化した『犬の首輪とコロッケと』で、自ら映画監督デビューを果たした長原監督と、主人公のセイキを演じた鎌苅健太に話を聞いた。

長原監督自らが、自身の荒々しくも輝かしい青春時代を回顧した同作。キムチとコロッケしか食卓に出さないお父ちゃん(山口智充)に育てられた在日韓国人2世の不良・セイキ(鎌苅)の喧嘩まみれの日々や、ミチコ(ちすん)という女性との一生に一度の運命的出会い、お笑いへと情熱を傾けていくまでを描いていく。

これまで監督作品など一本もないものの、現場ではスタッフ全員に「巨匠と呼んでください」と宣言したという長原監督。それは「やはり現場では監督が一番でなければいけない。初監督なのでスタッフや俳優に"何やねん、コイツ"と思われたアウト」という考えがあったからだ。撮影は9日間というハードスケジュールだったが、「もう楽しくて、楽しくて。2年くらいやっていたかった」と監督業にぞっこん。しかしカメラ前に立つ芸人や役者とは違い、監督は完全に裏方の仕事だ。「楽屋で皆が楽しそうにしているのを横目に、監督とは孤独なんやなと……。予算の問題で妥協しなければいけないことも多くて、ほかの監督たちはこの壁をどうやって乗り越えているのか知りたくなった」と経験して初めて理解した難しさもあった。

キャスティングの要は"大阪弁"

そんな長原監督が本作でこだわったのは、リアリティだ。「役者の99.9パーセント、関西出身です。選考ポイントは演技の上手い下手ではなく、大阪弁ができる奴というのが最低ラインだった」と振り返る。その理由を「テレビドラマで東京出身の役者さんが関西弁を使うことに違和感がありました。関西弁ってイントネーションを間違えただけでクサくなってしまうんです」と説明。現場では俳優たちに対して「上手く演じようとする必要はない、ハートで伝えろと言って聞かせました。ハートで喋れば伝わるし、勝手にその役柄に見えてくるものだから」と独自の演出論を叩き込んだ。

主演の鎌苅は大阪出身。リアリティを重視する長原演出に、見事応えてみせた。本人の前で本人を演じることにプレッシャーはあったが「監督の過去の話を聞かせてもらったり、昔の写真を見せてもらったりして役を掴んでいった」という。劇中で披露した見事なパンチパーマ姿は、監督同行のもと大阪の床屋で実際にあてたそうで「職人さんの技は芸術やと感激しました。剃りこみも初めて入れたし、役者をやっていたからこそできた経験」と嬉しそう。長原監督も「パンチパーマこそ、世界で一番美しいパーマやな!」と鎌苅の髪型に惚れ惚れだ。鎌苅は全力でぶつかっていったという本作を、俳優人生の中での分岐点と断言する。「自分の不甲斐なさも感じたけれど、本作を機にもっと前進して、その姿を巨匠に見せていきたい」と意気込んでいる。

次回作にも意欲満面

映画監督として「もっともっと作品を撮っていきたい」と口にする長原監督は「今一番撮りたいのは梁石日さん原作の『血と骨』。ご本人に会って、もう一度撮りませんか?と言いたいね」と具体的プランを挙げる。次回作を実現させるには、本作の成功は必要不可欠。目指す興行収入は?と尋ねると「う~ん、8,200円かな?今田耕司のギャラくらい払えるやろ!?」と芸人の顔を覗かせた。

映画『犬の首輪とコロッケと』はシネマスクエアとうきゅうほかにて全国公開中。