独SAPは11月15日から3日間、中国・北京で「China SAPPHIRE Now/TechEd 2011」を開催した。16日にはCTOのVishal Sikka氏が登壇し、ITランドスケープのシンプル化、リアルタイム、エンドユーザーのエンパワーの3つからSAPの刷新計画を説明した。

SAPは2010年はじめに共同CEO体制に移行、製品側もこれまでのオンプレミス中心からモバイル、オンデマンド、インメモリの3つの技術トレンドを柱に新境地を切り開いている。Sikka氏はCTOとして、これらの技術開発と統合を統括する立場にある。

SAPのCTO、Vishal Sikka氏

Sikka氏はこの日、3つの柱の中でも他社との差別化としての要素が強いインメモリを中心に話をした。データをシステムのメモリに保持することで高速にアクセスできるインメモリは、共同設立者のHasso Plattner氏のアイディアの下でPlattner氏とSikka氏が暖めてきたプロジェクトで、インメモリアプライアンスの「HANA」が2011年6月に一般提供となった。Sikka氏はHANAとそのメリットについて、(1)ITのシンプル化、(2)リアルタイム、(3)エンドユーザーへのリーチ、の3つから説明した。

Sikka氏はまず、ビジネス戦略を支えるITという位置づけからHANAがビジネスに何をもたらすかについて、5つの点を挙げる。

  • 事前に想定していない質問をインタラクティブに投げることができる
  • 構造化データ、非構造化データ、オブジェクト、キューブ、グラフとさまざまなデータを含む巨大なデータに対してクエリをかけられる
  • (ほとんど)リアルタイム
  • 高速に回答を得られる
  • ビジネスユーザーが使える

この5つがそろえば企業は高速かつ価値ある意思決定が可能となる。だが実現には、これまでとは比較できないほどのパフォーマンスが必要だ。1000倍、1万倍、10万倍と高速化が可能なHANAなら、それができる。

HANAは2010年秋にランプアップとして早期提供を開始以来、すでに2桁の顧客がメリットを体感しているという。会期中、数々の事例が紹介されたが、Sikka氏も講演中に企業名を挙げて導入が進んでいることをアピールした。

非SAPデータをHANAで動かしている例としては、ドイツのモバイルオペレータT-Mobileの例が紹介された。14週間で稼動に入り、顧客管理、プロモーション管理などで利用しているという。SAPデータとしては、地元中国のミネラルウォーター企業のNongfu Springが挙がった。登壇したNongfu Springの幹部によると、「Business Objects 3」とOracleデータマートの組み合わせでは215秒かかっていた財務レポートが、「Business Objects 4」とHANAで2.1秒に、最速で1.8秒を記録したという。運送コストの計算では、1日かかっていた処理が1000倍短縮され3.5秒に。HANAはSAP以外のデータにも対応するため、顧客やパートナーのデータも活用できると喜びの声を上げた。現在はモバイル対応も進めていると明かす。

また11月に入って発表された「SAP NetWeaver Business Warehouse(BW)」への対応をいち早く活用した例として、4週間で運用に入ったというRed Bullの名前が挙がった。

このほかにも、日本のヨドバシカメラの事例も紹介された。同社はHANAを導入して500万人が登録するポイントカードプログラムのインセンティブ計算を行っており、SAP ERPとOracleの組み合わせで3日かかっていた計算が2秒に短縮されたという。「12万5000倍だ」とSikka氏は胸を張る。