肥満の男性に多いことが知られ、長期間放置すれば居眠り運転による事故など、重大な結果を招くこともある「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」。だが、治療が必要な患者のうち、実際に治療を受けているのは1割にも満たないのが実態という。では、自分が睡眠時無呼吸症候群になっていることに、どうやったら気付くことができるのか? 睡眠時無呼吸症候群の認知・理解、検査・治療の促進を目的とする「SAS広報委員会」の中心となって活躍している、睡眠総合ケアクリニック代々木の井上雄一院長にインタビューした内容を紹介する。

――あらためて、睡眠時無呼吸症候群とは、どんな病気なのでしょうか?

上気道、特に喉が睡眠中に部分的に細くなって、閉塞して呼吸が止まってしまう病気です。10秒以上の呼吸停止を無呼吸といいますけれども、無呼吸以外に低呼吸といって、呼吸が正常呼吸の半分程度に落ちるという場合もあります。

無呼吸症というのは、「大いびき」をかくというのが特徴的で、習慣的にいびきをかく人が、5~10年たつうちに、無呼吸症に発展するケースが多いです。人は、酒を飲むと喉の筋肉がゆるむので、いびきもひどくなることが多いのですが、飲酒しない夜でもこういう現象がみられるのであれば、無呼吸症がかなり疑われます。

SASの診断基準は、無呼吸または低呼吸が1時間に5回以上おこり、かつ自覚症状を伴うものです。自覚症状としては、息がとまるとその都度、目を覚ましますから眠りが浅くなります。これにより夜間の睡眠が不十分になり、昼間に眠気が起こりやすくなります。もしこれらの自覚症状がない場合でも、無呼吸または低呼吸が1時間に15回以上おこると、SASと診断されます。

――無呼吸症になると、体にどんな悪影響があるのでしょうか?

まず、無呼吸により低酸素血症になりますし、睡眠も浅くなります。低酸素血症になる事で、心臓には大きな負荷がかかります。こういうものが総合して、高血圧が多くなり、心不全を起こしやすくなります。また、不整脈の発現率も上がり、心筋梗塞とか狭心症といった虚血性心疾患も多くなります。

睡眠総合ケアクリニック代々木の井上雄一院長

この病気は、一般的にも知られているように肥満の人に多いんですけれども、無呼吸症自体も、肥満の有無にかかわらずメタボリック症候群を悪化させる可能性があります。こうして自分では気づかない間に、悪循環におちいり合併症を生じる可能性が高まるのです。

――無呼吸症になった場合、どんな兆候が現れるのでしょうか?

冒頭にも述べたように、兆候としては、常習性のいびきと呼吸停止なんですね。夫婦だったら横で寝ている人が分かるでしょうし、旅先で同室の友人に指摘されるという人も多いです。

独身者など一緒に寝る人がいない場合は、「寝汗をかきやすい」「朝に頭痛が多い」「歳をとっていないのに夜中にトイレが近い」などの特徴があります。また、多くは口を開けて寝ている場合が多いので、「朝、口が乾いている」というケースが多いのです。

また、親御さんにいびきや無呼吸がある場合は、骨格、上気道の形態等の遺伝的の理由により、子どもが無呼吸症になる可能性が高いので、「自分もそうではないか」と疑ってみる必要があります。

――最近では、女性や子どもにも多く発症例があることが分かってきたと聞きましたが。

女性の場合、一般的には、閉経期以降に増えることが分かっています。なぜかというと、女性ホルモンは呼吸をうながす作用がありますので、閉経前までは無呼吸症は女性のほうが少ないのですが、閉経以降は、男女の発症率の差が縮まっていく傾向にあります。

また、一般的には同じ肥満度であれば、男性のほうが無呼吸症になりやすいんですけれども、ところが近年では、女性の「小あご化」「細あご化」が進んでいまして、こうした人は無呼吸症について要注意なのです。

と言いますのも、「あご=容れ物」と「舌など=中身」のバランスが悪いと、空気の通り道が塞がりやすくなるからです。肥満の場合は「容れ物」に対して「中身」が大きくて喉がつまりやすくなりますが、「小あご」「細あご」の場合は、「中身」に対して「容れ物」が小さくて空気の通り道が塞がりやすくなるのです。

最近では「ハッ」とするような若い美人の女性でも無呼吸症があり、こうした20代の「小あご」「細あご」の女性でも注意が必要かもしれません。

無呼吸症的には、日本人の「小あご」「細あご」化は、あまりいいことであるとはいえないのです。

――子どもの場合はどうなんでしょうか?

子どもの場合は、肥満の影響と扁桃腺肥大の影響で、空気の通り道が細くなって起こるケースが多いんですけれども、日中の眠気だけではなく、学習における集中力がなくなったり、落ち着きがなくなったりするケースがあります。また、安定した深い眠りの時に成長ホルモンがでますので、睡眠障害になることで、発達にも影響が出たりする場合があります。

――これまでさまざまな兆候を教えていただきましたが、無呼吸症に気付かない場合、最悪どのような事態に陥るのでしょうか?

居眠り運転による事故や、心臓に負担がかかることにより心臓病になる可能性が高まります。居眠り運転を起こす確率は通常の人の4倍、心臓病になる確率は通常の人の2.3倍といわれています。

――気付かないままでいると、大変なことになりますね。

無呼吸症というと、これまでは相当な肥満の人がかかるというイメージがあって、そうした患者さんはずいぶん治療を受けるようになったのですが、日本人の場合は、患者さんの3~4割くらいは太っていないのです。というのも、日本人の顔面、頚部の骨格は奥行きが浅いので、欧米人に比べると、低い肥満度で発症するんですよ。さきほどの「小あご」「細あご」の女性や子どもを含めて、日本では、治療が必要な人が200~300万人いると推計されますが、実際に治療を受けている人はその1割未満なのです。

無呼吸症の治療の重要性とか、予後のリスクを明らかにして、もっと積極的に診断・治療へと導く事が、生活にとっても身体にとっても絶対に必要です。

――先生も中心になって活躍されている「SAS広報委員会」も、そうした問題意識からできた組織なのでしょうか?

はい。今までは、無呼吸症に気付くきっかけが圧倒的に少なかったので、広報活動を通じてまず無呼吸症を知ってもらって、Webサイトで確認してもらえるようにしました。同委員会のサイト「グリーンピロー」を見ていただければ、無呼吸症の治療ができる約800の医療施設が検索できます。

アンケート結果では、本ホームページをご覧になった90%の方が非常に役立ったと回答して頂きました。

――今後は、どのような活動を行っていくご予定ですか?

今後は、健康診断のプログラムの中に、無呼吸症のスクリーニングをとりいれていってもらえるような方向に進歩していくものと期待しています。

――本日は、ありがとうございました。

※睡眠時無呼吸症候群について、詳しくお知りになりたい方はこちら(グリーンピロー|睡眠時無呼吸(SAS)検査促進キャンペーン)