いろいろな人がいるのが組織であり会社である。会社の業績、もっと小さく見るならチームやプロジェクトを成功に導くのはチームのコラボレーションだったり、数人の有能な人の手柄だったりさまざまだろう。だが、あまり語られないのが「足を引っ張る人」がもたらすマイナス要因だ。仕事が遅いだけならまだしも、チームにネガティブな雰囲気を与えるような人もいる。

こうした足を引っ張る人に何かしら対策はないのだろうか? スタンフォード大の経営学教授、Robert Sutton氏がWall Street Journalに「悪影響を及ぼす少数の人がすべてをダメにする(How a Few Bad Apples Ruin Everything)」という記事を寄稿している。

チームを組む時、社員を採用する時、上司や人事担当は優秀な人材を選ぼうとする。当たり前の心理ではあるが、会社やチームに悪い影響を及ぼすかどうかという視点は少ない。しかし、Sutton氏は「チームを引っ張ってくれる優秀な人材を採用・起用するのと同じぐらい、組織にとって悪い影響を及ぼす人を雇わないことも重要」という。

実際、これを裏付ける調査結果がいくつかある。Sutton氏はその代表例として、米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の心理学教授のRoy Baumeister氏らが2001年に発表した論文「Bad Is Stronger Than Good」(悪は善より強い)を紹介する。

ネガティブな思考、気持ち、振る舞いはポジティブなものよりも長くはびこり、及ぼす影響も大きいという内容だ。同じような調査を職場に絞って行ったのが、組織の行動心理を専門とするオランダ・エラスムス大学ロッテルダム経営大学院のWill Felps氏らだ。Felps氏らは、メンバー数が5人~15人程度の職場や作業環境を調べた結果、責任逃れをしたり、仕事に対する態度がいい加減だったりと、"悪い"人が組織の中にたった1人でもいると、パフォーマンスは30%~40%も下がることがわかったとしている。

英語に「腐ったリンゴは隣を腐らす(The rotten apple injures its neighbor)」ということわざがあるが(意味は「痛んでいないりんごの中に腐ったりんごを入れると、その周りからじわじわ腐っていく」)、組織も同じだという。だが、「世間はこのような"病原菌"になりかねない人を見抜くことには関心が向いていない」とSutton氏は指摘する。そのための指標も開発されていないようだ。

では、誤った人材採用で組織をダメにしないために、どうすればよいのだろうか? まずは、そのような人が組織に入り込まないようにする、つまり採用しないことだ。だが、エリート校出身だったり、会社が求めている技能を備えていたりするかもしれないし、このような人に限って面接ではアピール上手な場合もある。そのため、「選考時にこれまでとは違うアプローチが必要だ」という。

例えば、現実に近い作業環境を経験してもらえば、チームメンバーとしてどのように振舞うかがある程度わかりそうだ。米国のモバイルアプリ企業では応募者を実際の作業環境に入れてみて採用を決定するという。こうすれば、「困った場面に遭遇した場合どう対応するか」、「わからないことに出くわした時、誰にいつそれを聞くか」といったことがわかる。現場のスタッフの意見も得られるし、どの程度のスキルがあるのかも把握できる。

Sutton氏は、採用段階で回避するだけではなく、そのような病気が発生しない社風作りも大切だと指南する。例えば、働きがいのある企業として知られている財務サービス企業の米Robert W. Baird & Coでは、わがままや失礼な態度を容認しないという"不快な人・ゼロ"ルールを敷いているそうだ。同社は、採用段階から応募者にこのルールを明確に説明し、勤務中にルールを破った場合は解雇もありうることを伝えているという。そのような兆候が出てきた社員については、すぐさま改善を図るよう働きかけ、影響が広まらないようにしているのだそうだ。

このような対策を講じても、悪い影響を与える人が組織に残っている場合もあるだろう。その時は、「コーチング、警告、奨励などの対策によって振る舞いを抑制したい」とSutten氏。あるいは、チームから離すなどの対策も有効という。

ある会社では、有能で希少なスキルを持つが態度の悪いエンジニアがいたが、チームのリーダーはその人を解雇できなかった。そこで、チームが勤務するオフィスから少し離れたところに、そのエンジニア専用に美しいオフィスを用意した。すると、チームメンバーはそのエンジニアがいなくなって雰囲気がよくなり、エンジニアは美しいオフィスに1人で働くことのほうを好み、結果として全員がハッピーになったという。

それでもSutton氏は、チームの雰囲気を悪くするような人を有能だからという理由で雇い続けることに警告し、あるアパレル小売企業の例を紹介する。その企業には、成績優秀なトップセールスマンがいたが、会社にとっては悪い影響をもたらす存在だった。思い切って解雇したところ、社内の雰囲気が好転し、その人の同期生たちが同じぐらいの成績を上げるようになった。その結果、その企業は売上高を30%近く増加できたという。

いかがだろうか。採用する側、管理する側に向けたアドバイスではあるが、チームメンバーとしても"腐ったりんご"になっていないか、自戒したい。