医師・医学博士・経済学博士・日本内科学会認定専門医で多摩大学教授の真野俊樹先生

夏に向けて節電への意識が高まる中、熱中症への懸念が増している。熱中症というと屋外での対策に目がいきがちだが、日常生活において屋内で熱中症を発症した人も少なからずいるのが現状だ。電力不足における節電が課せられる今年の夏は要注意! 対策で冷房などの使用を控えたり、温度を高めに設定したりしている場合は、屋内でも十分な熱中症対策が望まれる。

17日、マンダリンオリエンタル東京にて日本コカ・コーラ主催のセミナー「アクエアリス Presents " 水より優れた水分補給"~『大切な家族を守る 水分補給セミナー』」で、医師・医学博士・経済学博士・日本内科学会認定専門医で多摩大学教授の真野俊樹先生が水分補給の観点からみた熱中症対策について講演したので、その内容を紹介しよう。

熱中症ってそもそも何?

真野先生によると、熱中症は「体内の水分やナトリウムなど電解質のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりするなどして発症する障害の総称」を指す。体の中と外の温度差によって、様々な体の不調が引き起こされるという。

熱中症にはいくつか分類がある。熱けいれん(発汗・塩分(ナトリウムなど)不足・脚や腕の筋肉のけいれん)、熱疲労(体温の上昇、脱水や塩分(ナトリウムなど)不足による頭痛や吐き気)、熱射病(体温の激しい上昇、意識障害、早急な手当、生命の危険)に分かれ、熱射病になると命の危険もある。ただし、予防法や応急処置を知っていれば、救命や予防が可能なので、がんや心臓発作ほど恐ろしい病気ではない。

熱中症は室内でも発症する!

それでは、どういう時に熱中症になりやすいのか。真野先生は、(1)気温が高い・湿度が高い、(2)風が弱い・日差しが強い-といった環境因子を挙げた。また、以下の症状が出ていたら、危険信号だと指摘している。

・通常より高い体温
・乾いた皮膚(全く汗をかかない)
・ズキンズキンとする頭痛
・めまい、吐き気
・意識障害

熱中症になりやすい人としては、(1)脱水気味の人、(2)高齢者、(3)過度の衣類を着ている人、(4)普段から運動をしていない人、(5)暑さに慣れていない人、(6)病気の人・体調の悪い人―を挙げた。

どういう場所で熱中症になりやすいか。「高温、多湿、風が弱い、熱を発生するものがあるなどの環境では、体から外気への熱放散が減少し、汗の蒸発も不十分となり、熱中症が発生しやすくなる」(真野先生)。たとえば、工事現場や運動場、体育館、一般の家庭の風呂場、機密性の高いビルやマンションの最上階などが危ないという。

今年は節電対策で冷房などの使用を控えたり、温度設定を高めにしたりすることが予測されるが、室内で熱中症になる可能性はあるのだろうか。「あります。日常生活における熱中症の発生状況は炎天下と屋内で実はあまり差はない」とのこと。今年は室内温度の28度設定が目標値となりそうだが、あくまで全体での話。「オフィスでも、パソコンやサーバのある場所、窓ガラスに近い場所などは28度より温度が高くなっていることもある。特に窓ガラス付近は、炎天下に近い状況になっていることもあるので注意が必要」と真野先生は警鐘を鳴らす。

参考資料 : 環境省「熱中症環境保健マニュアル2009」
「日本人の食事摂取基準」2010年版

水分補給は水だけでは不十分!?

実際に熱中症になってしまった場合、どうすればいいのだろう。真野先生は、(1)水分補給、(2)涼しい環境への避難と休息、(3)冷却、(4)医療機関への搬送―の順番で熱中症の手当てをすることを呼びかけた。水分補給としては「冷たい水やスポーツ飲料などを飲ませるとともに塩分を摂ることが必要。ただし、意識がなかったり、吐き気や嘔吐などがあったりする場合は水分補給を控えて」と呼びかけた。また、休息時には「衣類を緩め、水平位または上半身をやや高めに寝かせる。顔面が蒼白で脈が弱い時には脚を高くした体位にする」ことを指摘した。

肝心の水分補給だが、効率的に水分補給をするためには水分と共にナトリウムなど電解質と適度な糖分を摂ることが重要だと真野先生。「水だけ飲むと、体内の体液濃度が薄くなり、のどの渇きは止まるが濃度を回復するため尿や水っぽい汗などで水分を外に出そうとする。これを自発的脱水と呼ぶ」。このため、水だけ摂取していても体液が不足し、水分補給ができていない状況が続くという。

真野先生によると、1日に必要な水分量は約2.5L(一般成人の日常生活において)。1日のうち、呼吸や汗で1.2L、尿や便で1.3Lが失われてしまうからだ。そのため、飲料で大体1.2L(多くても構わないとのこと)、食事で1.0L、体内で作られる水0.3Lで計2.5Lを摂取することが望ましいとのこと。最後に真野先生は「水分補給には電解質と適度な糖分を含んだ飲料を補給して」と呼びかけていた。

参考資料 : 環境省「熱中症環境保健マニュアル2009」
「日本人の食事摂取基準」2010年版

節電対策も重要だが、そのために体調を壊してしまっては元も子もない。熱中症対策についてしっかり情報を得て、効果的な水分補給で夏を乗り越えたい。