日本科学未来館では2011年8月下旬から9月上旬にかけて、新規常設展示のオープンや、展示内容の入れ替えを実施した。1つ目の紹介となるのは、8月21日に3階「技術革新と未来」エリアにオープンした「2050年くらしのかたち」だ(画像1)。同エリアの2年ぶりの新規展示で、有機ELパネルを利用した世界初の地球(球体)ディスプレイである2代目「Geo-Cosmos」が吊られている吹き抜けのすぐ横にある(画像2)。展示床面積が約120平方メートルだ。

画像1。「いとおか市」の大型ディオラマ。目の前で撮影すると、画像サイズが4:3の比率だと左右が入らないほど広い

画像2。「2050年くらしのかたち」は3階の「技術革新と未来」エリアにあり、有機ELパネルで構成された地球ディスプレイの2代目「Geo-Cosmos」がすぐ横手に見える絶好のロケーション

「ひとりひとりの願いがつくる未来」をコンセプトにしており、持続可能な社会を形成するこれからの世界に求められるライフスタイルと、それに必要な科学技術をともに考える展示となっている(画像3、4)。2050年の生活や社会がどのようなものかを見ることができ、なおかつ同市の市民となれるという内容だ。

画像3。ディオラマは架空の都市「いとおか市」を表現したもの。手前には、内部を見られる建物が建っている。円形の建物というのは現在ではなかなか建築されることがなさそうだが、生活自体はそう大きくは変わっていないようだ

画像4。個人用のヘリコプターが交通手段として利用されている模様。現在も1人乗りヘリコプターは存在するので、法の整備と量産による機体の低価格化、多数が飛んだ時の安全面の問題などをクリアできれば、実現しそう

楽しみ方は、展示の中心となる「いとおか市」の大型ディオラマの街中を散策することから始まる(画像5)。入口で1人ひとりのデータを書き込むためのチケット(もちろん無料)を取り、それをディオラマの前に設置されたジェスチャー操作装置にセット。ここでエリアを選択すると、街中の様子を見られるというわけだ(制限時間は5分間)。

画像5。チケット。1回の体験で1枚利用するので、何回も体験したい場合は、その度に新たに取ることになる。特に回数制限などはない

ここでの映像は、実際にディオラマ内に設置されたカメラからのものにAR技術で画像を重ねたものが表示される(画像6)。建物がより建物らしく見えるようにテクスチャが貼られ、路上には「いとおか市民」がいるというわけである。もちろん、市民には話しかけることが可能で(画像7)、話を聞き終えると市民から未来の技術に関する「技カード」というものがもらえる。このカードが、後ほど市民申請をする際に必要となる仕組みだ。市民は全員で61名が登場し、どのエリアで誰に話しかけるかによって、35種類あるカードの内容が変わってくるのである。

画像6。街中の様子。実際にディオラマ内のカメラからの映像にAR技術でテクスチャを重ねている。カメラは、画像3のディオラマで、街中の各所にある黒い横長のもの。左右にパンすることができ、各エリアを見回せる。なお、制限時間の5分だと、さすがに1回の体験では全エリアを見るのは難しい

画像7。全部で61人の市民が登場する。下は3歳から、上は120歳まで、2050年の技術で健康寿命が大幅に伸びている模様だ。ちなみに彼女は榛名明日香(はるな・あすか)さん、21歳。総合病院勤務だが、研修のために地域診療所でMRIの助手を務めている

ちなみにこのディオラマには、以前の展示の磁気浮上列車「マグレブ」を小型化したものが走行している(画像8)。実際に磁気浮上して走行しているので、リニアモーターカーを実際に見てみたいという時には、参考にできるスケールモデルというわけだ。

画像8。磁気浮上列車「マグレブ」。マグレブらしい高速感を出すためにスローシャッターで流し撮りをしてみただけで、実際にはそんなに速く走っているわけではない。ディオラマの周囲に解説があるわけではないが、35種類の技カードの中には「リニア高速鉄道」がある

そして、街中を見て回るときのジェスチャー装置もまた要注目。マイクロソフトの家庭用ゲーム機Xbox 360の周辺機器「Kinect」(キネクト)を利用しているのだ(画像9、10)。ご存じの方も多いかと思うが、Kinectはコントローラを持ったり、センサなどを身につけたりせずとも、ただ普段着のまま自分の身体を動かすだけでキャラクタやカーソルなどを操作できるモーションセンサ型のインタフェースだ。タッチディスプレイでも十分という意見もあったそうだが、2010年代の新しいインタフェースを体験してもらいたいということで、同館で初となるゲームの周辺機器を内蔵した装置となったそうである。

画像9。街中を見て回れるモニタの上にKinectが収納されている。これで画面内にある水色のボール型をしたカーソルを動かし、エリアや市民などを選択する

画像10。センサ部分の穴の拡大。ご覧の通り、後ろ側にKinectが収納されているのがよくわかる

こうして5分の制限時間内に技カードを集められるだけ集めたら(最大で5~6枚ほど)、別の端末に移って(今度はタッチパネル式モニタ)、市民申請を行う。獲得した技カードの中から好きなものを選んで(画像11)、それに関わる職業に就き、「いとおか市」の生活をより豊にするためのアイディアを考える(選択するだけなので、自分でアイディアそのものを考え出す必要はない)。そして、住民票が発行される(画像12)。どんな職業を選択したかといったことで、市の状況が変化し、環境、もの、個人、社会の4つの指標が増減するのだ。

画像11。獲得した技カードの内から、最も興味のあるものを選ぶと、それに関連する職業に就くことになり、市にどのような貢献をするかが決まってくる

画像12。住民票。パーソナルモビリティの技カードがあったのでそれを選択してみた結果、パーソナルモビリティ・デザイナーというとてもスタイリッシュな職業に就くことができた。居住地はベイエリアなどとちょっとしゃれた場所を選んでみた

また、この展示を体験した後、自宅に帰ってからも楽しみが用意されている。チケットにプリントされた番号を使って、特別サイト「2050年くらしのかたち」でログインすることができ、その後の市の状況がどう変化したかを見られるのだ(画像13)。より多くの人が体験すればするだけ、市の状況は変わっていく。もしもっと影響を与えたいというときは、新たに体験すればよい(毎回体験する度にチケットを取り、新たな市民となる必要がある)。

画像13。特別サイト「2050年くらしのかたち」では、いとおか市の街(各エリア)の紹介、市民一覧表、生活や社会を支える技一覧表などを見られる

西暦2050年は遠いようでいて、同館を訪れる子どもたちの多くが実際に生活することになるであろう時代だ。ぜひ現実の世界も、環境を維持しつつ、未来の便利な生活を実現した「いとおか市」のようになってほしい。環境と未来の便利さの両立をみんなで考えたい展示である。