『タネナシ。』(講談社刊)

おれは種なし―。ダイアモンド☆ユカイが自らの無精子症を赤裸々に告白した『タネナシ。』(講談社刊)が21日、発売される。

男性目線でこれまで語られることが少なかった不妊症。それを、ダイアモンド☆ユカイは自ら語ることで、不妊症で悩む人々をより広く励ませないかと立ち上がった。

なぜ、彼は不妊症に立ち向かおうと思ったのか。不妊症を告白することへの葛藤はなかったのか?マイコミジャーナル編集部はダイアモンド☆ユカイ(以下、ユカイ)にインタビューを敢行。ロックンローラーとして、パパとして、夫として。現在の心境について語ってもらった。

ユカイが自ら無精子症であると知ったのは、再婚後のこと。"たんぽぽ"のような大地に根付いた力強さと包容力を兼ね備えた妻と第二の人生を歩き始めた矢先のことだった。「正直な話……ウソだろって……目の前が真っ白になった」と言葉少なに話すユカイは、著書の中でこう綴っている。「男として不完全であるように思えて仕方なかった」と。

ユカイは非常に女性にモテた。著書の中でも数々の女性遍歴を語っている。ユカイはこれを"男としての自信を培う土台"と捉えていた。それが、無精子症の発覚でガラガラと崩れていったという。真っ白になった―。その言葉通り、ユカイの人生を根本から覆す出来事だったことは間違いない。「今までの自信が崩壊していく感じ。たとえるなら、自分はジャングルにいるヒョウやトラだと思っていたのに、鏡を見たら実はネコだったみたいな」。

ユカイが無精子症を告白していることをテレビや新聞で既に読んだ、という人も多いのではないだろうか。結論はハッピーエンド。長女が生まれ、11月には待望の第2子(しかも双子)が産まれる予定だ。とはいえ、その道のりは決して平たんではなかった。

無精子症にはいくつかあるが、ユカイの場合、精子の輸送路である精管に問題があって精子がうまく運ばれない「精管通過障害」。そこで、精巣生体検査をすると、精巣には元気な精子がいることが分かった。しかし、それは不妊治療のスタートラインに立っただけに過ぎなかった。

ユカイは静かに、そして真剣な眼差しで語る。「不妊治療は決して楽なものじゃない。男性より女性の方が壮絶」だと。2度にわたる不妊治療。「着床していませんでした」と医師に言われるたびに、夫婦の精神的重圧は重くのしかかり、金銭的な負担もより厳しさを増した。夫婦の関係にも亀裂が入り始めた。無精子症だと分かってから離婚の危機も2度迎えた。それでも夫婦はめげなかった。

三度目の正直。北九州で行った不妊治療でやっと妊娠することができた。夫婦が壮絶な不妊治療と向き合えた理由について、ユカイは「悔いを残さないため」だと力を込める。人生に悔いを残さない。どんな結果が待ち受けていようとも。ユカイは諦めたりしなかった。

妻の存在も大きかった。無精子症であることが判明した時、妻は優しい言葉をユカイにかけ、決して責めなかった。「不妊治療を通して分かりあえる部分が増えた。水と油のような存在だった男女が夫婦になっていった」と語るように、次第に絆は増していった。

長女が産まれた時、「信じられなかった。長女の顔を見ているだけで涙が出てきた」と振り返る。その一方で「僕たちは恵まれている方」と冷静に語る。「人生のシナリオは自分じゃ書けない。雲の上の誰かが書いているんじゃないかな。現状は3人の"ビッグダディ"になるシナリオになっているけれど、そうじゃなかったシナリオだってあり得ただろうね」。人生はまったく不思議なものだとユカイは笑う。

本を出版する際にはかなり逡巡したことを吐露した。「出版についてはかなり迷ったよ。自分も発表することに戸惑いもあったし、無精子症を告白することが、子どもの将来に悪い影響を与えないかって妻ともよく相談したね」。

きっかけは3月11日に起こった東日本大震災だった。テレビで、がれきの中から誕生した赤ちゃんのニュースを見た。「本当に命の尊さを感じさせられた」。明日の子どもたちが背負っていく日本のために何かしなくてはならないと考えた。「同じ境遇の人々に何かできることはないか、そう思ったんだ」。覚悟は決まった。妻とも相談し、出版することを決意した。

書籍の発売を発表、テレビや新聞などでユカイが無精子症であることを告白すると、ブログなどでコメントが寄せられた。「思ったより同じ境遇の人が、ブログに書きこんでくれた」。同じような悩みを抱えた人を勇気づけたい。ユカイの願いは着実に広がりつつある。

最後にユカイはこう語りかけた。「おれたちは、たまたま子供を授かったけれど、(不妊治療が)うまくいかない人も大勢いる。どちらが正しい、というわけではないと思うんだ。ひとつだけ言えるのは、とにかく悔いが残らない人生を過ごしてほしいということ」。そして、こう続けた。「不妊治療は50:50。男性と女性、どちらか一方の責任ではないんだよ。だから、経験者として思うのは、どうしても女性の負担が大きいから、男性はもっと積極的に協力しなければならないということ。男女が寄り添って初めて不妊治療は成り立つのだから」。