2011年5月7日に公開され、全国でロングランヒットを続ける新海誠監督の最新作『星を追う子ども』。現在、都内での再々上映がスタートしているが、9月3日(土)には、東京・キネカ大森で行われた再々上映御礼イベントに新海監督が登場した。

キネカ大森にて舞台挨拶を行った新海誠監督

現在、『星を追う子ども』は月刊コミックフラッパーおよび月刊コミックジーン(いずれもメディアファクトリー刊)にてコミカライズが行われているが、9月3日のイベントには、ゲストとして月刊コミックフラッパー編集部の粟田哲哉氏と、月刊コミックジーンにて『星を追う子ども アガルタの少年』を連載しているひだかあさひ氏がゲストで出演。新海監督とコミカライズ作品についてのトークを繰り広げた。

『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』といった過去の作品が、コミカライズおよびノベライズされている新海作品だが、それらを「恥ずかしくて、なかなか勇気を持って読むことができない」と語る新海監督。その理由は「すごくよく出来ているから」。「映画製作というのは、2年ぐらいかけてボロボロの満身創痍になってようやく作り上げるわけですが、それを土台にして新たに解釈していただいて、漫画なり小説なりを描いていただくと、遥かに洗練された説得力のある形になっている。同じ作り手として"悔しいなあ"という思いもあって、なかなか冷静になって単純に楽しむことができない」という新海監督だが、『星を追う子ども』も完成から数カ月が経ち、今ようやく楽しんで読めるようになってきたと笑顔を見せる。

今回のコミカライズにおいて、コミックフラッパーで三谷知子氏が描く『星を追う子ども』は、原作の映画にできるだけ忠実に沿ったものとなっているが、ひだか氏の描く『星を追う子ども アガルタの少年』は、そのタイトルどおり、シンを主人公にしたアナザーストーリー。そのコミカライズにあたってひだか氏は、「すでに三谷先生がメインストーリーを描かれていたので、シンを主人公にした場合に、同じ時間軸の中でどういう風に映画と変わっていくのか? そして、シンを主人公にしても変わらないところ、そういうところを描きたかった」と語る。

一方、三谷氏に依頼することになった経緯について、「作品の世界観を壊したくないという思いから、絵柄に親和性のある方にお願いした」という担当編集の粟田氏。「三谷さんは丸みがあって、温かみのある絵柄をかける方で、女の子を表情豊かに描ける」という理由を挙げた。

2つのコミカライズ作品を比べて、「三谷さんの漫画だと、アスナがすごく女の子らしく可愛いく描かれているが、ひだかさんの漫画だとシンが可愛い」という新海監督。特にアナザーストーリーとなるひだか氏の作品については、「まずシンとシュンの2人の関係が描かれているのがすごく新鮮だった」との感想を述べる。映画を作るにあたって、もちろん彼らがどういう兄弟だったのかということは考えられていたが、あまり具体的なシーンについてはイメージしていなかったとのことで、シンとシュンの関係性に加えて、モリサキとの関係にも触れ、「映画では2時間にさまざまなテーマを入れるため、そこまで掘り込めていないところなので、読んでいると『ああ、うまく描けているな』と思って、いろいろ勉強になる」と絶賛する。

コミカライズの作者から観て、映画版で気になるシーンは? という新海監督からの問い掛けに、粟田氏が三谷氏の好きなシーンとして、「シンが笑顔を見せるエンディングの短いカット」を挙げる。そのシーンは本来、絵コンテにはなかったシーンとのことだが、「どうしてもシンがスッキリとした表情で笑っている顔があったほうがいい」という思いから、「これ以上、スケジュールもお金も余裕がないから、1カットも増やさないでください」と言われつつも黙って挿入したというエピソードを明かす新海監督。「今になって思えば、僕が正しかったことがプロデューサーにも伝わったんじゃないかと(笑)」。ひだか氏も、まさにそのシーンが好きであると同意する。

一方、新海監督がコミカライズ作品の中で好きな描写は、コミックフラッパーで連載中の作品では「子ども時代のアスナの描写と全体的なドラマ展開の上手さ」を挙げ、「映画版を上手く補い、映画版の良かったところを上手く引っ張ってくれていて、すごく納得のできる展開になっている。その組み立て直し方の上手さが三谷さんの優れているところ」と論評する。そして、コミックジーンに連載されているひだか氏の作品については、シンとシュンの関係に加え、「モリサキがキュートに描かれているところ」や「シュンが地上に出て行くときの展開」などを挙げた。

イベントの最後にはプレゼント抽選会も行われた

新海監督は現在、11月25日にリリースされる『星を追う子ども』のBlu-ray/DVDに向けての作業を行っており、特典として収録される主題歌「Hello Goodbye & Hello」のPVを製作中だが、このPV用に、子ども時代のシンとシュンのカットを新規で作り下ろしているという。「ひだかさんと三谷さんの漫画の影響を受けてしまいました(笑)」(新海監督)。

三谷氏の描くコミックフラッパー連載の『星を追う子ども』は、現在コミックスの第1巻が発売中で、2012年の2月ごろに第2巻が発売予定。コミックジーン連載中のひだか氏が描く『星を追う子ども アガルタの少年』は、11月ごろにコミックス第1巻が発売予定とのことなので、こちらもあわせて注目しておきたい。


公開から4カ月を経た『星を追う子ども』だが、劇場での公開はまもなく終了を迎える。現在東京ではキネカ大森にて上映中となっているが、2011年9月15日(木)、「再々上映御礼イベントVol.3」としてふたたびキネカ大森にて新海監督の舞台挨拶が行われる予定。詳細については、『星を追う子ども』の公式サイトならびに劇場HPをチェックしてみよう。

(C)Makoto Shinkai/CMMMY