Shureのヘッドホンというと、インイヤーモニターが有名だが、このところ、オーバーヘッドタイプにも力を入れている。そのフラッグシップとなるのが、13日に発売された「SRH940」だ。価格はオープンで、市場価格は2万7,000円前後。ハイエンドモデルではないが、、一般的なオーディオ用ヘッドホンの売れ筋よりは、かなり高価格帯に属する製品だ。

Shureのモニターヘッドホン「SRH940」

SRH940は、オーディオエンジニア/スタジオユーザー用のなどのプロ向けのモニターヘッドホンとされている。筆者はスタジオユーザーではないし、もちろんエンジニアでもないが、モニタータイプのヘッドホンのユーザーではある。モニターヘッドホンのサウンドは、音の定位、そして解像度に重点を置き、さらに、特定のジャンルに向けた装飾を行わないという特徴があるという印象を持っている。その反面、音の広がる範囲は狭くなりがちで、ライブ版のCDなどでは、どうしても臨場感が少なくなる傾向があり、さらに高域の伸びは少なく、低域の盛り上がりも欠けるように思う(これは古いモニター観かもしれないが)。さて、音楽リスニング用にはリスニング用のヘッドホンがあるのだが、そういったモニターヘッドホンを普通に音楽を聴くのに使用しているというユーザーも少なくはないだろう。それでは、Shureの最新モニターヘッドホンのSRH940は、そういった昔からのモニターヘッドホンと、どの程度異なっているのだろうか。数日間聞いてみた印象をお届けしたい。

同社のオーバーヘッドタイプのヘッドホンのフラッグシップモデルということもあり、製品は、なかなか豪華なケースに納められている。コードはストレートタイプとカールコードの2種類が付属する

コードの着脱部は、プラグとジャックの接続だけでなく、突起のかみ合わせで固定するタイプ

まずは製品の外観から。製品は、ソフトケースに納められている。コードは着脱式。ソフトケースには、ストレートタイプのコードとカールコード、プラグ変換アダプタ(3.5mmステレオミニ→6.3mmステレオ標準)が入っている。コード取り付け用のジャックはヘッドホンの左ハウジングに装備。プラグ/ジャックは2.5mmステレオミニミニタイプだが、固定はプラグとジャックだけで行われるのではなく、プラグとジャックの樹脂部分に設けられた突起のかみ合わせで固定するようになっており、2.5mmプラグ/ジャックの強度的な不安を減らしている。ハウジングは、完全に耳を被うタイプで、遮音性も高い。ノイズリダクションタイプではないが、かぶると外部の高域のノイズ(PCのファンの音など)が、ほぼ聞こえなくなる。外部のノイズを遮断する能力の高さは、モニターにとっては重要な性能の1つだ。側圧は、以前試聴したBOSEのon-earに比べるとかなり強く感じられる。ソニーのMDR-Z1000よりも若干強い。しかし、エレガのDR-592C2程ではない(DR-592C2は耳乗せタイプなので、また条件が変わってくるが)。いずれにせよ、SRH940は、最近のヘッドホンとしては、側圧は強めの部類に入るといえるだろう。ただし、耳を完全に覆うタイプであり、この程度ならば長時間のリスニングでも大丈夫そうだ。

ハウジングは完全に耳を覆うタイプで、イヤーパッドは比較的ソフト。表面はファブリック地

今回の試聴は、手持ちのスマートフォンHTCのAriaで、192kbpsのMP3形式のファイルを聞くという、貧弱な環境で行った。Ariaに搭載されているアンプの性能は、オーディオ用としてはあまりよろしくはなく、低価格なデジタルオーディオプレーヤーにも、ノイズや音量などの面で明らかにビハインドがある。そのような試聴環境ではあるが、大まかな音の傾向については、なんとか把握できるだろう(解像度やダイナミックレンジなどについては、まともなヘッドホンアンプと、非圧縮のソースを使用しないと、比較は難しいだろうが)。

とりあえず、普段聞いている音楽ファイルからいくつか試聴してみる。ボリュームは、50%ぐらいだ。この状態では、しっかりとした定位と、拡がり感を感じられるサウンドだ。センターがしっかり感じられるモニター的なサウンドではあるが、その中でも、拡がり感は感じられる。わかりにくい表現だが、全体的なバランスとしては、センター寄りなのだが、そこから離れた音像は正しく離れた場所にあり、それがセンターから離れているのが認識できる。その範囲は広めで、箱庭的な感じはしない。もちろん、音像の動きも分かりやすい。このボリュームで聞いた限りにおいては、余計な装飾を行わない正統的なモニターヘッドホンだが、音の拡がりに関しては、昔からのモニターヘッドホンに比べると、明らかに進歩しているようだ。音域は、中域を中心としたもので、高域や低域に極端な重み付けはされていない。低域の量に関しては抑え気味だが、ぼやけた感じのしない引き締まったものだ。また、高域のきらきら感も感じられるが、レベルは抑え気味で全体の邪魔にならないバランスだ。

さて、普通の音量で聞いている分には、現代的なモニターサウンドなのだが、続いて、筆者の耳が耐えられるマックスの音量まで(ボリュームの位置は90%ぐらい)音量を上げ、同じ曲目を聴いてみた。すると、50%の時に比べて、明らかに高域と低域が前に出てくるようになるのに気付かされる。それに対して、中域は、ボリュームの増加ほどには上がらない。50%のボリュームで聞いていたときと比べると、スイッチが入った状態というのか、ノリのよさすら感じる。しかし、出てくる音像の正確さには、変化はない。ライブ音源のややにぎやかシーンでも、全体的に音がやってくるというようなことはなく、それぞれの音の出所がはっきりとしているという点には変わりはない。

1本で2つの性格のサウンドが楽しめるモニターヘッドホン

どちらかというと、筆者はボリュームが50%ぐらいの時のバランスの方が好みではあるが、しばらく、このボリュームで聞いていると、次第に慣れてきたようで、これが当たり前のように感じられるようになってきた。リスニング用途で使用するのであれば、多少上げ気味の音量で聞いた方が、バランスとしては良いのではないだろうか。モニターの定位や解像度に興味がないわけではないが、正確なだけの音ではつまらないという人には、かなり薦められる1本だと思う。