かわさきコンテンツアワード2011事務局の主催による「アドビ システムズ×かわさきセミナー」の第2弾『タナカカツキ氏が語るツールの進化とクリエイションの関係』が開催された。セミナーでは、マンガ家であり映像作家としての顔も持つタナカカツキ氏が、現在情熱を傾けている水草水槽とCG作品の表現方法の関連性などについて、"熱く"そして"楽しく"語ってくれた。

パネラーのタナカカツキ氏(左)と、アドビ システムズの太田禎一氏

コンピュータではイメージを超える作品ができる

セミナーの冒頭でタナカカツキ氏は、手書きで原稿を作成するための「ペン」や「定規」といったツール「画材」と、コンピュータ・グラフィックを作成するためのツール「アプリケーション」の違いに関して解説。制作過程や使い勝手などの異なる部分は色々とあるが、タナカ氏が着目したのは、頭の中にあるイメージをそのまま原稿用紙に具現化させる画材に対して、アプリケーションはエラーや入力ミスなどによってイメージを超えた映像ができ上がることだという。

タナカ氏がセミナー3日前に作成したという映像作品

現在では、ぼんやりとしたイメージのみで数値を打ち込み、イメージを超えた作品をコンピュータが生み出してくれるのを楽しむこともあるというタナカ氏。実際に、その方法で3日前に作成したという幾何学的な模様が回転する映像作品が紹介されたが、この映像をどのように加工するのか、利用するのかがクリエイターの手腕だという。

エラーによって輪郭が崩れてしまった人体の3DCG

次に、輪郭が崩れてしまった人体の3DCGを参加者に見せたが、これは何らかのエラーによって作られてしまったCGとのこと。しかし、このエラーCGも単なる失敗とするのではなく、タナカ氏は自分には思いつかなかったイメージとして受け取っている。そして、新たな作品へのインスピレーションとしたり、エラーの再現やさらに助長する数値入力などを試すことで、自分の表現手法として昇華できるところがコンピュータの面白いところなのだと語った。

上記のような入力ミスやエラーも楽しめるようになったのは、ツール(アプリケーション)が進化してきた最近のこと。コンピュータやマルチメディアが注目され始めた黎明期は、ツールのインタフェースは英語で、マニュアルを読んでも理解できなかった。CGは一部の技術者やマニアのものであると、当時パソコンを購入しても作品制作にまで至らなかったとのこと。

それが今では、手書きでは考えられない数の複製が行えるコピー&ペーストや、待っているだけで作品ができ上がるレンダリングなどが誰にでも行え、さらにイメージを超えた作品を作り出すこともできる。ツールの進化とクリエイションの関係は時代とともに変化しており、ツールが進化し続ける限り、これからも変って行くのかもしれない。

水草水槽はCG作成と似ている?

冒頭部分でCGに関するツールの進化とクリエイションの関係を語ったタナカ氏は、水草水槽でも同じようなツールとクリエイションの関係や、ツールの進化による作品(アートとしての水草水槽)の変化を感じるのだと前置きして、水草水槽制作に関するエピソードを熱く語りはじめた。

水草水槽の世界を知らない参加者にも分かりやすく、また飽きないように楽しいトークを展開したため、セミナーの8割ほどが水草水槽の話であったが、要するに、水草水槽もCGと同様にツール(水槽や二酸化炭素添加装置など)の進化によって表現できる世界が広がり、水草の思わぬ成長がアプリケーションエラーのようにイメージを超えた作品へと繋がるのだという。

今後、ツールの進化によってクリエイションの可能性が広がるだけではなく、制作過程がさらに簡単となったり、絵を書くために数値入力が必要になったように、予想外の作業やスキルが必要になるかもしれない。水草水槽の世界でも同様の進化が見られたのだから、コンピュータを離れたクリエイションでもそれは同じだろう。どんな作品をクリエイションするにしろ、ツールを思い通りに使いこなすだけではなく、時にはツールと遊び、ツールに遊ばれてみるのも、新たな可能性や方向性を見いだすキッカケとなるはずだ。

クリエイターを対象にコンテンツ制作に取り組む上での様々なヒントとなるセミナーを開催する「アドビ システムズ×かわさきセミナー」では、第3弾として『AfterEffectsが広げるウェブクリエイターの可能性』の開催を9月7日に予定している。