もう1つ、同社が扱うデータは、「医療情報システム間のISO-OSI第7層アプリケーション層」に由来する保健医療情報交換のための標準規格「HL7(Health Level Seven)」フォーマットに準拠した形で扱うことが可能な点が特徴となっている。このため、例えば、同じくHL7に対応する別のメーカーのシステムであっても、データの連携が可能となっている。実際、同展示会の同社ブースでは、NECのID Linkとの連携を紹介していた。

「当初は、医師側にもデータを病院同士でやり取りするという話を患者に話して良いかどうかの戸惑いがあったが、実際に地域医療の現場などで患者にそういった話をしてみると、逆に患者から、そこまでしてくれるのか、といって診療所などの信頼向上につながっている話を聞いている」とのことで、実際に同社の例ではないが、長崎地域医療連携ネットワークシステムによる「あじさいネット」では、2004年からそうした地域連携の模索を始め、2011年7月時点で約150医療機関が参加する成功例となっており、各所から注目を集めつつあるという。

「地域医療は、今まさに崩壊の危機を迎えつつある。医療費の負担もそうだが、看護師などの人材不足なども問題となってきている。電子カルテの活用は、導入コストなどもあり、医療費の劇的な削減にはつながらないかもしれないが、極端に医療費が増えることを抑制することができるほか、医師や看護師の余計な、本来の業務とは関係ない間接的な数値の入力などの負担を減らすことができる」という、間接的な負担軽減のメリットもある。診療支援ツールとしては、すでに100社程度の機器メーカーとの連携も果たしており、看護師の入寮業務の簡素化などを推進しているという。

今後、こうした機器や医療現場の連携が進むと、将来的には介護などの分野との連携も可能となるというが、それも「必要な情報が見れないと、地域での医療を維持することができない」ことに起因する。こうした考えの基盤となるのが、「最終的なデータは誰のものか」を考えた結果であるという。同社の考えとしては、カルテを書いた医師のものではなく、その患者に帰属するもの、との見方を示しており、「結局、カルテのあり方というよりも、医師と患者、地域としての人間関係があって、始めてこうした連携は成り立つ」と、人と人のつながりが重要であることを指摘する。

こうした取り組みに対し、政府も本腰を入れつつある。自由民主党政権下の2008年頃に、内閣府から、厚労省、経済産業省(経産省)、総務省の3省に対し、互いに連携をしつつ、電子カルテの活用とネットワーク化の推進を図るようにとの通達が出された。日本の役所というと、縦割り行政で、当該事業に対する利権をどこの省庁が獲得するかで争っているイメージがあるが、これに関しては、厚労省が医療機関内でのガイドラインを、総務省がネットワークのガイドラインを、経産省がデータセンターに関するガイドラインをそれぞれ打ち出しており、むしろ3省が一体化した形での取り組みとなっている。こうした横串の展開は、いかに国としても医療現場、特に地域の崩壊に対する危機意識があるかを示すものとも思われる。ちなみに、こうした取り組みは民主党が政権政党になって以降も、変わらずに進められているという。

筆者も個人的な意見を言わせていただくと、電子カルテのネットワーク連携が多くの診療所や病院で実現されれば、別々の診療所や病院で初診時に問診表に今飲んでいる薬や既往歴などを書くという手間は省けるようになるし、診断までの長い待ち時間を経て、医師と向き合った際に、これまでどういった治療を受けてきたか、処方箋はどういったものが用いられてきたかなどを知ってもらえると、(筆者は実は諸般の事情で錠剤を飲み込めない。そのため、錠剤と顆粒を選べるのであれば、顆粒を選ばせてもらうが、それを一々、あった医師一人ひとりに説明するのも面倒だし、錠剤しかない場合もあるわけで、それは噛み砕いても大丈夫なのかどうかの確認もまた、面倒なのである)もちろん出したくないデータもある人もいるだろうが、助かる面も多い。また、長い待ち時間を経てようやく診察が終わって、また会計も長い間待たされるということもたまにある。そうした診療所では、会計窓口の後ろで看護師が一生懸命、点数計算をしている姿が見られる訳だが、せめてレセプトだけでも電子化していただけると、その作業はしなくて済むようになり、看護師側も楽できるようになるのにと思えるし、会計の待ち時間も減らせるので患者側のメリットにもなると思える。

そうした医療機関の連携は、まさに患者と医療現場の絆が強くなければ、言い換えると患者が診療所の担当医師を信頼していなければ、実現することは難しい(誰も、見ず知らずの医師に自分の通院履歴などを知らせたいとは思わないはずだ)。同氏も、「医療現場と患者の絆を強くするために我々が努力していかなければいけない。今は機器同士の連携が主だが、それをベースに地域連携を実現する手助けをしていきたい。医師は患者に対して、こうした医療を提供したいという想いが強い。そうしたイメージに応えられるソリューションを提供していく努力をしていく」と、医師と患者双方にメリットがある医療現場の電子化に向けた取り組みを進めていくとするが、国としても、そうした連携を進展させていくための補助施策なども打ち出す必要があるとする。

すでに米国や中国、韓国などの諸外国も電子カルテ化が進められており、電子化が進むオランダでは98%に到達しているという話もある。これまで日本は同社のような機器メーカーが電子化を主導してきたが、先進医療による治療を受けに国外から日本に来る患者も徐々に増えてきていることを考えると、そうした海外の動きに追随する必要があるように思えてくる。同氏は日本もそうした動きに遅れることなくついていけるとの見方を示すものの、HL7対応などもまだ不十分で、よりよい電子カルテの活用が可能となるであろうと思われる「マイナンバー」(いわゆる国民総背番号制。2015年1月の導入を目指し、2011年秋の臨時国会に法案が提出される見込み)も、その運用に対するセキュリティや他人への成りすましリスクなどの観点から、医療現場で求められる運用が可能になるとは限らない、ということを考えると、まだ日本の医療現場の大半が電子カルテ化されるには時間がかかるのかもしれない。

電子カルテ市場の予測。歯科診療所はレセコン含む(出所:シード・プランニング 2010年版 電子カルテの市場動向調査。なお三洋電機は診療所向け電子カルテでは トップシェア)