先週はCES 2012開催中のためか、Windows 8の公式ブログであるBuilding Windows 8も更新されなかった。そこで今回は趣向を変えて、Microsoftが再び進出する可能性が高いであろう同社のPCゲーム関係に関するレポートをお送りする

MicrosoftのPCゲーム黄金期を取り戻せるか

カナダのニュースサイトcanada.comが報じた記事によると、Microsoftがゲーム開発を行うための新スタジオ「Microsoft Studios Victoria」を近くオープンするだろうと報じている。執筆時点では、Microsoftのプレスリリースサイトによる公式発表は見つけられなかったものの、同スタジオ名で検索を行うと、Interactive Entertainment Business部門によるソフトウェアエンジニアの募集が行われていたことがわかる。

もちろん同社のゲームスタジオ新設は、大して目新しい話ではない。元々同社はMS-DOSやWindows OSといった自社製OSをプラットフォームとしたPCゲームに力を入れてきた。海外では根強い人気を持つFPS(First Person shooter)ゲーム「HALO」シリーズや、RTS(Real-time Strategy)というジャンルをメジャーに押し上げた「Age of Empires」シリーズはPCゲームに疎い方でも、名前を聞いたことぐらいはあるだろう(図01~02)。

図01 MicrosoftのFPSゲーム「Halo」シリーズ。画面はシリーズ二作目。(C) 2012 Microsoft Corporation. All rights reserved.

図02 同じくMicrosoftのRTSゲーム「Age of Empire」。シリーズは三作目まで作られ、拡張キットも登場した。(C) 2012 Microsoft Corporation. All rights reserved.

そもそも同社の代表作と言われた「Microsoft Flight Simulator」シリーズが登場したのは、MS-DOSが大きなシェアを確保しつつあった1982年頃の話。当時はCGA(320x200ドット/四色 or 640x200ドット/二色)という現在では想像しがたい低解像度だったが、ユーザーは想像力をフルに高めつつプレイに没頭。その後も同シリーズはバージョンアップを重ね、MS-DOS上でも高解像度が実現し始めた頃には、代表的なPCゲームに数えられるほどだった。

その後の同社は、Lionhead Studiosや343 Industriesといった有名どころのゲーム開発チームを傘下に収め、前述のようなタイトルをWindows OSで動作するPCゲームとしてリリースしてきたが、2001年(日本は翌年)に登場したXboxでその比重は大きく変化することとなった。Xboxの歴史は冗長になるため割愛するが、その余波でPCゲームのタイトルは激減するようになる。「Games for Windows」と名付けられたPCゲーム専用サイトを見ると、最後にリリースされたのが2011年5月の「FABLE III」であり、その前は2009年11月。往時の盛り上がりを知る一ユーザーとしては悲しい限りである(図03)。

図03 執筆時点で撮影したWindows OS向けゲームタイトルの公式サイト「Games for Windows」。新作タイトルが並ばず寂しい限りだ

だが、今年早々から興味深い話題が報じられた。Microsoft Flight Simulatorシリーズの最新作「Microsoft Flight」が発表されたのだ。前作である「Microsoft Flight Simulator X」がリリースされたのは2006年(日本は翌年)だから6年ぶりとなる。元々は2010年頃から公式に発表されていたのだが、ようやくベータテストレベルに達し、公式サイトに用意されたサインアップを実行すると、同社のベータテスター向けサイトであるMicrosoft Connectにアクセスして、同ベータテストへの参加を経て招待状を待つことになる(図04)。

図04 「Microsoft Flight」の公式サイト。現時点ではベータ版のため、すぐにプレイすることはできない

図05 「Games for Windows Marketplace」のクライアント画面。Windows Live Messengerと同じUIを採用している

なお、Microsoft flightで無料プレイできるのはハワイ諸島に限定され、他の地域や異なる機体で飛行するには料金がかかる予定だが、その価格設定に関しては明らかになっていない。ここで注目すべきが「Games for Windows - LIVE」の存在だ。Xbox 360ユーザーなら周知のとおり、Xbox LIVEで培われたオンラインサービスをWindows OSに拡充し、異なるプラットフォーム間でのゲームプレイを楽しむためのサービスである。

Games for Windows - LIVEは2007年から始まり、当初は有料会員/無料会員という二つの会員制度を設けていたが、当時の有料サービスに対する概念にそぐわず、翌年には完全無料化。その後バージョンアップを重ね、Windows OSに導入するクライアントは2009年に登場したバージョン3.0を境に「Games for Windows Marketplace」という名称に変更されている(図05~06)。

図06 ログオン後はダウンロードしたアイテムなどが表示されるものの、何らかのタイトルを購入/ダウンロードしたアカウントでないと何も表示されない

前述のとおりGames for Windows LIVEは、Xbox 360とWindows OSという異なるプラットフォームをつなぐと同時に、セーブファイルの管理やコピープロテクトなどを制御する側面も備えているが、結局のところMicrosoftがPCゲームタイトルに積極的ではないため、同じゲーム空間を共有する場面は少ない。確かに「grand theft auto IV」のように他社製PCゲームでも、Games for Windows - LIVEを取り込んでいるタイトルも存在するが、PCゲーム全体に普及しているとは言いがたいのが現状だ。

同社は2010年からクライアント名に合わせた同名のPCゲーム/コンテンツ配信サイトを運用しているが、この種のサービスでは先行し、知名度だけでなくラインナップも充実しているSteamの足下にも及んでいない。同社はGames for Windows Marketplaceのテコ入れとして、「Microsoft Flight」の無償提供および有料コンテンツの配信という方法を選択したのだろう。

ファミコンの登場を横目に当時の8ビットコンピューターでゲームを楽しみ、現在もコンシューマ機器のタイトルよりもPCゲームをプレイすることが多い筆者としては、PCゲーム配信サービスが増えるのは歓迎すべき流れである。だが、これまではWindows 8やWindows Phone、Officeスイートなど多角的な経営を求められる同社の"本気度"を感じることができないのが正直な感想だ。新しいゲームスタジオの新設が、過去の栄光を取り戻す契機になることを期待したい。

阿久津良和(Cactus)