10月11日、厚生労働省は、厚生年金の支給年齢を段階的に68歳まで引き上げる案を提案した。現在、厚生年金の1階建て部分と呼ばれる定額部分(国民年金相当)に関しては65歳からの支給となっている。2階建て部分の報酬比例部分に関しては平成12年の法改正によって厚生年金の報酬比例部分が65歳まで引き上げられることとされている(男性は平成25年度から、女性は平成30年から12年かけて段階的に実施)。

収入空白期間の「魔の5年間」がさらに延びる可能性

しかし、今回の提案はさらに68歳まで支給開始年齢を引き上げるという内容だ。これまでも60歳で定年退職して年金が支給される65歳までの"収入空白期間"を「魔の5年間」と呼び、この間の家計をどう維持するかが問題になっていた。単純に年間400万円を支出すると、5年で2,000万円。退職金のほとんどが消えるという計算になる。これに対応すべく高齢者雇用安定法の成立で、企業側も(1)定年の引上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年制の廃止、のいずれかの措置を取ることが義務付けられた。

今回の提案がもし実現されれば、収入空白期間はさらに延びる。ちなみに厚生省は段階的な引き上げスケジュール案を提案しているが、中でも最も早いペースでの引き上げ案に従えば、1960年生まれの世代以降から68歳支給ということになる。

ただし、年金受給の条件は今後さらに厳しくなりそうだ。少子高齢化が進み財源はますます厳しい状況となる。折からのデフレ不況がそれに拍車をかける。支給年齢も支給額も、今後さらに厳しい状況になる可能性もある。うすうす気が付いているとはいえ、もはや年金はアテにできない時代。収入空白期間をどうするか、自分なりにしっかりとしたマネープランを立てる必要がある。

「教育費」と「住宅費」の見直しを、隣県のレベルの高い公立高校は魅力

定年後の家計を維持するための方法は二つしかない。一つは若いうちから老後の生活費を蓄えておくこと、つまり貯蓄。もう一つはこの期間も働いて収入を得ること。貯蓄するためには光熱費や遊興費など日々の節約だけでは到底難しい。思い切った固定費の見直しが必要だ。

この時期の大きな出費である教育費と住宅費、この2つをいかに切り詰めるか。とくに東京や大阪などの大都市に暮らす人にとって、この支出削減は避けては通れない。たとえば小中学校から名門に通わせエスカレーターで大学までというコースはますます高嶺の花となる。高校までは公立に通わせる人が増えた。実際、最近は公立高校のレベルが急上昇、かつてのように私立に通わせなければけないという状況ではなくなった。

さらに思い切って、近郊の中都市への引っ越しも視野に入れてみる。例えば東京に住んでいる家族なら、隣県への引っ越しも考える。埼玉なら浦和高校や川越女子高、千葉なら千葉高校や船橋高校のように、レベルの高い公立高校は隣県の主要都市に多い。そういう郊外都市に引っ越せば家賃も安く、しかも公立で高い教育を受けることも可能になる。教育費と住宅費を一緒に減らすことができ、トータルすると5,000万円近くの削減になる。

もっと極端に田舎暮らしを選択する人も増えている。もちろん仕事との絡みもあるが、家賃や教育費はもちろん、日々の生活費もかなり安くなる。いずれにしても、自分が何に価値を置き、どう生きたいのかという優先順位をはっきりさせる。その上でしっかりとした人生設計を立てることが必要なのだ。

ホワイトカラーなら、人事や経理、営業など各分野のスペシャリストに

もう一つの方法は自分が働ける期間を延ばすということ。内閣府の調べでは、60歳以上の男女にいつまで働きたいかと答えたところ、70歳以上と答えた人は全体の49.6%にも登っている。働きたいと言うよりも働かざるを得ないと感じているのがホンネかもしれない。

企業の方はと言えば、すでに96.6%の企業が高齢者に対して何らかの雇用確保措置を実施しているという。ただしその実態は決して楽観できるものではない。収入が激減することは当然にしても、雑用だったり若い社員に使われて仕事をする状況に耐えられず、結局離職する人も。良い労働条件、労働環境とは言えないのが実情だ。

いまの会社の中で継続雇用を望むにしても、あるいは別の仕事を探すにしても、より良い労働条件で働くために、今から戦略的に計画し準備する必要がある。専門的な技術を身につけ、その道のプロになる。高齢になっても会社に取って必要不可欠の人材になることだ。技術職ならその技術を磨くことはもちろん、ホワイトカラーでも、人事や経理、営業など各分野のスペシャリストになる。そうなれば独立も視野におけるので選択肢が広がるはず。

そのための資格を取ることも一つの方法だ。資格は役に立たないという主張もあるが、FPや社会保険労務士などの資格を在職中に取得、定年後に独立して稼いでいる人もいる。いずれにしても、年金がアテにできなくなっている今、若いうちからの計画と準備が必要なのだ。

定年後に田舎に移住するのも有効な選択肢

貯蓄と収入確保、どちらかではなくこの二つを同時にやっていく必要がある。まずは徹底した節約とコストダウンで、貯蓄を増やす。同時に将来の収入空白期間を想定し、長期で働くための戦略と準備をする。これまで以上に忙しい状況だが、それが求められていると言うのが現実だ。

定年後に田舎に移住するのも有効な選択肢。家賃も安くなるが、物価が安いのも魅力。というのも年金の支給額は日本全国どこで暮らそうと同じ。ならば物価の安いところで暮らせば、それだけたくさんもらえるということになる。中には田舎に住居を構えながら、インターネットで地元の名産を通販し収入を確保している人もいる。

老後の生活が厳しくなることは自明だが、今から長い目で人生をプランニングする。困難な状況をテコにして、むしろさまざまな可能性を探るきっかけにしたい。

執筆者プロフィール : 本間 大樹(ほんま たいき)

月刊誌の編集を経てフリーの編集、ライター。経済、マネー、法律などの分野を中心に雑誌や単行本を執筆している。